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この世界に私はいますか? 3

少し書き方が変わっています。

 フィリアは個室で目を覚ました。

 豪華な内装、本棚の本もどことなく難しそうな外見をしており、フィリアは自分の体を起こすと同時に背中に柔らかい感触を得た。

 それがフカフカのベットなのだと分かったのは三十秒ほど経ったのちのことである。

 なぜ自分がこんな部屋のベットに倒れているのか、どういう経緯があったのかなんてよく分からない。

 他のベットは合計で二つ。

 それぞれ一緒にこの街に来たイリーナ達が寝ているのだが、張飛だけがこの場所にいない。

 張飛を捜そうと起き上がり、この部屋から出ることが出来る唯一のドアに手を掛けるが中々開かない。

 彼女は自分の魔術である『腐食』を使ってドアのカギを破壊し、そのまま外まで出ていく。

 廊下も豪華な内装をしており、レットカーペットが床に惹かれている様はどこかのお城の中という風貌である。

 フィリアはコソコソしながら歩き出し、適当に廊下を歩いていると同じように廊下を歩いている見慣れない鉄製の上下服を着た兵士。

 咄嗟に物陰に隠れてしまうが、よく考えるとここがどこなのか分からない以上助けを求めるのは一個の手かもしれない。

 なんて考えたが、兵士の顔を確認した際の目は普通の人間の目ではなかった。

 なんというかマリオネットなんだと教わればそのまま信じてしまいそう。

 見慣れない鎧服なのだが、少なくともフィリアが過ごしてきたこの国の服装ではない。

 しかし、場所は間違いなくこの世界に存在するお城を模しているが、これだけの広さの廊下に全く窓が無いというのは明らかにおかしい。


 そう窓が無いのだ。


 全くない。

 外と完全に隔離された場所。


「私達閉じ込められた?」

 それが素直なフィリアの感想で、歩き回っている兵士たちに見つかればどんな扱いを受けるかなんて目に見えて明らかだった。


「君はどうしてあの男と一緒に居るんだい?」


 見知らぬ声が確かに聞こえてきた。

 それがどこからするのか、それが自分を指すのかなんて分からなかった。

 でも、なんとなく声の主が自分を指していると考えるフィリア。


「意味わからない」


 フィリアには何を言っているのか、だれを指しているのかなんて全く分からなかった。

「君は張飛と一緒にいるだろう?何故彼を慕い、何故彼と一緒に生きるんだい?」


「好きだから」


 フィリアには悩むことすらない。

 初めて出会ったその時から張飛が好きだといえる。

 自分の風貌に悩む姿、優しく厳しく接してくれる姿、お祖母ちゃんに怒られながらも決してめげなかった心。その全てが大好きだと。


「分からないな。あんな男のどこを好きになる?」

「どうしてあなたはオジサンを嫌いなの?」

「嫌い?どうして?」

「だって………そういう聞き方をするって事は、オジサンが嫌いって事でしょ?」


 フィリアこそどうしてこの声の主がそこまでして張飛を嫌うのか全く理解できなかった。

「君は知らないんだよ。彼がどれだけ酷い事をしてきたのか、教えてあげるよ」


 目の前の景色が変わり始める。

 それは先ほどとはまた違った意味で豪華な場所、そこを髭ずらの大柄の男が如何にも不機嫌そうな表情で歩いている。

「彼は武術の腕前では間違いなく最強の一人だった。しかし、短気で喧嘩早く、血が上りやすい欠点があった」

 そこまで言われると前の前で歩いている大柄の男が張飛なのだと理解できる。

「それ故に彼を憎む者達は後を絶えず、彼は結果から見て殺された。暗殺されたんだ。あれだけ君主から咎められたにもかかわらず」


 乱暴で直ぐに相手に手を挙げる人間。それが張飛の本質。

「それでも君は彼が好きなのかい?」


「うん。好き。オジサン意外と一緒に居ても楽しくないもん。この世界の全ての人がオジサンを嫌っても私はオジサンが大好き」


 全く変わらない好意を張飛に向けるフィリア。

 明らかに怒りを滲ませる声の主。

「分からない。どうしてあんな男に好意を向けるんだ?あれだけ好き勝手やりたい放題やりつくした男を!」

