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この世界に私はいますか? 4

張飛エピソードの終わりです。

 目を覚ますと目の前にフィリアの小さな小顔が心配そうな表情と共にあり、自分に置かれた状態を認識することに苦難してしまう張飛。

 牢獄のような場所に自分が捕らわれていたという情報、フィリアが目の前にいる状況を少しずつ解釈していき最終的に自分の方が捕らわれていたと認識できた。


「悪かったな。お前を救おうとしてこのざまだ」

「ううん、オジサンにまた逢えて良かった」


 張飛の体を思いっ切りしがみ付き、温かさを堪能しているフィリア。

 張飛はそんなフィリアの頭を優しく撫でてやり、ほんの少しの時間を過ごすと、二人で一緒に牢獄を出ていく。

 フィリアは一通り自分の推測を話し終え、張飛はボロ布の汚れを落としながら考え込む。


(あれが劉備?全く似ていなかったが……しかし、フィリアが嘘を言うとは思えないし、相手の反応を知る限り決して的外れでもなさそうだ)


 張飛がしる劉備の面影をあまり感じないのも事実で、すんなり鵜呑みにできない。

 そんな気持ちが表情に出て居たのだろう。張飛は考え込む姿を心配している。


「私の推測違う?」

「いや、的外れじゃねぇだろ。でも……俺の知る劉備の姿でもねぇんだよなぁ。まあ小さい頃の劉備を知らねぇから何とも言えねぇけどよぉ」


 腕組みをしながら考え込み、必死で脳内の記憶を思い出そうとするがふとしたことを切っ掛けに劉備などの昔の記憶が思い出せずにいる事に気が付いた。


(思い出せない?いや、まるでモザイクやフィルターが掛かっているような感じで鮮明には思い出せない)


 どういう事態なのか、これは異常事態なのではないのか………なんてことが脳裏を過りどうしても冷静な判断が下せそうにない。

 フィリアと一緒に廊下で出ていき、彼女の言う通り徘徊している兵士と蜂会う。

 フィリアを後ろに隠し、矛を召喚し兵士に向けて構える。

「オジサンあの兵士って………」

「ああ、俺の時代の兵士………だと思う」


 そう思う。

(記憶がはっきりしねぇ。昨日の記憶や、この世界で過ごしてきた記憶はハッキリしているのに、前世の記憶がまるではっきりしねぇ)

 どうしても思い出せず、曖昧にしか返事が出来ないことが正直歯がゆい。

 兵士は銅製の丈の短い両刃剣を持ち上げ、人形のようにおぼつかない足取りで近づいてくる。

 矛をつついただけで倒れそうな兵士に張飛は力一杯突く。

 案の定兵士は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。


「まるで人形みたい」

「というより心が無いんだろうな。思考することも無く、ただ命じられた行動だけをとるんだろうな。でも、気を付けろ」


 脇にフィリアを抱きしめながら歩き出す。

 奥に向かうべきか、他の二人を回収しに行くべきかと悩むが、反対側の奥から確かに感じる悪意。

 それはまるでどす黒いオーラのように思え、今直ぐどうにかした方が良いという認識が二人の脳裏を過る。


「フィリア。俺は前に進みたい。それでいいか?」

「うん。私も前に進んだ方が良い気がする」


 二人で見えない悪意に向かって歩き出す、長い廊下と迫りくる兵士を張飛は撃退しながら迷路のような道をひたすら前に進んで行く。

 しかし、悪意に近づいていく反面先ほどからゴールが見えないのも事実。

「ここは誰かの場所?」

「かもしれねぇな。でも、魔術で作った空間の可能性が高いな。でも、これだけの高度な構築を出来る何て既に達人クラスのバケモンだぞ。さすがに俺でも勝てる気がしねぇ」

「オジサンの『拒絶』でも消せない」

「無理だな。あれは消す対象が大きければ大きいほど使う体力が多くなる。こんな城並みの大きさは無理だ」

 『拒絶』も『創造』も対象の大きさによって消費する体力が違ってくる。


 強力な力故に代償も大きい。

 本来この二つを習得すること自体が難しく、張飛のように優れた人間だからこそ習得できたというのはある。


「この力も『創造』?」

「いや、違うな。作っているわけじゃない。『構築』かもしくは『干渉』かもな。異次元を構築したのか、人の精神に干渉したのか。先ほどまでの俺の状態から見れば『干渉』の可能性が高いが」

