40.出発
無事に領主を捕まえたという報告を受けてレフィたちはその場所へ向かって行った。するとそこにはすっかり項垂れてしまった領主たちの姿があった。
「あっ、レフィさん。本当にありがとうございました。おかげさまで不正を働いていた領主を捕まえることができました」
ミリーナが嬉しそうに近づいてくる。
すると領主もゆっくり顔を見上げる。
「あ、あなたが神の御使い様……。申し訳ありません、儂はなんということを……」
顔を青ざめながら必死に謝ってくる。
えっと、やっぱり御使い扱いされちゃうんだ……。でも、ここはその立場を利用した方が上手く収まりそうだ。
「あなたは様々な人に迷惑をかけました。ですが、まだやり直せるはずです。今後は人を助けることを考えて行動してください」
「ははーっ」
頭だけではなく、体すらもつけそうな勢いで平伏してくる。
「これでレフィさんももう王国に戻れますね?」
ミリーナが微笑んでくる。ただ、レフィは首を横に振る。
「僕はこれから聖教国に行くから。王女様は領主さんのことをよろしくお願いね」
「そ、そんな……、どうして、そこまでよその国へ行きたいのですか?」
「別に行きたいわけじゃないんだけどね。使者の人が何度もきたからもうやめて欲しいって言いに行くだけだよ」
「そ、それなら私も……」
「いえ、僕たちだけで大丈夫ですから……」
それに他国の王女を連れていくとまた変な方向に話がこじれそうだもんね。
「それよりもこの町はどうなるのですか?」
いきなり上の人がいなくなると暴動とかトラブルが起きそうだけど……。
「それなら新しい人の準備が出来るまでは魔法部隊長にこの町を守っていただきますので大丈夫ですよ」
「さすがにすぐに元通りというわけにはいきませんが、よりよくなるように精進していきますので」
魔法部隊長が背筋をピンと張りながら言ってくる。少し真面目すぎる気もするが、このくらいの方がいいのだろうな……。
◇
レフィ達は領主を連れて行くミリーナを見送ると依頼をしてきた少年の元へと向かった。
「御使い様、噂は聞いたぞ。本当にありがとう」
少年はにっこり微笑んでいた。
そのまわりの人もまるでレフィを崇めるように近付いてくる。
「いえ、僕は出来ることをしただけで最後は王女様がなんとかしてくれたんですよ」
「それでも、御使い様がいなかったらどうにもならなかったことだから……。あっ、お礼の件……」
少年は少しだけ顔を俯ける。
「それが、その……。この依頼に対するお礼が……。本当にどのくらい払えば良いのかわからなくて……。これだけしか準備できなかったんだ」
少年の手には数枚の銀貨が握られていた。
それを震える手つきで差しだしてくる。
よくみると少年の手にはたくさんの傷がついている。かなり危険なことをして稼いだのだろう。
「そ、それなら儂らが追加で払わせて貰う……」
「こ、これならどうだ?」
まわりの人が少年に持っているお金をそれぞれ渡していく。
「どうするんだ、レフィ? 受け取るのか?」
神狼の姿に戻り、今はレフィの肩に乗っているリルが小声で聞いてくる。
さすがに今の状況を見てお金を受け取れるはずもなかった。でも、何も貰わないというのも……そうだ。
「わかりました。それならまた次に僕が来たときに歓迎してください。町を正常な状態に戻して……。これでどうですか?」
これから町を復興していくとなるとかなり大変だろう。まだ領主が消えただけで根強く残った贈賄の制度は残っているのだから……。
もちろん魔法部隊長がすぐに正してくれると思うけど。
ただ、少年は驚き、そして、目に涙を浮かべていた。
「あ、ありがとうございます……。御使い様……」
本当に嬉しそうに感謝されるとなんだか恥ずかしくなり、少し照れていたレフィ。
「では、僕はこれで失礼しますね」
この町には意外と長居をしてしまったので、先を急がないと……。
「あっ、待ってください……」
少年が声をかけてくる。そして、ズボンのポケットから木で出来た笛を取り出していた。
「これ、お礼に使ってください。何かあったときにならしてくれれば急いで駆けつけますので……」
いやいや、こんなただの笛だと聞こえないでしょ……と思いながらも素直に受け取る。
「ありがとうございます。何かあったときは使わせていただきますね」
レフィが微笑みかけると少年は嬉しそうにはにかみ返してくれる。
◇
「それじゃあ今度こそ聖教国に向かおうか?」
町の外に出るとリルの背中に乗る。
「そうだな。もう少しでたどり着くからな。私が全力で走って二日ほどの距離だな」
「それじゃあよろしくお願いね」
「聖教国ってどんなところなんだろうね?」
ルルカが楽しそうに尋ねてくる。
「僕は行ったことないんだけど、信仰が厚い人が集まってる国みたいだね」
「つまり御使いって呼ばれてるお兄ちゃんが敬われるんだね」
それを聞いた瞬間に行きたくなくなったが、それでも行かないとずっと聖女になってくれと言ってくるんだろうな。
「はぁ……、僕が言ってなんとかなると良いなぁ……」
◇◇◇◇◇
聖教国の神殿の中で教祖と一人の男が話し合っていた。
「近くの町で御使い様が現れただと!?」
「はいっ、信者の話ですので間違いないかと……」
「ぐっ……、それとは別に聖女もいたという報告も受けておる。一体どう動けば良いんだ?」
「簡単なことではないでしょうか?」
「なにっ!?」
「どちらも手中に収めてしまえばこのミクロマルク聖教国はさらに他国から一目置かれる国になるでしょう」
「それもそうだな……」
部屋の中に男達の笑い声が響き渡る。




