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第42話「第一回戦・第四試合ですわ!」

前回のあらすじ!

リツさん、ロケット頭突き!!


【現在の偽名】

姫……フィーリ

ジェック……ジャック

リツ……リラ

「ただいま戻りました」


 第二試合後──、退場してから第三試合を挟んでも一向に姿を見せてこなかったリツさんを、(わたくし)たちは「おかえり!!」と出迎えた。


「ナイスファイトでしたわ、リラさん! 中々戻ってきませんでしたが、大丈夫でしたか?」

「はい。回復魔法士の方に見てもらいましたが、後遺症の心配はないということでした。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」


 リツさんはマール(相手)選手を下した後で、直ぐに頭を抱えたがために治療室へ案内されていた。因みに、マール選手は完全に伸びてしまっていて、運営スタッフに運ばれていたが、リツさんが失格になっていないので一命は取り留めたのでしょう。


「無事ならそれでいいのですわ。リラさんの砲弾(キャノンボール)頭突き、もの凄い速度でしたからね。脳への影響を思えば回復魔法士を頼るのが得策でしたわ」

「脳への影響は見られませんでしたが、代わりにたんこぶが生じました。ほら、ここを触ってみてくださいまし」

「どれどれ……あー、確かに心做しか腫れていますわね。寧ろマール選手を一撃で沈めた頭突きで、よくこの程度で済みましたわね?」

「私め、頭蓋骨の硬さには自信があるのでございます。幼少期も頭に花瓶が落ちてきたことがあったのですが、その時もたんこぶ以外の負傷は見られませんでしたわ」

「よく無事でしたわね貴女?」

世話役(メイド)ですから」

「幼少期から世話役(メイド)でしたの?」


 さては人体改造されているのでは──? 本気で疑いかけたところに、ジェックさんが口を挟んでくる。


「まぁ、大事ないならいいことにしようぜ。マールさんはどうだ?」

「脈はありました」

「じゃなきゃ泣くわ俺たち。嫌だぜ身内が憲兵に連れてかれるとこ為す術なく見送るなんて」

「出所後に引き取ってくだされば、私めはそれで」

「どこで覚悟決めとんじゃい。それより第三試合観戦()ようぜ。とっくに始まってるしな」

「第三試合ですと……グレストさまでしたか?」

「そうそう。先制してからずっと押せ押せ状態(ムーブ)で──」


「どっせい!!」

「はぷんッ!?」


 ちょうどそのとき──、武舞台(ステージ)から爆発音が轟いてくる。

 顔を向けると、上半身黒焦げとなった予選第六位通過者ビーボ(相手)選手が仰向けに倒れたところで、カンカンカン……! と試合終了のゴングが鳴った。


「ビーボ選手、気絶につき戦闘不能! グレスト選手の勝利ィィィ!!」


「しゃぁぁぁぁあ!!!!!!」


 グレストさんの雄叫びに、観衆がこれでもかと盛り上がる。倒されたビーボ選手は予選第六位突破のチームメイトながら本戦トーナメントを何度と経験している強者と紹介されていた筈だが、それを終始圧倒してみせた初出場のグレストさんに、観衆はすっかり心を掴まれていた。


 観衆の興奮が冷めやらぬ中、(わたくし)はジェックさんに耳打ちをする。


「ジャックさん。彼、相当強いですわよ。観衆人気も前半戦だけなら一番ですわ」

「だな。声援ってマジで士気に関わるし、こいつは油断ならねぇや。プルタ避暑地でも一回負けてるし」

「そう言えばそうでしたわね」


 ジェックさんは『(プルタ)(シー)(マッスル)(コンテスト)』でグレストさんと初邂逅したのだが、予選のトライアスロンで一敗を喫している。タッチの差ではあったものの身体能力勝負で勝たれた経験上、用心するに越したことはない。


「となると、グレストさんの戦闘を観戦()れるのはあと一回ですわね。そこでどれだけ観察・分析できますでしょうか……?」

「現状分かっているのは身体能力はギリ俺より上疑惑と、洞窟を崩落寸前に至らせる爆発魔法練度。あと、特殊形状の鉄製棍棒(バット)か。戦法(スタイル)は……まだ断定できねぇな」

「ですわねぇ……。今のところ全試合を短期決戦・近接戦で終わらせていますが、彼ほどの実力なら中距離・遠距離攻撃も嗜んでますわ」

「とするなら、先ずは距離を詰めねぇことには始まらねぇや。爆発タイミングは……次の試合でまた計るか」

「それならある程度計れましたよ」


 振り返ると、角魔族の少女が(わたくし)たちの隣を目指してきていた。


「あらグロウさん。お怪我はもう大丈夫でして?」

「この通り、すっかり元通りです。ここの回復魔法士凄いです」


 彼女は肩をグルグル回して、身体が本調子だとアピールしてくる。回復魔法士・回復薬のお世話になった試しはないが、「ここの〜〜」と言っていた辺り、本大会の回復魔法士(スタッフ)は余程の凄腕なのでしょう。


