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第75話 やっぱり怒ってた

「みんな大丈夫かな……?」


 金等級冒険者のシーフ・ミットは、ノーライフキングに投げ飛ばされた仲間たちのことを心配していた。


 魔法使いのベルエールによると、ノーライフキングの秘密は、強力な幻惑魔法にあるという。

 それが本当だとすれば、仲間たちが軽々と遠投されてしまったのは、幻覚だと考えられるのだが……。


「じゃあ、何であたしだけ何もされてないの? これも幻覚ってこと? うーん……訳わかんないんだけど……」


 どういうわけか、ノーライフキングは彼だけを放置し、行ってしまったのだ。

 そしていつまで経っても戻ってくる気配もない。


 彼が見ているのは普段通りの賑やかな街の光景だ。

 幻覚をかけられているとは、とても思わなかった。


「……追いかけてみようかな」


 念のため最大レベルの隠密状態となって、彼は街中を猛スピードで疾駆する。

 あっという間に街を取り囲む城壁へと辿り着くと、僅かな凹凸を利用して壁を登り始めた。


 凄腕のシーフである彼にとって、これくらいの芸当は朝飯前だ。

 壁を登り切ると、地上へと飛び降りて、軽く着地を決める。


 と、そのときだった。


天地爆砕斬ワールドブレイクッ!!」

「全身全霊――剛・正拳突きぃぃぃぃぃぃっ!」


 どこかで聞いたことのある声だ。

 直後に凄まじい轟音が響いてくる。


「イルラン!? それにロンダも! もしかして戦ってるの……っ!?」


 間違いなく仲間たちの声だった。

 ミットは極限の隠密状態を維持しつつ、声がした方向へと急ぐ。


 やがて仲間たちの姿が見えてきた。


「……あれ?」


 そこに広がっていたのは、予想外の光景だった。


 なぜか尻餅を突き、白目を剥いて気を失っているベルエールの姿。

 そのすぐ両側の地面が大きく抉れていて、まるでギリギリのところで彼を避けたようにも見える。


 イルランとロンダの二人は、困惑したような顔で立ち尽くしていて、彼ら以外には誰も見当たらない。

 ノーライフキングは一体どこにいったのだろうか?


「ベルエール……? まさか、本当に幻覚を見せられて、俺たちは相打ちを……っ?」

「ま、待て、イルラン殿、これも罠かもしれぬ……」

「くっ……もう何が何だか分からねぇよ!?」


 ベルエールに近づこうとしたイルランをロンダが制止し、イルランは頭を抱えて叫ぶ。

 そのまましばらくの間、警戒して動かない二人と気絶したままのベルエールが対峙し続けるという、謎の状態が展開された。


「えーと……どうなってるの、これ……?」


 このままでは埒が明かない。

 シーフとしての「大丈夫そうだ」という直感を信じて、ミットが彼らの元へと近づこうとしたそのときだった。


 彼のシーフとして鍛え抜かれた広い視野と高い視力が、彼らの上空を通過していくそれを捉えてしまう。


「…………は?」


 真っ裸の男だ。

 地上にいるミットへ、思い切り下半身を向けながら空を飛んでいる。


 この高さなら目撃される心配などないと高をくくった結果かもしれない。

 実際、普通の人間なら恐らく豆粒くらいにしか見えなかっただろう。


 しかし残念ながらミットの目には、股の間でぶらぶらと揺れているアレまでしっかりと見えてしまった。

 幸いこの位置からは顔までは分からなかったが。


「……み、見なかったことにしよう」



    ◇ ◇ ◇



 目的地の港町が見えてきた。

 ここまで来る間に飛行魔法にかなり慣れてきた俺は、危なげなく街道へと着地してみせる。


 船が出るのは明日なので、まだ十分な時間があった。

 街の近くで降りて目立ってしまうのを避けるためにも、ここからは歩いていくとしよう。


 もちろん今はちゃんと服を着ている。

 途中の街で調達したのだ。

 顔を隠せるようなフード付きのローブも忘れてはいない。


「聖騎士少女はもう来てるかな……?」


 実を言うと、かなり緊張している。

 なにせ手紙だけを残して勝手に先に行ってしまったのだ。


 めちゃくちゃ怒ってたりして……。

 ……怖いから会いたくないな……うん……。


 コミュ障の俺にとって、こういうシチュエーションは死ぬほど苦手だった。

 一人の方が気楽でいいなと思っていたが……合流するときに地獄を見るということに、なぜ今まで気が付かなかったのだろうか……。


 そんなことを考え、頭を抱えながら街道を行ったり来たりしていると、


「おい、あんまり怪しまれるような動きをするんじゃない」

「……っ!?」


 背後からの聞き慣れた声に、俺は全身が跳ねるくらい驚いてしまった。

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは今もっとも会いたくなかった相手――聖騎士少女だ。


「あ……えと……その……」


 しばらく会ってなかったら知り合いでも緊張して上手く話せなくなるってこと、コミュ障にはよくあることだよね!

 しかも相手が怒ってるかもしれないとなると、なおさらだ。


「貴様、またロクに喋れなくなっているのか……」


 呆れた様子で息を吐く聖騎士少女。


「筋金入りだな。って、なぜ服が変わっている? そのローブも、この間まで着ていたものと別物ではないか」

「えっと……」

「……また何かやらかしたわけではないだろうな?」


 胡乱な目で睨まれて、俺はブンブンと首を左右に振った。

 ちょっと冒険者らしき連中と戦闘にはなってしまったが……それは俺のせいじゃないしな……。


 それはそうと、俺が勝手に一人で出発してしまったことについてまったく触れてこないな?

 もしかして怒ってるわけじゃないのか……?


「まぁ、それはいいとして……貴様っ、なぜ私を置いて勝手に出発した!? また逃げたかと思ったぞ!?」


 ……やっぱり怒ってました。


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