 異次元や場所を一時的に『構築』する力と、様々な物質や対象となる人間や動物に『干渉』する力。

 どちらも『創造』や『拒絶』同様非常に習得が困難な魔術であり、張飛にはその両方を習得した魔術師なんて想像もしたくない。


「もしかしたらこれは場の力って奴なのかもな。昔婆に聞いたことがある。城なんかの特別な場所には特別な力が働くことがあるとか」

(それならこれだけ高度な力にも納得いくしな)

「案外俺達は既に城の主からの歓迎を受けているのかもしれない。ならあの子供の正体にも想像できる」


 そう言いながら一番奥の大きなドアへと辿り着いた。

「間違いないな。この奥から確かに感じる」

「うん。いるよ……この奥に」

 二人でゆっくりとドアを開けると視界いっぱいに広がる大広間、階段を挟んで上に玉座のような高貴な椅子が一つだけ用意されており、その椅子に張飛が見たあの少年が据わっている。


「お前………」

「やあ、ここまで来たかい。ここまで来ると思い出すだろ?」

 正直に言えば全く思い出せないし、ここが多少の懐かしさこそ感じるがそれでも張飛は無表情しか作れなかった。

「お前…誰なんだ?俺はお前を知らねぇ」

「そうだよね。君が仕えた前の君主何てそれぐらいの認識なんだろ」

「お前は本当に劉備か?もっと……」

 言葉にできない思いが胸までやってくるが、それでも張飛は目の前の少年を前にしてどうしても他人のように思える。


(だめだ。全く思い出せないし、それに劉備の面影はありそうな気がするけどよぉ。でも、やっぱり別人な気がするんだよなぁ)


 必死で記憶を探るが、それでも思い出すのはこの世界に来てからの記憶ばかり。

「オジサンに似てる」

 フィリアの何気ない一言を受け、ジッと見つめてみるがそう言われればというレベルで、正直それも曖昧だというのが本音。

「なんか………」

 思い出せない記憶を探ることで思い出せるとはまるで思えない。

 しかし、張飛にはそれ以上に恐ろしいことがある。

 思い出せば、自分が昔に依存すればそれこそ自分は『闇』に堕ちるだろう。


(あっ!そうか………それが『闇』が作られる条件だったのか。俺も全員が誤解していた『闇』が出来る条件)


「お前俺の『闇』なんだな。正確には俺の前世の願いが具現化した姿。ここで俺が無理矢理にでも思い出せばお前に飲まれる。そうだろ?だからお前は俺に昔を思い出してほしかったんだろ?」


 少年は苛立ちを募らせる。

「だったらどうして子供なの?」

「俺の昔の幼稚さだな。俺は前世では幼稚だったという事だろうさ」

(だからこその少年の姿だな。最も劉備の姿を取っているのは俺を攻め立てるのに自分の姿では弱いからだな)

 改めて向き合う。

「『闇』もまた『転生者』が辿り着く末路の一つなのだろうな。最も出来方にこの国が関わっているみたいだし、もしかしたら『アマリー・レイ』の事も聞けば分かるかもな」

 少年は立ち上がり苛立ちを張飛の方に向けるが、張飛はあえて無防備な状態で近づいていく。

 少年が武器を捜すように周囲をキョロキョロと見回すが、こんな広いだけの部屋で武器何て見つかるはずがない。


「俺はもう昔に戻るつもりは無い」

「だった俺はもういらないのか!?もう劉備に使えないのか!?」

「ああ、俺はフィリアやあいつらを守る。俺はもう将軍でもなければ………武人でもない。魔術師であり喫茶店のマスターだ」


 少年前に立ち。

 視線を合わせながら真剣な面持ちで語り掛ける。


「俺は今それだけでいいんだよ」


 少年は小さな声で「今幸せ?」と尋ねてくる。

 張飛は苦笑しながら「ああ」と呟く。

「今めっちゃ幸せだぜ!」


次回は新キャラクター登場回です。では!明日!

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