松茸、シメジ~秋食読のススメ『土を喰う日々』水上勉著
過ごしやすい季節になって参りました。花も食べ物も芳醇に香る秋爛漫、本物を楽しむのは第一ですが、美味しい食べ物の本で想像力を満たしてみませんか。
水上勉さんの『土を喰う日々』。この本は戦後派の作家水上勉さんが自宅軽井沢で採れる食材で、春夏秋冬季節の料理を披露すると言う食エッセイ。
派手な料理は出てきません。タイトル通り、身の回りで採れたものを採れたなりに頂くと言う趣旨のもので9歳の時から禅寺で生活をしていた著者が精進料理をベースに、一人暮らしのお手軽料理から、作家仲間や編集者さんたちをお迎えする来客料理まで腕を奮います。
月ごとの連載だったので1~12月まで。ただ料理を作って楽しむではなく、禅寺での教えや季節の軽井沢の風情とあいまった豊富な話題に彩られています。
ちなみに今月9月はキノコ。山でたっぷり採れたと言う松茸(!)を炭火で焙って柚子を絞っただけで食べたり、包み焼きに土瓶蒸し、果ては昆布を合えた佃煮など読むだけでほっこりしそうなお料理ばかり紹介されています。
中でも白眉はシメジです。香り松茸、味シメジと言いますが山で採れた紫シメジの味の濃さを著者は特筆。これをシンプルに蒸した丼飯に乗せてふっくら蒸らし、醤油を垂らしただけで頂きます。
信州へ行くと水や畑の野菜ばかりでなく、山の菜に心奪われますが、まさにこのエッセイを読むとひっそりと静まった軽井沢の涼気の中で、キノコの芳醇な風味を楽しんでる気分になるですよ。
旅の楽しみも味わえるこのエッセイぜひオススメです。先立つものはなくても、毎日は忙しくても、活字のご馳走で一時別世界に浸れますよ。秋の夜長、小説読みに疲れたらぜひ読んでみて下さい☆(2014年9月2日掲載)




