39.御使い
ミリーナが兵士を呼び出してから数日後、この町にその兵士たちが到着した。
あとは領主を捕まえるだけ。
そう思っていたのだが……。
「レフィさん、レフィさん、ちょっといいですか!?」
宿の扉が激しくノックされる。
そして、扉が開くと息を荒げたミリーナが入ってくる。
「何かあったのですか?」
「この町の領主が姿をくらませました!」
そういえば領主はかなりの気配察知能力を持っていた。
もしかすると兵士たちが近づいてくるのを感知して逃げ出したのかも……。
「それならこの町はもう安心ですね……」
「いえ、すぐにまた戻ってきて今の状態になると思います。早く見つけないと……」
厄介だなぁ……。大勢で近づいたら一瞬で察知して逃げていくんだもんね。それなら能力を使わせないようにしないといけないか……。
あとは今の居所と……。
レフィは二種類のポーションを作り出す。
一つは気配察知ポーション。効果は領主が持っているものと変わらない。
察知したい対象がどこにいるのかを調べることと危険が迫った時にわかるくらい……。
ただレベルが高くなると今回みたいにかなり早くに危機を察知することができるようだった。
そして、もう一つは――。
◇
「お兄ちゃん、これで本当に大丈夫なの?」
ルルカが不思議そうに聞いてくる。
「うん、大丈夫だよ。それより、今は別の貴族の館にいるみたいだね。ただ、かなりの量の兵士もいるみたい」
気配察知ポーションを飲んだレフィはルルカと一緒に町の中を探していた。
さすがにミリーナは目立ってしまうので完全に位置を発見するまでは待機してもらってる。
そして、リルは……。
「やっぱり歩きにくいぞ。元の姿に戻るのはダメなのか?」
「ダメだよ。領主さんが僕たちのことを狙ってるわけだし、今のところ判断基準がリルだけなんだから――」
つまり、リルさえ別の姿をしていたら領主にはバレないわけだ。
あとは気配察知に引っかからないようにしている。
以前みたいな一部の気配削除ではなくて、完全気配無効ポーションで全ての気配を消しておく。
ただ、これにも悪いところはあって……。
「きゃっ……」
ルルカが通行人にぶつかってこけてしまう。
しかし、その通行人は一瞬だけ不思議そうな表情を見せたけど、そのあと何食わぬ顔で歩いて行ってしまった。
完全に気配を消してしまうと認識もされにくくなってしまうようで、今みたいに人にぶつかったりすることが多くなる。
レフィはルルカに手を差し出すと彼女を起こしてあげる。
「ありがとう……」
「うん……、でも、さすがに長いことこの気配を消した状態だと危ないね。急いで行こうか」
◇
貴族の館前までやってくる。
そして、気配察知で中を調べてみるが、どうやらまだ領主は中にいるようだった。
よし、ここまでくればあとは。
「みんなでポーションを撒いてくよ」
館の周りにポーションを撒いていく。
一通り撒き終わるとレフィたちはミリーナが待っている場所へと戻っていく。
◇
「どうでしたか?」
心配そうにミリーナが尋ねてくる。
「大丈夫だよ。館の周りには捕獲ポーションを撒いてきたから」
「それならあとは私たちの出番ですね。今度こそ捕まえてみせます!」
気合いを入れるミリーナ。
そして、兵士たちと一緒に出て行った。
「お兄ちゃん、あれだけで大丈夫なの?」
「うん、あの捕獲ポーションはかけたところを踏むと身動きが取れなくなるものだからね。多分兵士達がきたのに気づいて逃げ出そうとした瞬間に……」
「捕まるんだな。おっ……」
なんだか館の方で大きな声が聞こえる。
これでもう安心だろう。あとはミリーナがいい報告をしてくれるのを待つ。
◇
領主は突然襲われそうな気配を感じたので、慌てて別の貴族のところに潜り込んでいた。
「ふふふっ、いくらなんでも儂がここにいることはわからんだろうな」
「全くその通りにございますね」
テーブルにつき、酒をあおる領主。
「大丈夫だ、いざという時には儂のスキルで逃してやるからな」
「よろしくお願いします」
貴族が領主に対して頭を下げる。
その様子でますます調子をよくしていた領主は更に尊大な態度をとるようになる。
すると、突然かなり強めの危機察知が発動する。
「また来たか。どうしてここがわかったんだ!」
「りょ、領主様、とりあえず逃げましょう!」
「そうだったな」
領主たちはさっさと家の外に逃げていく。
ただ、その瞬間にぬかるみに足を取られたようだった。
「な、なぜこんなところにぬかるみが!?」
「わ、わかりません。先ほどまでこんなことは……」
そこで領主はミリーナから聞かされた話を思い出した。
色んなポーションを生み出す少年。
最初は眉唾ものだと思っていたが、これほどの力を持っているとは……。
そして、隣の村から神の御使いの話が舞い込んできていたことも思い出す。
儂が手を出そうとしていた少年は神の御使いだった……ということか。儂は手を出してはいけないところに手を出してしまったんだな……。
すでに身動きが取れなくなっていた領主はがっくりとうなだれて、もう抵抗しようとはしなくなっていた。




