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あの女は紅いランボルギーニカウンタックを欲していた。  作者: 虫松
幸子は若いころはキラキラしていた。あの頃に戻って説教したい。

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第7話 若い私の本音

夜。

部屋に流れる沈黙は、これまでとは質が違っていた。


若い幸子は、しばらく黙り込んだまま、俯いている。

老婆の幸子も、もう何も言わない。


やがて、若い幸子がぽつりと口を開く。


「……あんた、

ほんとに“私”なんでしょ」


その言葉に、老婆幸子は否定も肯定もしない。

ただ、ゆっくりと頷く。


若い幸子は、苦笑いを浮かべる。


「そっか。

だから、あんなに必死なんだ」


ここで初めて、若い幸子が“未来の自分”だと認識し、受け入れる。


若い幸子の言葉が、堰を切ったように溢れ出す。


・失敗が怖いこと

・誰にも頼れないと思い込んでいること

・強がっているけれど、夜になると不安で眠れないこと

・「このままじゃダメな気がする」理由が、自分でも分からないこと


「ねえ……

私さ、

ずっと一人な気がするんだよ」


「友達もいるし、仕事もあるのに。

誰にも“本当のこと”言えてない気がして」


老婆幸子の胸に、鋭い痛みが走る。

それは、何十年経っても消えなかった感情そのものだった。


老婆幸子は、ここで初めて説教をやめる。


「こうしなさい」

「それは間違ってる」

「私みたいになるわよ」


そんな言葉は、一切出てこない。


代わりに、ただ一言。


「……そうだったのね」


それだけ。


若い幸子は驚いたように顔を上げる。


「……否定しないんだ」


「しないわ」

「だって、それが“私”だもの」


老婆幸子は、初めて“未来を変えよう”としない。


ただ、聞くことを選ぶ。


沈黙の中で、二人の幸子は同じ感情を共有している。


・過去は、選択を変えても救えなかった

・未来は、変えても幸福にならなかった

・でも「分かってもらえた」という感覚だけが、確かに残る


若い幸子は、小さく息を吐く。


「……ねえ」

「それでもさ」


「生きてて、よかった?」


老婆幸子は、少し考えてから答える。


「……まだ、分からないわ」


でも、続ける。


「ただね。

今日みたいに、

“自分の話をちゃんと聞いてくれる誰か”がいるなら」


「それだけで、少しは違ったかもしれないって思う」


若い幸子は、ほんの少しだけ笑った。

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