表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

この世界に私はいますか? 1

張飛エピソード開始です。

 フィリアの一日は張飛の部屋に忍び込むところから始まる。

 ベットの上にだらしなく寝る張飛の隣に寝っ転がり、スヤスヤと眠るのが彼女の毎日なのである。しかし、この日だけは違った。

 寝室で本来は寝ているはずの張飛はいなかった。

 金曜日の夕方、張飛はある用事から王都に出かけておりいつ帰ってくるのかも分かっていない。

 仕事をしている最中もフィリアはどこか上の空でずっと落ち着かない様子であった。

 仕事をしているときも常にあった魔の中には張飛をイメージして、周囲に心配させていたりする。

 追いかけていきたいという想いと、張飛から「仕事をしていなさい」という言いつけを守らなければという想いがせめぎ合っている。

 上の空でどうしても仕事が手につかない時だった。

 元マスターのお祖母ちゃんが帰還を果たした。

「気になるならあんた達で追いかけてきたらどうだい?そっちのお嬢さんは王都出身なんだろ?どうせ張飛の目的は王様に会う事じゃないかい」

 強引に仕事を引き継いだお祖母ちゃんに背を押されるままにフィリア達は元気よく出ていった。

 そして、数分後には列車で王都を目指していた。


 エーテルライト駅の王都行特急に乗り込むためそれぞれが列車のチケットをもってホーム周辺をウロウロしている。

 エーフィーが先頭に立ち、フィリアとイリーナが後ろについて回っており広々とした駅のホームを三人で歩いている。

 張飛追う為の旅でもある。

 古臭さと真新しさを混ぜたような形に濃いめの青と金色でデザインされている列車は王都とエーテルライトを結ぶ列車だ。

 途中下車の無い特急列車で、王都から仕事に来る人が多く、この国で一番目立つ列車だといえるだろう。

 実際乗り降りが一番多い列車だけあり、人が降りるのにも時間が掛かってしまう。

 降りてくるのを待っていると、ようやくの想いで多くの人込みに押される形でもみくちゃになりながら列車の中に入っていく。

 追い込まれるように三人は四人で一つの個室を見付ける為列車内を散策していく、すると前の方ではあったが一つ完全な個室を見るけだしその中へと入っていく。

 フィリアはエーフィーに荷物を挙げてもらい、左側にエーフィーとフィリア、右側にイリーナが据わると同時に列車が急遽動き出す。

「動き出す………」

 フィリアは初めてこの街で出ていくことになる。

 こんな大きな列車に乗ること自体存在しないフィリアからすればすべての行動がドキドキで溢れている。

 追いかけるという行為もフィリアには自分の心を高める道具にしかならない。


 イリーナは困惑のままに列車の自らの席で目の前に広がっているお菓子の類に手を伸ばす。

 フィリアは携帯を弄りながら張飛へと「今そっちに向かっています」という簡単なメッセージを送るが、張飛からのメッセージは帰ってこない。元気な大学生であるエーフィーは明るい髪を整えながら「田舎者だって思われないか不安っス」と呟いでばかり。

 三人としてまさかこんな形で王都を目指すことになるとは思わなかったし、ましてやイリーナからすれば出ていくために訪れた街を離れるとは夢に思わなかった。

「イリーナは喫茶店にいても良かったのに」

「いえ……かといって王都に行くのに私が案内しないわけには………それに、私はお父様に話があるから」

「それって先日に襲われた事件っスか?」

「はい。張飛様はアマリーに似た人だったと言っていましたし、それに………お父様が言いよどむ理由や『闇』という言葉をもっと良く知りたいので」

 張飛は何を知っているのか、『闇』や『影』とは結局でなんなのか。アマリーがエーフィーを襲ったのか?もしかして自分が帰らないことをそんなにも気にしているのか?それとももっと別の目的があるのか。

 イリーナ自身も確認したいという気持ち、同時に胸の奥に込み上げてくる感情は不安と恐怖だった。

 知りたくない。

 震える体を何とか抑えながら窓の外の風景に目を逸らす。

 木々や畑、家がまばらに見えてくる。少しずつ家が増えていくのが分かると少しずつ王都に近づいているのだとはっきり分かる。

 窓の外の風景はちょっとずつ王都の街中へと入っていき、あっという間に王都駅へと辿り着く。


 張飛は王都ののどかな空気と広々とした街並み、古くから存在する白と黄色を混ぜたような色合いは決して嫌いじゃないが、もっと言えば好きでもない。

 しかし、この街に来るとどうして身を引き締めてしまうのは目の前に立っている王城の存在感だからだろう。

 縦に長く作られた城とは思えないビルがこの街の中心だとは思えず、張飛が初めてこの街に来た時は面食らってしまったぐらいである。

 王都イーゼンブルグの駅から真直ぐ川を挟んで真直ぐ伸びるゴルグ通りはこの街の目印と言えるだろう。

 今からの目的地はハッキリしている。

 王都にいるはずの王に面談を申し込んでおり、今日の昼過ぎに会いに行く予定になっている。

 取り敢えず腹が減ってしまったと近くの喫茶店に入りコーヒーとサンドイッチのモーニングセットを頼む。

 オープンカフェの一番端で座りながら注文したセットが来るのを待っていると、携帯のバイブレーション機能が張飛にメッセージが送られてきたと教えてくれる。

「なんなんだ?」

『今そっちに向かってます』

 一瞬思考を停止してしまい、目の前に書いてあるメッセージの意味を把握するのに時間が掛かってしまう。意味が分からず何度も画面を見比べて目の前に置かれたコーヒーとサンドイッチに手を伸ばす暇もなく脳裏にたった一人送り込みそうな人物が現れた。

 本能に従いその人物へと通話ボタンを押すと3コール目でその人が出てきた。

「おい!婆!フィリアからおかしなメッセージが来たんだが?あんた今どこにいるんだ?」

「喫茶店で仕事をしておるよ。フィリアがどうしてもお前さんの事が気になると言っての」

 頭を痛くしながらも張飛は理由を一旦聞き終えるとそのまま頭を左右に振り、同時に震えるような声を絞り出す。

「………なんでだ?」

「仕方なかろう?フィリアがお前さんを気にしていたんじゃからな。お前さんの仕事にはフィリアの面倒も含めていたはずじゃが?」

「今は魔術師としての仕事があるんだぞ?」

「同時にこなせばいいじゃろうに」

 勝手な事を言うフィリアの祖母は勝手なことを言ってそのまま話半分で切ってしまった。

 頭を痛くさせながらも張飛は抵抗しても無駄だと思いそのままコーヒーに手を伸ばす。

「どうせここにいたら出てくるだろ」

 完全に諦めた口調で張飛は朝食に手を伸ばす。

 この国が抱えているモノが今回の事件を引き起こしたのではないかと言う予想との答え合わせの為に。

 もし答え合わせが合うのならこの国はとんでもない闇を抱えている事になるのだから。


明日更新です。では。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