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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.40 - 怪物の頭【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】


 牛頭の突き上げを喰らい、シャルマは負傷してしまったようだった。


 

 駆け付けたゼントは……


 「……火槍・連」


 居並ぶミノタウロスの群れの前面に向かい、火槍で壁を作りだした。


 

 「「ぶもおおおお?!」」


 部屋にひしめくミノタウロスは、またしても恐慌状態に陥った。

 

 

 「シャルマ、エボロスに治療をしてもらえ。まだ薬は残っているはずだ。」


 シャルマの血のにじんだ脇腹を見ながら、ゼントはそう言った。


 

 「いや、でもよ、アレ……」


 しかし、シャルマは暗闇に浮かぶ巨大な牛頭を見ている。

 

 

 「だからこそだ。まだ動いてはいない。」


 ゼントの言う通り、巨大な牛頭は暗闇にぼやっと浮かび上がってはいるものの、身体も無く、動いている様子はなかった。


 

 「ああ、そうだな。分かった。しばらく任せるわ! エボロス! すまん、薬出してくれ!」


 シャルマは納得したようだ。踵を返し、入り口付近にいたエボロスの元へと向かう。


 

 「ああ、こっちへ!」


 エボロスは背嚢(はいのう)に手を突っ込んで瓶を取り出していた。


 

 小型の群れの前へ立ちはだかるように陣取るゼント。刹那の逡巡であった。


 (小型はまだまだ数が多い……それに、あの巨大な牛頭もいつ動くか……。身体は闇に包まれているのか……見えないが……頭があのサイズ感だ。黒霧の力が効かない可能性もある。大量の小型を今のうちに何とかしなければ……)


 

 そしてゼントは、炎の壁に向かい風術を送り込むと、火の勢いを増しつつ、群れを取り巻くように操っていった。


 「「ぶもおおお?!」」


 焼けただれていくミノタウロスたちは肺の中まで焦がされ、のたうち回るものが続出し、部屋の中は阿鼻叫喚となっていった。



 ――その時だった。


 『ブモオオオ!!』


 突如として、巨大な牛頭が吼えた。


 

 そして、暗闇からぬうっと巨大な手が現れ……


 焼け焦げた小型ミノタウロスを一塊(ひとかたまり)鷲掴みにすると、ぽいっと口の中に入れて、ボリボリと貪り喰ったのだ。


 

 「な、はぁ?! なにしてやがんだぁ?!」


 エボロスに治療を受けつつ、ミノタウロスたちの動向を注視していたシャルマが、その行為に驚きの声を上げた。


 

 「どうし……なっ?!」


 つられて振り向いたエボロスも驚愕する。


 

 (仲間……ではないのか? ……好きなように出来る手下ということか? どの道、小型も全部葬らなくては脱出など不可能だが……ずいぶんな扱いだな)


 ゼントは内心で嫌悪感を抱いたようだ。


 

 (……?! 神力の集中が加速した……?! やはり、あの巨大牛頭が本来の迷宮の主ミノタウロスか……!?)


 同時にゼントは異変を感じた。即座に水斬を放ち、巨大牛頭が餌を掻き集めている腕を狙った。


 

 ――ザシュッ!!


 正確な狙いで、見事に命中した水斬は、巨大ミノタウロスの腕を切りつけた。鮮血が迸る。


 『ブモオオオ!!』


 だが、いつぞやの熊の胴よりも太い腕の切断には到らず、半分ほどを斬っただけだった。


 

 通常の生物であれば、それでもかなりの痛手ではあるのだが……


 巨大牛頭は、そのまま掻き集めた小型ミノタウロスをボリボリと貪り喰う。すると、たちどころに腕の傷が癒えていった。


 

 (な……なんだと?! これでは消耗戦……持久戦は確定だ。……だが、やるしかない……!)


 なおも水斬を放ち、少しずつでも切り刻もうと試みるゼント。


 

 「クソッ! オーズひとりじゃマジィぞ! すまん、エボロス、急いでくれ!」


 ゼントの様子を見守るしか出来ないシャルマが、苦々しく大声を上げた。


 

 「ああ、分かっている!」


 シャルマの傷口を洗浄し終えたエボロスは、薬を塗布し、あて布をし、さらに包帯代わりの布を巻き付けていく。保護板も挟み込み、さらに布を巻いた。


 

 「よし、これで多少よくなったはずだ。また機を見て閃光でも……」


 「ありがとよ、エボロス。だが、今は閃光って感じでもねぇかもな。」


 装備を整え直しながら、シャルマが口を開いた。


 

