第18話「温泉ですわ!」
前回のあらすじ!
野生の温泉見つけた♨
「オマエらー、湯加減どうだー?」
茂みの向こうからジェックさんが、カチカチ……と火打石を鳴らしながら訊いてくる。
この音をBGMに「最高ですわぁ〜〜……!!」と私が返せば、彼は「そうかぁー」と返答して、そのまま火起こしを続ける。その音が絶妙なBGMとなって大変心地好い。
「はぁ〜〜〜〜……ッッ!!」
私たちは現在、野生の温泉で心身を癒していた。
旅の疲れも相まって、程好く適温な湯水が全身に染み渡る。リツさんとルルちゃんの微動だにしない微笑みとのほほん顔もこれには破顔し、ホニョちゃんに至っては泳ごうとしたので「お行儀悪いですわよ〜」と抱きかかえざるを得ない程にご機嫌だ。
入浴とは、魂の清掃である──、とはよく言ったもので、これの第一発言者に『ノータス表現賞』を贈呈したい。存在しませんが。
「温泉は疲労回復効果とリラックス効果がある。他にも美肌効果や手荒れ予防に悪化防止、それだけでなく筋肉痛と関節痛を和らげてくれるし、人によっては浮腫の改善も有難いな。他にも新陳代謝が良くなることで体内の不要物の排泄促進に血流も良くしてくれるだろ。泉質別にすると更に細かい効能があるが、まぁ大体はこんな感じだ」
「なるほど〜〜……」
茂みの向こうのジェックさんが温泉のウンチクを垂れ流してくる。入浴はまったり派ではありますが、所々に興味深い内容が散りばめられていて案外悪くない。
「あとは『湯治』という文化がある。温泉に足繁く通うことで健康促進や療養を計ったんだ。現在でこそ回復薬なんてものがあるが、実際傷治りが早まったり、病気が和らいだりと効能は馬鹿にならないぜ。あ、あと摩耗した精神も大なり小なり回復してくれると聞くな。大概自然に囲まれてるのが温泉地だから、一時的でも社会を気にしなくて済むもんな」
「そうなのですね〜〜……」
ウンチクはまだまだ続く。
「その他諸々かくかくしかじかエトセトラッセイうっふんバラバラアニョペリノ」
「長い長い長いですわ。流石に右から左へ垂れ流したくなってきましたわ」
「なんだ、俺はあと8時間は語れるぞ」
「せめて日を改めてくださいまし。なんです、温泉好きなんですの?」
「休みには大体城下町の公衆浴場に通ってたぞ」
「公衆浴場あるんですわね魔王国。てっきりこう……なんか……この温泉みたく、良い感じに自然が生い茂った場所に湧き出るものだと思ってましたわ」
「チョモ村でやらかした時みたく、すっごい深く掘れば案外出てくるみたいだぞ。詳しい深さは忘れたが」
「忘れてくれて感謝ですわ。何か好きになるキッカケがありまして?」
「無心になれる」
「あっ……」
この一言に、私は言葉に詰まってしまった。
普段は気に留めていないことですが、ジェックさんは魔王の隠し子。不義の子としての十字架を非もなく背負わされた彼は実父たる魔王からとことん冷遇されていたと聞いている。
それを思えば、休日くらい魔王城から距離を置きたがるのも当然ですわ。
「……あと、花粉も洗い流せる」
あ、誤魔化した。
無心を求めた意図を私が察したと勘付いて気まずくなって、取って付けたような話題を投げてきましたわ。
だったら私は、その言葉のキャッチボールに応じましょう。
「貴方の場合は死活問題ですわね。チョモ村でも酷い有様でしたし」
「全くだよ。ヌシと一緒に消し飛んでてくれと願いながら噴き出た温泉に現実逃避してたら程なく目が大惨事よ。アイラさんが目薬恵んでくれてなきゃ今も涙でビッチャビチャだわ」
「目薬と恵みで掛けました?」
「だったらもう少し言葉に凝るわ再び説教をご所望か?」
「すいませんでした」
「よろしい……と、火も安定してきたな。女性陣、バトンタッチしていいか?」
「了解しましたわ。リツさん、ルルちゃん、ホニョちゃんも上がるとしましょう」
「イヌッ!」
「かしこまりました。直ぐにタオルをご用意……て、おや?」
「どうしましたリツさん? ……あら?」
リツさんの視線の先を覗き見て気付く。私たちの下着が無くなっておりました。
飛ばされないよう重しを乗せていたのに何処へ? そう首を傾げていると──、
「あー。うさぎさんなのー」
「え?」
ルルちゃんが指差した先に視線を移すと、ウサギが私たちのパンツを咥えてぴょっ、ぴょっ、ぴょっ、と去るところでした。その姿はまさに──、
「泥棒ですわーーッッ!!!!??」
「何処だァッ!! そいつかァッッ!!」
叫ぶや否や、飛び出してきたジェックさんが即座に剣を抜いて見つけたウサギをザクーッ! と一刺し。ウサギは即座に絶命し、ルルちゃんは「あー……」と悲しそう。お辛いものを見せてごめんなさい……。
「コイツは『ドスケベ・スヅクリ・ウサギ』だな。巣作りの際にやたら下着とかを使いたがっては警備の甘い町村の民家に侵入する、名前通り下心満載なウサギなんだが取り返せて良かった。ほい」
「褒めて遣わします。──て、ちょっとお待ちなさい」
そのまま立ち去ろうと背を向けてくるジェックさんを私は呼び止める。
「なんだよ?」
「貴方……なんとも思いませんの?」
「何がだよ?」
「いや、ですから……私たちの裸体堂々拝んどいて、無反応を貫きますの?」
「……お答えしよう」
ジェックさんは私たちに背を向けたまま、断言する。
「──軍人にとって、異性の裸体は二の次だ!!」
「なんですとぉ!?」
「俺の経験上、戦場において性別は存在しない! 資材の限られた戦場で男女別に更衣施設等を作ることはまず有り得ないし、同時にわざわざ男女別に着替えたり身体を清める時間を捻出する余裕もない! 尚且つ異性の裸体を思い出して集中欠いてる間に負傷なんてすれば最悪生命に関わる問題、だから軍人は真っ先に色慾を捨てる! つまり、フィーラの裸体が結構ガッツリ視界に映ったところで、特に気に留めたりしない!!」
「ちょっとそれは聞き捨てなりませんわよ?! 確かに『兵士は色慾を捨てよ』と耳にしますが、私、結構発育とスタイルには自信ありますことよ?! 軽々しく殿方に見せるものじゃありませんが、だからってガン無視とは屈辱以外ねぇですわ!!」
「知ーりーまーせーんゥゥッッ!! 発育良いモデル体型だろうと気に留めることはあーりーまーせーんゥゥッッ!!」
「事細かく分析してんじゃねぇですわ! オッケ、ケンカですわね? ケンカですわね! その服ひん剥いてしょうもない●●●を鼻で笑ってやりますわ!!」
「それは早計が過ぎると思う」
「冷静になってんじゃねぇですわァァァアーーーーッッ!!!!!」
愚劣喧嘩が始まった。
◇ ◇ ◇
一方、人間界──。
セクシーよりケンカを書きたい♨
次→明日『18:00』




