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第14話 異世界返りの元勇者が子供たちと遊ぶんだけど、なにか質問ある?

 数日前。

 剣一郎けんいちろうは、とある場所にて面接を受けた。


「このボランティア活動には、かなり重い責任が伴います」


 面接官が彼に告げた。


「施設に来る子供たちは、ほとんどが心に傷を負っています。ですので、いい加減な気持ちで接すると、さらに深い傷を与えてしまうことになりかねない。そのようなリスクを避けるためにも、わたくしたちは厳しく審査しております」


 それから面接官は剣一郎にいくつかの質問をした。


 ――ボランティア活動を始めたら、最低1年以上続けられるか

 ――週4時間は継続して活動してもらえるか

 ――子供のプライバシーをなによりも優先して守れるか


 最後に面接官は尋ねた。


「あなたは、今までの人生で心から子供の笑顔を守りたいと思ったことはありますか?」


 剣一郎は目を瞑って、自らの心の内を探る。

 自然と、異世界にいた頃の戦火で焼け落ちた村の情景が浮かんできた。


 ある日突然両親を殺され、ただ呆然と父と母の遺体を眺める少女。

 ボロボロで文字通り着の身着のままで、通りをさまよう子供たち。中には、素足の子もいた。

 泣くことさえできず、力を失った瞳でぼんやりこちらを見上げる顔々。


 自分がなぜ一刻も早く魔王を倒さねばならないのか、あれほど強く認識したことはあっただろうか?

 なにを守るために剣を振るうのかを――


 剣一郎は目を開いた。

 そしてこたえる。


「はい。あります」


**************************************


 その日、施設を訪れたのは、剣一郎を含め3名。

 剣一郎と京子きょうこ、そして妹の灯里あかりである。


 本来、高校生はこういうボランティア活動には選ばれないらしいのだが、こうみえてこの妹は市から何度も表彰されるぐらい課外活動に熱心であったため、面接に通ったのだ。


 施設に到着した彼らは、まず中庭の草むしりを済ませた。

 他にもいくつかの軽作業をこなし、その後は子供たちとの触れ合い――つまり遊びの時間になる。



「よし! 探検ごっこだな。俺についてこい!」


 剣一郎はそう言うと、板張りの廊下をすすすっと歩いてゆく。


「すげえ……ぜんぜん足音がしないじゃん!」


 居合わせた男の子たちの一人が言った。


「これは盗賊系スキル独特の歩方でな。簡単に身に付くものではないが、挑戦してみるのも悪くないぞ?」


 それを聞いた子供たちは、みな彼の真似をしてすすすっと進む。


「よし。全員扉に辿り着いたな。だが、ここで慌てて部屋に入ろうとしてはいけない」

「なんで?」


 質問してきた少年を、しかつめらしい顔で振り返る剣一郎。


「この手のドアには、必ずトラップが仕掛けてあるからだ」

「マジかよ……」

「間違いない。このドアにも仕掛けてあるはずだ。眠り針程度ならいいが、運が悪ければ石化ガス、さらには転送の罠なんてこともある。日本海溝の底に転送されたくないだろう?」


 それを聞いて、肩を抱き合い震えあがる子供たち。


「まあ安心しろ。このキーピックがあるからな」


 剣一郎は懐から細い針を取り出す。

 それを見た子供の一人が、ピンときて言った。


「わかった! それでドアのカギ穴をツンツンして罠を外すんだ!」

「君はなかなか勘がいいな。盗賊に向いているかも」

「マジ!? 将来なれる?」

「努力次第で――」


 ぽんと剣一郎の肩に手が置かれた。

 振り向くと、年配の女性が険しい顔で彼を見つめていた。

 この施設の施設長だった。


「ちょっとこちらに……」


 不適切発言をガン詰めされた剣一郎がようやく元の場所に戻ると、すでに先程の男の子たちの姿はなかった。

 別の遊びを始めたのだろう。


 立ち去ろうとした彼は、ふと誰かが柱の陰からじっとこちらを覗いていることに気付いた。


「どうした?」


 剣一郎が呼びかけると、物陰から少女が姿を現す。

 幼稚園年長組ぐらいの女の子だ。

 

「うま」


 少女がぼそりと告げた。


「うま?」


 オウム返しする剣一郎に、こくりと頷く。


「なって」

「馬に?」

「うん」


 わけがわからないながらも、とりあえず剣一郎が四つん這いになると、すぐにその上に乗る女の子。

 

 ああ、お馬さんごっこか、と剣一郎は得心する。


 女の子はかなり乱暴に彼の髪をわしづかみして引っ張った。


「しゅっぱーつ!」

「ヒヒヒ~ン」


 少女の掛け声に、いななくふりをして、こたえる剣一郎。


「おまえ、なにしとんじゃい!」


 突然、そんな声と共にドロップキックが飛んできた。

 剣一郎は、女の子を乗せたまま、器用に蹴りをかわす。


 襲撃者は灯里だった。


「おい、バカ兄貴! 大概にせえよ?」


 彼女のショートヘアは怒りのために逆立っていた。

 ちなみに、関西弁は彼女が本気で怒った時に出る癖だ。生まれも育ちも東京で、関西には行ったこともないはずだが。


「家畜プレイがしたいからって、いたいけな女子おなごに……文字通り鬼畜の所業やぞ?」


「……おまえ、なんかめちゃくちゃ勘違いしてるだろ?」


 少女を下ろしながら剣一郎が言ったが、妹は聞く耳もたず、飛び掛かってきた。


「お望み通りシバいたるわっ!」


 叫びながら、元勇者に卍固めをきめる灯里。


「ぷろれすごっこだ~」


 少女が嬉しそうに叫ぶ。

 それを聞いて、他の子供たちもわらわらと集まってきた。


「このねえちゃん、ぱんつ丸見えだぞ」

「くまさんぱんつだ~」


 そんな声が上がるものの、当人はまったく気付かず、ひたすら兄に教育的指導(?)を施している。


「ちょっとちょっと。あんたたち、なにやってんの?」


 呆れ顔の京子が引きはがすまで、ぷろれすの見世物は場を賑わわせたのだった。



 その後は3人で手分けして子供の勉強を見てあげ、帰る時間になる頃には、すでに日が傾きかけていた。


「どうだった?」


 最寄り駅へと向かう道すがら、京子が剣一郎に尋ねてくる。


「体力には自信がありましたけど、思いのほか疲れました」

「子供ってパワーあるでしょ?」

「ですね」


 今度は妹の方を振り返り、声をかける京子。


「妹ちゃんもお疲れさま~」

「はいっ! 北野きたのさんもお疲れさまでした!」

「今日はよく頑張ってくれたね。高校生なのにしっかりもので、お姉さんびっくりしちゃった」

「ありがとうございます! ふつつかものですが、兄ともども今後もよろしくお願いします!」


 背後から届く妹の声を耳にしつつ、剣一郎は暮れなずむ市街地へと目を馳せる。


 ――正直、生き甲斐とかはまだよくわからないが、今日会った子供たちがいつまでも笑顔であればいい


 そんなことを考えてると、彼はふと一羽の鳥がこちらに向かって飛んでくることに気付いた。

 手乗り文鳥だ。

 その小鳥はまっすぐ剣一郎の肩に降りてくると、彼の耳元でまくしたてた。


「剣一郎さん、大変です! 北条絵里ほうじょうえりさんが連れ去られました!」

 最後までお読みくださり、ありがとうございます!


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 また、ブックマークもいただけますと大変ありがたいです。

 よろしくお願いします!

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