「だって後悔していたもん。好き勝手やり過ぎたことを、多くの人を殺したことを後悔してた。だからオジサンはこの世界ではなるべく人を殺さないって誓いを立てた」


 フィリアに、何より救ってくれたお祖母ちゃんに立てた。

「でも、私はあなたの正体が分かったよ。オジサンが時折悪夢にさいなまれるときふと口に出していた言葉があった。それは名前だった」


 声の主にフィリアは多少の怒りを滲ませる声で告げる。

 フィリアは許せなかった。

 今の張飛を知らないで、文句を言う目の前にいる声の主をどうしても許せなかった。


「あなたの正体は『劉備りゅうび』でしょ?かつてのオジサンの君主。だからあなたは『やりたい放題した』事を怒ったんでしょ?」

「………」


 黙り込むこの主を前にフィリアは歩き出す。

 これ以上話したくないし、それ以上に張飛に会いたいという気持ちがどうしても強くなっていく。

 兵士に隠れながら適当に部屋を一つ一つ丁寧に探していく。

 どうしても今会いたいという気持ちがどんどん膨れ上がっていく。


「どこにいるの?早く会いたい」


 十個目のドアをゆっくりと開け、ドアの隙間から確かな光が漏れる。

 フィリアがゆっくりとドアを開けるとそこは石を積み上げて造られたような牢獄が左右に続く廊下。

 フィリアには間違いないという確信を得た。

 この奥に張飛はいる。


 左右の牢獄はベットすら存在しない質素な牢獄、手錠や足枷が壁と床から伸びており、尿意をするような場所すらない。

 こんな部屋で数日でも過ごせばフィリアからすれば気がおかしくなるだろう。

 そして一番奥の牢獄。

 そこに張飛はいた。

 両足には足枷が、両腕は壁に強引に貼り付けになっている。

 しかし、張飛自身の姿はまるで囚人を思わせるようなボロボロの布で作られた上下の服。

 少なくとも現実で張飛自身が来ていたような服ではない、ここが現実ではないというのがフィリアの予想だった。

 鍵の掛かった牢獄のドアを『腐食』で破壊する。

 この瞬間だけは自分の魔術が『腐食』で良かったと思えた。


「オジサン助けに来たよ。一緒にここを出ようよ」


 抱きしめる。

 全く起きようとしない張飛は時折うなされており、苦しそうにしていた。

 目を覚まさせる手段何てフィリアにはいくらでもあった。

 この数年一緒に過ごし、一緒に暮らしてきたからこそ分かる事。

 思い出すことはどれもフィリアには大切な思い出だった。


「起きて。おじさん」

 フィリアは張飛の唇に自分の唇を重ねる。


 張飛はボロボロだった。

 国王は先ほどから見たことも無いような攻撃を繰り出し、その攻撃が全く捌き切れない。

 正直勝ち目が無いというのが本心。

「諦めたたまえ。君では勝てないのだよ」

「なんで俺の弱点を知ってんだよ………」

 先ほどから張飛の弱点を突くような攻撃、まるで自分の事なんてよく知っているといわんばかりの行動。

 何故こうまで行動が読まれるのかが分からない。

「分かるよ。君の事はどこまでもね。頭が良い癖に本能で戦おうとする。実は優秀なのに短気で血が上りやすいのが玉に瑕」

「なっ!?どうして……」

「本質なんて簡単に変わらないんだよ。君の本質は其処にあるんだよ。きっといずれは彼女だって」

「違う!俺は………俺にとってフィリアは!?」

 国王は張飛喉に手を掛け、ゆっくりと万力のような力で締め上げていく。

 抵抗できないぐらい疲れ切っている。

「俺………は、俺は………」

「惨酷だよ。君は自分の過去を自分の罪から逃げて自分だけが幸せになろうなんて許されないのさ」


(その通りだ。俺は許されないことをしたんだ………今更幸せ何て)


 心が負けそうになる中、まるで天使が手を刺し伸ばすように周囲が明るい光で包まれた。


(ここにいるよ。おじさんの側にいるよ。私はここにいるよ)


 大好きな声で、大好きな人の声が聞えてきた。


 その光に手を伸ばし声を絞り出す。


「俺は………ここに居てもいいのか?」


では明日。ではでは!

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