第13話「防衛配置ですわ!」
前回のあらすじ!!
大活祭の歴史。ババアの半生。
チョモ村防衛砦内部──。
「おお。こりゃ凄ぇや」
ジェックさんが内部を眺めるなり、思わず感嘆の声を漏らす。
お婆さんに「こっちだよ」と案内されて入った先は壮大だった。
防衛準備通路は大勢の村人が行き来していた。通路のいい感じに空いた空間では女性陣が「早く作りな! 私らの戦場はここだよ!」とこぞって炊き出しに準じていて、男性陣が「少しでも力付けとけ!」と腹持ちの良さそうな料理がテーブルに並べられた傍から胃に収めていく。武器に至ってはどれだけ破損しても構いやしない量が壁際に用意されていた。
「見ろよフィーラ。村の規模超えてるぜ」
「あらま。随分と本格的ですこと」
戦場を覗けば、迷路のように建てられた高台にはバリスタ発射台と砲台、そして地上には棘付きバリケードが設置されていた。塹壕が一定間隔で掘られているのは深さ的に落とし穴目的ではなく『跳び越えて無防備を晒した瞬間を狙い撃つ』ためだと推測する。
「それにしても凄い人の数ですわね。活気に満ち溢れておりますのは、私め、初めて見ますわ」
リツさんの仰る通り、分かっていたことだが防衛砦は内外問わず武装した村人で賑わっていた。恐らく村人全員居る。
ひしひしと緊張感が伝わってくるもののどこかお祭り気分に感じるのは『大活祭』と名付けられたように、生存を賭した防衛が時代とともに強化されていき、今ではすっかり魔物素材を大量に収穫できるイベント風情と化してしまったからだろうか? 武器こそ担いでいないものの「これどこー?」「あっちだよー」と矢箱や医療品等の資材を持って駆け回る子どもがあちらこちらに見られるのが何よりの証拠だ。
「わー。しらないひとがいるよー」
その子どもたちの一人が私たちに気付く。それが周囲に伝播したのか、子どもたちがわらわらと寄ってきた。
「おねーさん、つよもはえてるし、めもくろいよー」
「おにーさんは、まりょくすごいやー」
「こっちのおねーさんは、ミカちゃんとおなじ、せんじぞくだー」
「おなじくらいのおんなのこ、いるー」
「いぬー」
「イヌッ!」
「あーあーあー」
「あーあーあー」
「あーあーあーあーあー、でごさいます」
子どもたちが私たちを取り囲んで次々声をかけてくるから中々前に進めない。これでは先へ進むお婆さんとはぐれてしまいかねない。
「皆さん、私たち急いでおりますので道を開けてくださいな。お婆さーん! 少々止まってくださいましー!」
しかし、お婆さんは止まりません。
「お婆さん?! 止まってくださらないと、はぐれてしまいますわ!」
それでも、お婆さんは止まりません。
「お婆さーん!! 振り返ってくださいなー!! 置き去りですことよー!!」
けれど、やっぱりお婆さんは止まりません。
「フィーラさま。ひとつよろしいでしょうか?」
「なんでしょうリツさん?!」
「あちらのお婆さま、周囲の喧騒も相まって、且つ耳が遠いのではないでしょうか?」
「あ……!!」
言われてやっと気付くが時すでに遅し。お婆さんは人混みに紛れ、そのまま姿を消してしまったとさ。
「お婆さァァァァんッッッッ!!!!!!」
置いて行かれた私の叫び声は、しかし虚しく周囲の喧騒に飲まれて消えてしまった……。
──直後、お婆さんは数人の武装者を引き連れ、私たちの元へ戻ってきた。
「ということで、動けそうになさそうだから、直接連れてきたよ」
「ちゃんと聞こえてたんですかい!」
「なら子どもたち退けてくれよ! 二度手間なんだから!」
「ダルいんじゃ」
「だろうけども!!」
ですが、流暢に事が進むならそれに越したことはない。子どもたちの数は更に増してきているが、そのまま「この人が村長だよ」と紹介を受ける。
村長と呼ばれて前に出てきたお爺さんは非武装だった。
前線を退いてから随分経つのか筋肉は衰えていて、プルプル……と杖を着いている。歩くだけでも一苦労でしょうに砦まで来ていたのは、きっと次世代だけに丸投げしたくないという長としての意思表示なのだろうか。
そんなご老体に、お婆さんは私たちを紹介してくれる。
「村長や、この子たちも防衛に参加したいとさ。『大活祭』を知らせてくれた鳥魔族に急ぎ会わねばならん用事があるそうで、少しでも早く終えられるなら協力したいそうだ」
「いいよ♨」
「「軽ッ!!」」
「今となっては交易品の稼ぎ時でしかないが、大活祭を無事終えるには人は幾ら居ても良い。それに……──、」
と、村長さんは言葉を区切り、ジェックさんを見やります。
「そこの若人に至っては、相当修羅場を潜ってきたと見受けられる。経験豊富な戦人は大歓迎だ」
「おぉ……!」
ジェックさんの実力を一目で見抜くとは。この村長さん、ご老体ながらも観察眼は衰えてない古強者ですわ!
