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張飛は魔術師になりました 1

LINEノベルで掲載している小説を一日一話で掲載します。

 腹部刺さったナイフに視線を下ろし、目の前にいる男の瞳に怒りと焦りがにじませているのが見て取れる。ナイフからは血が溢れ出ていき全身の力が無くなっていく。

 ああ。死ぬのか。こんなくだらない結果で。

 嫌だな。

 後悔しか存在しない。俺様はこんな所でで死んでしまう。

 全身の力が痛みと共に抜けていくと、視界に何かが映った。

「やり直したい?」

 青髪の少年が割り込んできた。喋れない。

 誰だこいつ。

「君の望みを差し出しなよ。そうすれば君に二度目の人生を与えてあげるよ」

 望み?そんなのは『あの人』を皇帝にすること……。

「そっか。なら君に二度目の人生を与えてあげるよ。その代り君の望みは永遠にかなわないけどね」

 はぁ?何の話だよ。

 視界が反転し、上下左右が分からない感覚が激しい酔いに変わると、俺………張飛は全身を激しく打ち付けた感覚に襲われた。

「クソ!あのガキぶっ殺してやるよ!ってあ?声が出せる?それにこの感じ………若がってやが…?」

 周囲には見慣れない建物。鮮やかな色彩の建物に見慣れぬ服を着た人々、そこには見知らぬ文化がある。

 自分の肉体に視線を下ろし、今より若い肉体なのがよく分かる。近くの窓ガラスに近づき姿を見る。濃い緑色の質素な上下の服を着こんでいるが、十八の自分がそこに入る。

 正直カッコイイとは言えない自分。

 一番強かった頃だろう。

「なんなんだ……?どうなってやがる」

 混乱と共に再び視界が反転する。


 目が覚めた。

 木でできた天井を見上げ、ベットの柔らかい感触を背中に受けながら起き上がろうと全身に力を籠める。途端左腕が引っ張られる感触に襲われるとそちらの方へと目が向いてしまう。

 銀髪の髪をベットに張り巡らせ、幼い顔に幼い体つきは彼女が十六だとは思わせず、ぶかぶかのパジャマは先月俺が買ってやったもので、本人は「成長期だから大丈夫」などと言っていた。十六にもなって成長期もくそもないだろうに。

 フィリア・アルナード

 俺が住んでいる喫茶店兼アパート『ファンシーキャット』の前マスターの孫娘。俺がここのマスターを引き受けて以降は俺が面倒を見ているのだが、どうにも夜中に徘徊しては俺のベットに入ってくる。

「おい。いい加減起きろ」

 軽く揺さぶって起こそうとするのだが、全く起きる気配がない。

 小さく「ううん」などと言っている。揺さぶって起きないのなら。

 掌に洗濯ばさみを『創造』しそれを鼻にはさんでやる。

「ひゃい!?」

 痛みで目を覚まし、俺は洗濯ばさみを『拒絶』で消滅させる。

 魔術。この世界では当たり前の『未知の力』にすっかり慣れてしまい、この喫茶店のマスターになる為に必死になって『A級魔術師』資格を得ることが出来た。

 『A級魔術師』の作る洗濯ばさみの前に睡魔は打ち負けそのままフィリアはゆっくりと目を覚ます。

「おはようごじゃいます。おじさん」

「おはようございます。フィリアさんや、どうして俺のベットで寝ているのかね?」

「?どうして?」

「知るか。俺が聞いているんだ。質問に質問で返すんじゃない」

 目がショボショボしているせいで未だに完全覚醒までいっていないようで、ベットに入っていく過程が聞き取れない。

「全く。これじゃ部屋を別にしている意味がないだろうに」

「おじさんが鍵かけないんだもん」

「俺責任みたいに言うんじぇねぇ。鍵は先月お前が魔術で壊したんだろ?」

「そうだっけ?」

「そうだよ。お前が魔術の練習だって言って俺のドアの金具を『腐食』して錆びさせたんだろ?」

 ドアノブが壊れなかっただけでもラッキーなんだろうが、鍵を掛けられないので毎日侵入される。

 いい加減買い直すべきなんだろうが、喫茶店の経営が忙しいのも事実。

 あの婆から去年から引き受けた経営。うまくいっている反面忙しい。

「もういいからベットから出ていけ」

「はぁい」


 魔術師。

 魔術師協会が定める魔術を扱う事の出来る人間で、Dランクから最大のSランクまで存在し、俺はSランクの一歩前のAランク。

 魔術は元々特異な分野が存在し、俺は物質を作り出す『創造』と現象や事象などを無に帰す『拒絶』の二つだ。

 特に難しい二つを覚えたのは才能……ではない。恥ずかしい話をするのなら意地だった。

 この世界では前の世界での望みは叶わない。叶わない望みの代わりを見付けることがこの世界で生きるコツだ。

 俺にとってはフィリアこそが俺の夢になった。

 守る為、更に強くなる為………何より昔の自分を拒否し続ける為に魔術を習った。

「この世界での生き方を教えてやるよ」

 馬場から教わったことは決して無駄ではないはずだ。恩返し。

 世界一周に言ってしまった婆に変わってこの喫茶店とアパートを回していく。

 魔術師としても、マスターとしても、管理人としても生きていく。それが目的だ。


 卵を熱したフライパンへと落とし、焼けていくタマゴに塩と胡椒をかけて味を付けていく。できた目玉焼きとベーコンに野菜と焼いた食パンをテーブルに並べる。

 しかし、そんなおいしそうな食事を俺が作ったという五年前の前世なら在りえない状況に満足感しかない。しかし、そんな満足感が全く分からないらしく、フィリアはムスっと不機嫌だ。

 まあ、何が気に入らないのかは分かるので無視。

 俺の料理の腕が気に入らないらしい。正確には料理の腕がいい俺に負けているというのが気に入らないらしい。

 俺は食パンを齧り牛乳で飲み込む。

 フィリアも小さな口で目玉焼きの端にかじりついている。

「明日から学校だろ?準備はできているのか?」

「コクリ」

「コクリって口にするな」

 目玉焼きとベーコンをナイフで切り、フォークで口に入れる。

 テレビでは最近近くで起きている連続殺人のニュースで埋まっており、全く面白くない。

 魔術師が絡んでいるのでは?っとか、犯人はいつ捕まるのかなんて意味のあるようなないような適当な話を聞き流しながら最後の食パンを口に入れてしまう。

 さあ、喫茶店を開けるかね。

 食器を洗い、ベットを干した後に一階に降りて喫茶店の準備に入る。

 カランカラン。

 ドアが開く音共に。

「喫茶ファンシーキャットへようこそ」

 今日も長い一日が始まった。


今回はギャグ要素多めの作品で、後半になるとシリアス要素が増していきます。では次回!

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