魔術図書館の司書は女の子 1
最後のヒロイン登場です。
俺張飛は現在エーテルライトの図書館で………悶えていた。
股間を必死で抑え、脛、鳩尾、人中に走る痛みにも耐えきり、俺を怒りの眼差しで見下すフィリアを恐怖の想いを体中で受ける。
そんな俺の周りにはイリーナとエーフィーも居るのだが、それ以外にもう一人俺達を見ているひとりの少女がいる。
魔術図書館公認の秘書であり、俺と同じく魔術師の名を名乗る事を許された少女。齢十歳で魔術師になった女の子。
メリビット・パープル
薄紫色の長い髪を適当に伸ばし、背丈はフィリアと同じく低いが、フィリアが単純に背が低いだけという事だけに対し、メリビットは単純に幼いからである。
何せ彼女は十二歳。
片手に大きな辞書のような分厚さを誇る本を抱え、目つきは決して良いとは言えない。
「あの………図書館で騒がないでください」
困惑しているような声であるが、メリビットの表情は無表情。
基本的に感情の上下の無い彼女、二年前の魔術師承認式で初めて会ってから二年が経つがまるで変化が見られない。
先ほどからフィリアが俺を頭ごなしに叱っているのだが、俺からすれば全く身に覚えのない事で叱られている。
エーフィーは吹けもしないのに口笛を吹くふりをして、イリーナは困惑するばかりで全く何もできずにいる。
そもそもどうしてこんなことになったのか言うと、話はあの謎の空間から脱出してすぐイリーナの母親と出会った所から語るべきだろう。
三時間前の午後十三時。王城内の個室にて。
ふかふかのベットの上で目を覚まし、部屋中を見回すと先ほどと違って窓から差し込む太陽の温かさに再び眠気を覚えてしまう。
もう一度寝てもいいかもなぁ。
そう思いベットに倒れてしまう。
「今寝られたら当分起きられないのではありませんか?」
突然に駆けられる声に俺は驚いて体を起こす。
そこには四十台ほどの女性、綺麗で透き通るような長い髪を後ろで綺麗に束ね、細い目の奥からは慈愛すら感じるほど。
「えっと………」
「私はイリーナの母でございます」
イリーナの母親という事は王妃という事になる。
俺は急いで立ち上がり頭を静かに下げた。
「良いのですよ。それに謝るのは私の方です。どうやら私達一族が作った仕組みがあなた達を襲ったようですね。申し訳ありません」
彼女は椅子に座ったままの状態で頭を下げる。
俺としてはその『仕組み』という話が気になって仕方がないのだが、どうやら先ほど感じた奇妙な空間の正体をこの人が教えてくれるのだろう。
俺はベットから足だけを出し、彼女に向き合う。
「あなたが訪れたあの空間は、転生者が一定の条件を満たした状態で王城の広場を訪れると解放される空間です。きっとあなたが予想された通り、あそこは『干渉』の力が働いています」
そこは予想できた。
対象の記憶に干渉しそこから重要な記憶を媒体にして場を形成する。
「その通りです。転生者の強い思いや記憶。分かりやすく言えば『前世の願い』を媒体にして形成し、『前世の願い』を掘り起こし攻め立てる。これは転生者が国にあだ名す可能性が高いために使われている術式です」
「という事はこの街全てが術式の基礎という事ですか?」
「そうです。街を上空から見れば魔術の刻印が見えるはずですよ。ですが、こうやって自力で出てこれた方は大きく分けて二種類。『前世の願い』を克服したか、屈服し『闇』に取り込まれ始めたかです」
『闇』とは?
「『闇』とは転生者が前世の願いに屈した際に生じる裏の姿とでも思ってください。心が深く沈んでいき、いずれは………消滅します」
「俺はあのまま屈していたら?」
「闇に沈んでいったことでしょう。しかし、あなたは乗り越えた。よっぽどこの世界に大切な何かをを見出したのですね。それを大切にすることです」
俺は照れくさくなり頭を掻いて誤魔化そうとする。
イリーナの母親は微笑んで口元を右手で覆う。
「あの………『アマリー・レイ』についてなんですけど」
俺が本題に切り替えようとすると、彼女は「やはりその話でしたか」というような表情に変わる。
「あなたの予想通り、彼女も転生者です。最もあなたの時代とはまるで時代が違うでしょう」
「俺の時代を知っているみたいなそぶり………ですね」
「知っていますよ。今のあなたよりは知っているかもしれませんね。私個人が言える範疇は限られています。どうしても知りたければエーテルライトの魔術図書館に行きなさい。あそこの司書ならば向こうの世界の歴史を知ることが出来るでしょう」
奇妙な話をしている気がする。
まるでもう一つの世界を知っているみたいなそぶりだが。
「知っていますよ。あなたを含めた転生者は『西暦』と呼ばれる世界からこの世界に来ています。しかし、全ての人間が転生者としてこの世界に来るわけではありません。条件は『西暦世界で歴史に名を遺すような人間』が対象です。その中でも死に際に後悔している者が選ばれやすいといわれています」
俺もその一人というわけか。
「アマリー・レイもその一人だと?」
「ええ、私は知っています。最もそれをイリーナに話せばあの子が傷つくという事もね。だから出来るなら話さないでいたい」
「だったら探すうえでのヒントをください!何かあるんでしょう!?」
「『十九世紀末』それがアマリー・レイが活躍していた時期です。最も彼女の名前も本名ではありません。私に語ることが出来るのはそれだけです」
十九世紀末にアマリー・レイの前世が活躍していたという事か?
「活躍というのは正しいかもしれません。最もあなたのように華々しく活躍していたわけではありません。そういう意味ではあなたと似ているようで全く違う立場と言えるでしょう」
「あんたが俺の何を知っているんだ?」
「知っていますよ。『蜀』と呼ばれている国の将軍、その武勇は歴史に名を残すほどです」
そう言われてしまうとなんかそんな気がするが、どうもドンドン記憶があいまいになっていく気がしてならない。
「その様子だと記憶が曖昧なのでしょう。これからドンドン記憶が曖昧になっていきますよ。最終的には前世の事は思い出せなくなっていきます」
まあそれについては別にいいのだが。
問題はアマリー・レイだろう。
彼女が俺と似ていて、同時に全く違うとはどういうことだ?
「それは自力で知る事が大事です。私が教えられることはそれが全てです」
ならそれ以上は聞こうとも思わない。
俺は立ち上がりイリーナの母親にお礼を言う為に頭を下げる。
「お礼ならよいです。アマリーの事どうかよろしくお願いしますね。イリーナの事も。あの子の望むままに進むことが全てです」
「それはそうするつもりです。私はイリーナにとってアルバイト先のマスターであり、アパートの管理人です」
イリーナの母親は口元を押さえながら再び微笑む。
「フフ。それは楽しそうな場所ですね。もし機会さえあれば私もお茶をさせてもらいに行きたいです」
回想終わり。
では明日です!ではでは!




