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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.48 - 誘拐事件 【エウローン帝国 : シャルマ・エボロス/ゼント3ヶ月】



 シャルマがエボロスと共にアジトに帰還し、ゼントの件の報告、そして、エボロスの計らいによってささやかな晩餐が開かれようとしたその時。


 血相を変えたアニヤが飛び込んできた。



 「アニヤ! モイがどうしたってんだ?!」


 ガタっと勢いよく立ち上がったシャルマ。その声は怒気をはらんでいる。


 

 「ううぅ……シャルにぃ~~~」


 アニヤは顔をぐちゃぐちゃに汚しながら、嗚咽が勝っていて言葉にならない。




 すぐさま駆け寄るようにして、シャルマはアニヤの両肩を掴んだ。


 「アニヤ! 泣いてんじゃねぇ! 説明しろ!」


 「ひぐっ……ううぅ~~オイラぁ~~まもりきれながっだぁ~~」



 「それはしかたねぇんだ、アニヤ! いいから説明しろ!」


 

 スラム生活をずっと見てきたシャルマにすると、スピードこそが鍵であると身をもって知っているのだろう。その表情は焦燥感で満たされていた。


 そこへ、ラファがふわりと近づいた。

 

 「シャルマさん、それでは落ち着いて話すのは難しいですよ。焦るのと、急ぐことは違います」


 「あ、ああ、すまねえ……」



 ラファのふわりとした微笑みに、シャルマは少しだけ冷静さを取り戻したようだ。両手の力が抜けた。


 

 「アニヤ。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて……」


 ラファは、アニヤの背をさすりながら、声をかけた。こくこくと頷きながら、アニヤは深く息を整えていった。


 


 「ふぅ……えと、オイラたち、中街の掃除の仕事に行ってたんだ」

 

 話せる程度に落ち着いたアニヤは、顔を上げて話し出した。



 「それで、仕事が終わって、帰り道……外街で……変なやつらにからまれちゃって……」


 「どんなやつらだ?!」


 ふり絞るように話すアニヤに、シャルマは怒りを抑えながらも急かす。



 「あんまり金持ちそうには見えなかったけど……チンピラ風で……でも見たことないやつだったから、わかんない……」


 スラムや外街は、流入してくる移民も後を絶たない。スラム暮らしの子どもが、住人の顔を網羅しているわけもないのだ。


 

 「どっちに行ったか分かるか?!」


 「ごめん、わかんない……オイラやられちゃって、見てないんだ……」


 目立つ傷があまりないところをみると、一、二発ほどで気を失ってしまったのだろう。



 「なら、時間も経ってるってことだな……。クソッ俺も中街から歩いて来たってのによ……!」


 シャルマはギリギリと拳を握りこんでいた。



 「ミトラ、なんか掴んでねぇか?」


 シャルマはパッと顔を上げ、ミトラに目線を送った。



 「ああ、実は近頃外街なんかで、子供が消えるって噂があったんだ。スラムでは起こってなかったから、詳しく追ってないんだ……」


 「そうか……となると……しゃあねぇな。今動けるやつらで……」


 シャルマが立ち上がったところに、エボロスが口を開く。

 

 「僕も協力しよう」



 「エボロス……いいんかよ?」


 「こんな事態だ。もちろんさ」


 「あたし、イーリ姉ぇ呼んでこようか?」


 「ラメント……頼むわ」


 ラメントの申し出に、少し考えてシャルマは答えた。

 

 返事を聞いたラメントは即走ってアジトを出て行った。


 

 「兄貴、俺も出るよ。情報集めてくる。外街酒場で落ち合おう。レイティンたちがいるはずだ。兄貴の足で、外街一周後くらいで。先に何か掴めたら、レイティンに伝えておくよ」

 

 「おお、ミトラ。頼む」

 

 ラメントの後を追うように、ミトラも走っていった。


 

 「ラファ、ガキども全部ここに集めてくれ」


 「はい」


 

――

 

 

 しばし後。


 食堂に、子供たちが全員揃った。


 「わ、なにあれ」 「ごちそーだ!」


 テーブルに並んだ見慣れぬ料理に、子供たちは目をキラキラと輝かせていた。



 「モイ以外はいるか……」


 シャルマは子供たちの姿を確認すると、そう小さくこぼす。



 「ラファ、ルーアン。アジトは頼む。俺は出るからよ」


 「ああ、任せて! モイを頼むよ」 「はい、お任せください」


 ルーアンとラファは、真剣な顔で頷いた。



 そして、シャルマはエボロスと外へ向かい歩き出した。


 「エボロス、すまねぇな、せっかくの料理がよ……」


 「はは。そんなことはいいんだよ。元々、子供たちにって持ってきたんだしね」


 

 シャルマが扉を開ける直前、バタンっと勢いよくアジトの扉が開いた。


 「たっだいま! っと、シャル兄ぃ、イーリ姉ぇ連れてきたよ!」


 「シャルマ! モイが誘拐されたと聞いたが、本当なのか!?」



 元騎士のイーリである。こんな話に怒り心頭なのだろうことが、その表情からありありと伝わってくる。


 「おお、イーリ。……マジみてぇだ。急がねぇとなんねぇ。すぐ出るぞ!」


 「ああ。花嫁修業中だったが、私はシャルマの剣だ。遠慮なく使ってくれ」

 


 「……シャルマ君、こんな綺麗な奥様がいたんだね……」


 エボロスは目を丸くしていた。


 「いや、それはいまはいいだろ……ラメント! お前も留守番だ、しっかり頼むぞ!」


 「はーい! まっかせてー!」


 

 シャルマ、イーリ、エボロスがアジトを出ると……ゴトンと鈍い音が背後から響いた。


 ラメントが扉を閉め、閂をかけたのだろう。



 その音を背に、少し薄暗くなりつつあるスラムを三人は外街方面へと走った。




 「僕は、僕の伝手で聞き込みをするよ。手分けした方がいいだろうからね。例の酒場は把握してるから、何か分かり次第そこに向かうよ」


 途中、エボロスがそう言って方向を違えて行った。



 「イーリ、俺のいない間、母上はどうだった?」


 演習から街に帰還したが、学園とアジトに行ったのみで、まだ自宅には顔を出していないからか、シャルマは走りながら、イーリにそんなことを訊いた。

 


 「ふふ……。さすが、シャルマを育てたお方だよ、ロヴン義母様は。気高く、慈愛に満ちている」


 「そ、そうか……」


 「それより、演習はどうだったんだ? オーズの姿も見えないが……。彼はもう探しに出ているのか?」


 「あ、いや……オーズはな――」


 逆に聞き返されたシャルマは、イーリにゼントの現状を説明したのだった。驚いたイーリは、しばし絶句してしまったが、同時に納得もしたようだった。



 そうこうしながら二人は、いつぞやのゲッズ一家のアジトに着いた。

 

 そして、ゴンゴンと大き目のノックをするシャルマであった。



 「だぁれだぁ?」


 少しの間の後。小汚いゴロツキが扉を開けた。



 「……よう」


 「げっ?! シャ、シャルマじゃねぁか?! い、いまさら何しにきやがった?!」


 ゴロツキは、シャルマに気が付くと、ズザッと勢いよく後ずさった。そして、農家の老人のように腰が引けた姿になった。


 「ゲッズはいるかぁ? ちいと話してぇんだがな」


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