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あの女は紅いランボルギーニカウンタックを欲していた。  作者: 虫松
幸子は若いころはキラキラしていた。あの頃に戻って説教したい。

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第8話 答えを渡さない

朝が来る。


若い幸子は、いつも通りの支度をしている。

服も、化粧も、表情も——昨日までと何も変わらない。


変わったのは、

部屋の隅に立つ老婆幸子の“立ち位置”だけだった。


以前は、腕を組み、先回りして、間違いを正そうとしていた。

今はただ、黙ってそこにいる。


若い幸子が言う。


「……で?」

「今日は、何を教えてくれるの?」


少し、挑発的な言い方。


老婆幸子は、首を横に振る。


「何も」


若い幸子は眉をひそめる。


「え?」


「今日は、

あなたが決めなさい」


若い幸子は苛立つ。


「意味わかんない」

「未来から来たなら、答え持ってるでしょ」

「どうすれば失敗しないか、どう選べばいいか」


老婆幸子は、ゆっくりと言う。


「答えを渡した瞬間、

それは“あなたの人生”じゃなくなる」


若い幸子は、言葉に詰まる。


しばらくの沈黙。


若い幸子は、鞄を持ち、ドアの前で立ち止まる。


「……じゃあさ」

「私が選んで、また失敗したら?」


老婆幸子は、少しだけ微笑む。


「その時は——

一緒に、後悔しましょう」


若い幸子は、思わず振り返る。


「それって……」


「一人じゃない、ってこと?」


老婆幸子は頷く。


「そう」

「正解を知っている“未来の私”じゃなくて」


「同じ目線で、

同じ時間を生きる“私”」


若い幸子は、深く息を吸う。


「……ずるいな」


「答えくれないくせに」

「それ、一番安心するやつじゃん」


老婆幸子は、何も言わない。

ただ、そこにいる。


若い幸子はドアを開ける。


外は、何の変哲もない日常。


でも、振り返って言う。


「ねえ」

「今日は……帰ったら、話聞いてくれる?」


老婆幸子は、迷わず答える。


「ええ」

「何時間でも」


若い幸子は、笑って出ていく。


ドアが閉まる。


老婆幸子は、独りごちる。


「未来は、教えない」

「でも」


「これからは、一緒に生きる」



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