 「ちいせぇ牛頭は、多分このまま喰われ続けるだろうよ。あのデカブツに、閃光がどれくらい効果あるかだが……そもそも身体すら見えてねぇ。今狙いを付けるにも、あの頭までは流石に届かねぇしな。仕掛けんならちいせぇのがいなくなってからだな。ま、神力はなるべく温存しといてくれや!」


 「あ、ああ。他に何か出来ることがないかも考えてみるよ。」


 「おう! 頼んだ!」


 そう言ってゼントの元へ走るシャルマ。


 

 「何か……か。僕には……彼らのような突出した力はない……。足を引っ張るわけにはいかない。生き残るんだ。必ず……3人で。考えろ……! 考えるんだ……!」


 シャルマの背中を見送りながら、そんなふうに呟くエボロス。


 

 そして、部屋中を見回しだした。石壁石畳の部屋。古いのだろうが、朽ちているわけでもない。


 そして、巨大牛頭のいる方向は、奥すら見通せない暗闇で満ちている。


 

 神力にも限りがある。そしてこの広い部屋全体を照らす光は、エボロスには作れない。あの闇を照らしだすには、もう少し近付く必要がある。


 エボロスはそのチャンスを待ちつつも、2人の様子を注視する。



 

 「オーズ! すまねぇ! 待たせたな!」


 ゼントに駆け寄ってきたシャルマ。行きがけの駄賃とばかりに、小型ミノタウロスの首をひとつ刎ねる。


 

 「ああ。この場所を頼めるか? オレは、奴の近くへ行く。」


 「おいおい、大丈夫か?」


 シャルマの心配を余所に、部屋の奥――巨大牛頭の元へ、ゼントは一直線に走り出した。


 

 「ぶお……?!」 「もっ……」 「ぶも……」


 通りすがりつつ全てを瞬時に滅殺・吸収していくゼント。


 通り道がジッパーを開いたかの如くに分断されていく。


 

 「あれが……黒霧の力の本領か……」


 エボロスがその光景を遠目に見ながら呟いた。



 

 「おおぅらぁ! どんどんいくぜぇー!」


 阿鼻叫喚となっていた小型牛頭たちの群れの前に立つシャルマ。


 先頭を順次、斬り伏せ斬り飛ばし、突き殺していく。どうやら分断された片側から先に片付ける腹積もりのようだ。闇に浮かぶ巨大な右手の逆側、左方を攻めている。



 

 そしてゼントは、巨大な右腕へと一直線に飛び掛かっていった。


 『ブモオオオオ!!』


 その瞬間、地の底から湧き上がるような音圧の咆哮が、部屋の中に飛び散るように、埋め尽くすように反響した。


 「ぐぅっ?!」 「ううっ?!」


 シャルマは平衡感覚が狂いそうな感覚に陥り、牛首を刎ねていた手が止まる。


 そして入り口付近にいるエボロスも、距離は離れているはずなのに、頭を抱えた。やたらと音が響く部屋だと思っていたが、この為だったか……と、エボロスは実感した。


 

 だが、ゼントはそのまま巨大な腕に取り付き、黒霧を纏わりつかせた。


 その時、巨大な牛頭が(わず)かに右へ動き、不気味なほどの闇を(たた)える双眸(そうぼう)が、グリンと動き――その右手に取り付いた異物を凝視した。


 (……くっ! やはり、全てを取り込むのは無理か……! だが、リンドのスライムの力と併用すれば……)


 

 『ブモオオオオ!!』


 黒霧が淡く光ると、巨大な右腕は白煙のようなものを上げだした。苦しむような絶叫にも思える咆哮を上げる巨大牛頭。


 その声に、ゼントを除いた部屋中の存在が自由を奪われたようにその場に(うずくま)ってしまった。


 

 だが……


 「ちっ……くしょうがぁ! やかましいんだよぉ!」


 シャルマは、何とか立ち上がると、ハルバードを振るう。そして、目の前に蹲っていた小型牛頭を刎ね飛ばすと、腰に付けていた小鞄から何かを取り出して、耳に詰めたようだ。


 「オーズ! 俺はこっちを今のうちに処理する! 何とか頑張ってくれや!」


 そう言い放ち、再びハルバードを振るい、鮮血を降らせるシャルマ。


 

 「ああ。先ずは右腕を溶かしきる……!」


 『ブモオオオオ!』


 そして、再び巨大牛頭が叫ぶと……

  

 闇の中からぬうっと、巨大な左腕が現れた。

 

 

「……左腕だ! シャルマ君! 左腕だぁぁ!」

 

 エボロスが叫んだ――

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