●月星暦一五七六年一月末⑤〈警告〉
見舞われた記録的な大寒波に北側諸国で影響を受けなかった国は無かったと言っていい。
月星も例外ではない。
北部に位置するニクスやハイデン辺りは毎年雪対策を事前にする程度には積雪地帯だが、国の中程にある首都アンバルにも雪は降る。
例年なら、一冬中に三回程度纏まった積雪はあるが、すぐに溶けて殆ど地面は見えている。
しかし、この年明けからの寒波は、膝の高さ程度の雪が一晩で降り、片付けが終わる頃にまた降るということを繰り返した。
住民は慣れない雪掻きに追われ、街道は混乱し、流通は滞った。
それでも深刻な食料難に陥らないのは、予め備えてあったからだ。
竜護星の巫覡である女王マイヤは寒波を見通し、各国に警告を出していた。
人の生き死にに関わる情報は出し惜しみをしない。商売に利用して利益に繋げようというあくどい事も考えない。
繫がりの無い国には、ある国から伝えるよう要請した。それほどまでに、マイヤは事態を重く見た。
月星王アウルムは姪であるマイヤの言葉を信じた。各都市に食料や薪、油の備蓄、防寒対策、雪掻鋤などの補充を徹底させていた。警告の拡散も積極的に行った。
マイヤの噂や人柄を知っている国々は対策し、月星の忠告に半信半疑ながらも従った国は被害を最小限に凌いだ。
言われても、従わない国は当然ある。過度な備蓄は、使われなければ余剰になり負債になるからだ。
蒼樹星もその一つであった。
寒波の被害を最も被った国の一つといえよう。
森林が占める面積が多い国では、貴重な平原は農地に使われる。畜産にはあまり力を入れられず、肉の補給は狩りが主体となる。
この寒波で主なタンパク源である大角鹿が多く餓死した。木々の表面が凍りつき、冬の間の主食となる木の幹の皮などを食せなかった為だ。
食物連鎖の一角が崩れれば、捕食者は別のものを代用しようとする。
狼は人里まで下りてきては家畜を狙い、街道を行く馬を襲い、ひいては人自身も狙われることになった。
木が凍りついた弊害は、食だけでは無い。例年通りの量しか備蓄していなかった薪はたちまち使いつくされた。
油分の多い針葉樹は、生木でも燃えないことも無いが、斧の刃が通らない為、切り倒すことができない。
海は厚く凍りつき船が出せない為、交易品で補うことも出来ない。狩りでの不足分を漁猟で不足分を補うこともできない。
民は寒さに震え、飢えに苦しみ、猛獣に怯え、凍死者と餓死者が続出した。
果たして、飢えと寒さに追い詰められた蒼樹星は月星に攻め入るという暴挙に出たと推測されている。