古強者といえば、爺やもでしたわね。私の教育役だった彼も若い頃は「僭越ながら王国軍指南役を務めさせていただいた」と仰ってましたのを今でも憶えてますわ。私が誘拐されたあの日はちょうどお孫さんへ会いに不在でしたが、取り乱したりしてませんでしょうか……?
まぁ、知りようがないことで頭を悩ましても仕方ありません。今は防衛戦に集中しましょう。
「人員配置は娘よ、お主に任せる。儂はもう行かせてもらうよ」
そう言って村長さんは娘さんの肩を叩くと、「じゃあ、儂も行こうかね」とお婆さんと一緒に向こうへ去っていきましたとさ。
そんな老齢と入れ替わりで、中年前後の女性が私たちの前に出てきた。
「つーことで、私が総指揮官のアイラだ。チョモ村民だけで対処してきたとはいえ、人出は多いに越したことはない。歓迎するよ!」
アイラさんは中年と思われる風貌ながら、長年鍛えてきたのが伺える体躯だった。見た目だけなら前線に立っているだろうが、戦場経験豊富だからこそ総指揮官を担っているのでしょう。そう一人勝手に納得していると、彼女は「──その上でだ」と続ける。
「ハッキリ言わせてもらうと、既に村人で陣形を組んじまってる。だから、完全イレギュラーたる戦力のアンタたちには各陣に別れて単独で動いてもらうとするよ。ということで先ずは角黒眼族の嬢ちゃん! 名前と槍歴と魔法が有るなら内容を話しな!」
あ、こういうノリですか理解。
「イエス、マム! 私はフィーラ! 槍は始めたて! 魔法はこう!」
「おお、槍が伸びた。大きくもなってるね?」
「見ての通り、手に持った物の大小伸縮自在ですわ! 手から離れれば元に戻りますが、手に触れていた時間に応じて戻るまでの時間は変動します!」
「なら高台の上からバリスタで牽制しつつ、寄ってきた魔物に巨大化させた石を投げたり槍を伸ばして突いておやり! 次! 尖耳族の嬢ちゃん!」
同じく自己紹介を振られたリツさんが、事前打ち合わせ通りに偽名を名乗る。
「私めはナノと申します。弓術歴は浅く、魔法は有しておりませんが、足の速さには自信ありますわ」
「だったら高台を駆け回ってバリスタ弾を都度補充していきな! 負傷者が出た時は代わりの到着までバリスタ射撃手代理! 次! 黒眼族のお嬢ちゃんの名前を教えておくれ」
「ルルなのー」
やっべ、ルルちゃんに偽名使うよう言っておくの忘れてましたわ次から徹底しましょう。
「じゃあルルちゃんは他の子たちと資材を運んでもらおうか。それが終わったら子どもたちと避難するんだよ。そこの坊や、このお嬢ちゃんと一緒に医療品運んでおくれ。あ、このワンちゃんも連れてってやりなね」
「わかったー。おじょうちゃんちゃん、なまえはー?」
「ルルだよー」
「ぼくはトムだー。それじゃあ、こっちだー」
「はーいなのー」
「イヌッ!」
ルルちゃんはホニョちゃんを連れて、「いってきまーす」と手を振って、トムくんについて行ったとさ。
2人と1匹を見送るなり、アイラさんはグリン──! とジェックさんに目を向ける。
「そんで角魔族の青年! 名前は?!」
「シックと言います! 戦歴は──」
「地上戦闘班に合流して、射線が通らない魔物どもを蹴散らしな!」
「名前以外端折られた!?」
「アンタの実力は見れば分かる! 時間使わせんじゃあないよ!!」
「釈然としねぇ! イエス、マム!!」
と、納得いってないジェックさんですが、どことなく嬉しそうなのは、魔王軍時代と違って実力を評価されて、それ相当の割り振りをしてもらえたからでしょう。
正当評価超大事。
カーン、カーン、カーン……!!
「!!」
役割分担が終わったそのとき、櫓から鐘の音が鳴り響く。この音が何を意味するのかは言われずとも明白だ。
「もう間もないとこまで迫ってるようだ。それじゃ、それぞれ持ち場へ!」
「「「おう!!」」」
アイラさんがその場を離れるなり、私たちは各々「コッチだ」と再会を約束する間もなく連れていかれ、各自持ち場へ着く。
そして程なく──、最も高い所にある櫓から、アイラさんの声が砦中に轟き渡った。
「さぁ、村民たち! あと30秒で大活祭が始まるよ! 今回も倒して倒して倒しまくって、全員で生きて帰って、次世代に未来を繋げようじゃないか!! 戦士ども、雄叫びを上げなッッ!!!!!!」
「「「「「オオオオオオオッッッッ!!!!!!」」」」」
防衛砦中が、勇気を盾に湧いた。
地響きは、少しずつ迫っている。
ということで偽名を使うようになりました。なんて名乗ってるかは『前書き』で記しますのでそこで把握するようよろしくお願いします!
次→明日『18:00』