「なら良かったですわ。ところで、ある程度計れたとは……?」

「ここに来ながらグレストさんの思考を透視()てみてたんです。そしたら爆発させる直前、一瞬ですが「蓄積(チャージ)!」って思考してました。速度的にほぼ無意識下での思考でしたが、事前動作を必要としているのは間違いないかと……?」

「情報提供心底(マジ)感謝だグロウ! 確証持ててないようだが、それも踏まえて次の試合で精査する!!」

「お役に立てたようで光栄です! やっぱり勝った人には勝ち進んでほしいので! 師匠なら尚更!!」

「やだ〜好い子〜!! ルル、ちょっとグロウの頭ナデナデしてやって〜!!」

「なのー」

「わ〜、子どものお手手〜!!」


 グロウさんはルルちゃんに撫でられてご満悦だ。平和ですわね。


「ま、もう使えない情報だろうがな」

「ずこー」


 ──が、ジェックさんの無情な一言に、グロウさんはズッコケる。ノリがいいですわね。


「……なのー」

「……イヌー」


 グロウさんを真似てズッコケてみせたルルちゃんとホニョちゃんを存分に愛で散らかしていれば、グロウさんは「な、なんでですか?!」と上体を起こした。

 ジェックさんは至極当然そうに理由を話す。


「さっきグロウと話してた際、グレストと目が合ったんだ。なら、アイツは何かしらを透視()られて種が割れたと見当付けて、全ての攻撃パターンに偽装(フェイク)を混ぜたりでしっかり対策してくるだろうよ。アイツならやってのける」


「よく理解(わか)ってんじゃあねぇか」


 旅路で散々聞いてきた声がして振り返れば、グレストさんが武舞台(ステージ)から話しかけてきていた。武舞台(ステージ)出入口から離れた選手用最前席へ直接足を運んできたのだ。


「実際に戦うギリギリまで色々と手を加えさせてもらうぜ。オマエのことだから攻撃タイミング完璧に把握して臨んでくるだろうからな」

「俺のことよく存じてるなグレスト。本当に出会って10日くらいか?」

「オマエの実力は大体把握しているつもりだ。プルタのトライアスロンでは勝ったものの最後まで引き離せなかったし、船で戦ったアッチョンバーに全く引けを取らなかったのもこの目で見てきたからな」


 アッチョンバーの名前が出るなり周囲の選手が意識をジェックさんに向ける。名前はマヌケ極まれりだが、反応からしてかなり有名な魔物だったのでしょう。

 グレストさんはジェックさんのフルフェイスをしっかり見据えて、宣言する。


「だからオマエには一切合切妥協せずに戦うと誓うぜ。互いに一勝一敗、ここで決着(ケリ)つけようや!」

「……だったらソッチも消耗最低限に三回戦進出(あがっ)てこいよ。満身創痍相手に勝ったって誇りたくねぇからな!」


 ふぅぅぅぅ──!!

 二人が散らす火花に観衆がここ一番の盛り上がりを見せた。なんなら「もう始めろー!」と我儘を飛ばす方も現れる始末。


 二人の間からは、好敵手(ライバル)特有の友情が確かに感じられた。出会った当初は感情の類を碌に見せてこなかったジェックさんもイキイキとしていて、成長したものだ。


 故に私は、敢えて空気を読まずに二人の世界に割り込んだ。


「その前に御二方、先ずは私(わたくし)応援してくださりませんか? (わたくし)に至っては「まいった!」と言う隙があるかも怪しい実力差ですわ」


 これにジェックさんとグレストさんは「えぇ……」と至極真っ当な返事に困る顔をしていた。


「いやァ……流石に「まいった!」は言わせてくれるだろ? 聞く耳持たずに攻撃してくるとは思えんわ」

「というか、せめて一泡吹かせるとか言えよ。一行のまとめ役なんだろ?」

「それもそうですわね。でしたら魔法を一回使わせるくらいはしてみせますし、なんならジャイアントキリングしてやりますわ。それでよろしくて?」

「まぁ……目標ないよりかは、いいか……?」

「そういうことです。それまではゆっくり観戦していましょう」


 ということで私は、来る時まで試合を観戦する。

好敵手(ライバル)同士の友情って好いですよね。姫さまは不穏なフラグが立っていますが。

その相手が誰か予想できてしまった人は評価・ブクマ・リアクション・感想よろしくお願いします。


次→明日『18:00』

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