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タビスー女神の刻印を持つ者ー  作者: オオオカ エピ
十二章 鴉の思惑
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□月星暦一五八五年六月㉑〈小門〉

□サクヤ

ーーーーーーーーーーーーーー

 月星首都アンバルの街門は、徒歩も馬車も入り混じって行列ができている大門と、特別な旅券持ちしか使えない、馬車が一台通るだけの幅しかない小門とに分かれている。


 小門に並ぶのは、いかにも特権階級の豪奢な馬車ばかりである。

 徒歩の二人連れはいやでも目を引いた。


 アトラスとサクヤは、人目のつかない郊外で竜から降りて来ている。

 アトラスだけなら王宮でも大神殿でも直接乗り入れるが、今回は初めて訪問するサクヤがいる為に正規の手順を踏んでいる次第である。


 街門では旅券の検分が行われる。アトラスとサクヤが旅券を提出すると、詰め所がにわかに慌ただしくなった。


 二人は詰め所の隣の一室へと案内される。


「むさ苦しい所ですが、こちらで少々お待ち下さい」


 最敬礼で立ち去る所員。

 外では大きな鐘が鳴らされた。


 旅券に不備があって認められなかったのだろうかサクヤはとアトラスを見る。


 シモンが対外用の旅券を書くことなど、数える程しかなかったから、何か間違いごあったのではと疑ったのだ。

 その後アトラスとマイヤの目が入っているのだからあり得ないのだが、想定外の事態にサクヤは動揺していた。


 サクヤの視線にアトラスは肩をすくめて苦笑した。


「あれは『タビス』がお戻りになりましたって合図なんだと」

「なにそれ?」

「堅物のネウルスと神殿か共同で作った、タビス最速検知機構(システム)


 皮肉っぽく難解な言葉を使っているが、ようするにタビスが来たことを城や神殿がいち早く認知するためのものである。


 暫くして、呼ばれて外に出てみれば、迎えの神官が仰々しく膝をついて出迎えていた。


 街壁の上には、先程は無かった紫と白に切り分けられた旗が掲げられている。


 さすがに馬車の用意がされていたので、街中を人々の好奇の目に晒されて歩くということにはならなかったが、沿道には人が集まり、その殆どが手を合わせる仕草をしている。


「拝まれてるわよ?」

「まあ、『タビス』だからな」


 さして興味なさそうにアトラスは応える。


「実際、俺がいるときは神殿参拝者が増えるんだとさ。お布施が増えて、神殿としてはいい商売だよな」


 国民の皆様が聞いたら泣くであろう暴言である。


「おかげで静かに帰れなくなった」


 昔好き勝手に出入りしていたツケだとぼやく。


 やがて馬車は、王城に隣接する王立セレス神殿に到着した。

 


 月星はその名の通り、月を信仰の対象とし、月に女神が居ると信じた。

 生きとし生けるものは、総て女神の慈愛の元に生まれたとされている。

 月は水を司り、大地の恵みも月の満ち欠けそのままに女神が水を微妙に調節しているからこそ得られものと考えられているのだ。


 だから『月に守護された星(国)』と言う。


 しかし、月には満ち欠けがあり、月に一度は姿を隠す。

 『タビス』とは、月――即ち女神の不在を補う存在であり、女神の代行するということは女神の加護を受けた者であるという理解に至った。


 『タビス』とは最高位の神官でもある。

 


 出迎えたのは、丈の長い神官服を纏い、口髭を蓄えた、年配の神官だった。

 その衣には細かな刺繍が施され、一目で相当の地位のある神官だと判る。


 レイナの知識から大神官だとサクヤは認識した。


 大神官はアトラスがサクヤを連れていることに、驚いた様子だった。


「こちらの女性に部屋を用意してくれ。故あって、協力してもらっている」

「かしこまりました」


 アトラスに恭しく頭を下げると、大神官はサクヤに向き直る。 


「大神官を務めさせていただいています、プロトと申します」


 口調は柔らかいものの、その声音にはどこか冷たいものが混じっていた。


 明らかに歓迎していない。


 サクヤはその名前に覚えがあった。


 レイナが初めて公式に月星を訪れた時に故あって会っている。もっとも、レイナの記憶では十歳位の見習いの少年の姿であったが。


「聖堂でお客様がお待ちです。それから、女神にご挨拶を。くれぐれも女神の悋気に障らぬよう、お願い致します」

「うちの女神さんに、そんな設定あったかな……」


 そういえば、かつてのプロト少年は熱狂的なタビス信者だったのをサクヤは思い出す。


 初対面のアトラスに叩頭する勢いでひれ伏し、刻印のある右手に口付けをするくらいの盲信ぶりだった。



 タビスに次ぐ大神官がそれでいいのだろうかと悩むところだ。

お読みいただきありがとうございます

側仕えの少年、プロトくん。

大神官にまで登りつめました。

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