表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/74

1.38 - 怪物の部屋【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】



 ゼントが夜番をこなす中、休息を取ったシャルマとエボロス。


 何時間を休息に充てたのかは正確には分からないが、ある程度は回復したようだった。


 「んで、結局何匹きたんだ?」


シャルマはテントをたたみながら、ゼントに夜間の確認をした。


 「ああ、最初に5匹……その後は順番に1匹ずつきたな。……13匹だな。」


ゼントは思い出しながら答える。集団で来られない限りは、黒霧の力を使ったゼントにすれば、牛頭狩りなどただの作業に過ぎなかったのだ。印象にも残りにくいのだろう。


 「そ、そんなにかい?」


 だが、そんなゼントの答えに少し顔を青くするエボロスだった。


 「で、結局増えたのはこのこん棒だけかよ……。」


 その無骨な棒は、全てのミノタウロスが持っているわけではないが、昨日より3本増えていた。


片付けを終えたシャルマは不満顔である。一応背嚢(はいのう)にこん棒をくくり付けたようであるが、高値で売れるものでもなさそうだ。


 「そうだな。他に何も持ってはいなかったが……」


 「が?」


 言葉を区切ったゼントに、エボロスが耳聡く反応した。

 

 「いや、記憶を読もうとしたんだが……上手く見えなかったんだ。」


ゼントの表情が変わることはないが、言葉尻は少々の悔しさ、残念さを含んだものだった。


 「なるほど。人でもない種族だし……というか、幻獣に近いのかもね、怪物というものは。そんな言葉すら通じないものの記憶……思考を覗こうだなんて、難しいだろうさ。」


 「そうだな。こんなことなら、動物で試しておくべきだった。」


 「おいおい、それじゃ狩りの獲物が減るだろー。」


 「ははは。たしかにそうだね。まぁ、オーズ君。無理なものは仕方がないよ。出来ることをしていこう。」


だが、エボロスは過度な期待をそもそも持っていなかったのだ。気にした素振りすらない。その念は危険だということを、若いながら知っているのだろう。


 「ああ。そうだな。」


そんな慰めるでもなく責めるでもないエボロスの言葉は、ゼントには心地よかったようだ。いつもと変わらない短い言葉だが、納得の色を含んでいた。




そうして、未探索ルートに足を踏み入れた3人。


「それにしても、今演習開始からどれくらい経っているかが正確には分からない。そこが先ず問題だね。仮に1日としておくと、成績評価という観点での猶予は、残り2日。過ぎるとかなり評価に響くだろうね。」


マッピングをしながら口を開くエボロス。その真剣な表情からは感情が読み取りにくい。


「そうだな。」


「逆に言えば、それまでは救助がない可能性があるとも言えるね。」


現状を確認・共有するように、淡々と語るエボロスである。


「おー、オーネスの野郎が自首したとも思えねぇしなぁー。期限過ぎるまでは気付かれねぇだろーなぁ。いや、まぁでもこの感じならよ、別に救助はいらねぇだろ?」


シャルマは、頭の後ろに腕を組みながら、少し目線を上げた。オーネスの事を思い出しているのだろう。


「うーん。ミノタウロスに関してはそうかも知れないけどね。食料備蓄の問題もあるしね。こっちに関しては、多めにあるとはいえ、普通に消費したら1週間分だよ。」


「1週間かぁ……。こんな辛気臭いとこにそんな長く居んのは勘弁願いてぇなぁー。」


シャルマは、神力の流れなどは全く感じることが出来ない。それでも野生の勘のようなもので、この迷宮の異様な雰囲気――危険性のようなものを感じ取っているのだろう。


「それには全く同感だよ。この際、評価なんて捨てたっていいんだ。生き残りさえ出来ればね。」


 成績も大事ではあるが、エボロスにしてみれば、それは生存の重要性と釣り合うものではないのだ。軍の要職への道を目指し良成績を目的としているならば、そもそも問題児2人と組もうなどとは思わない。


エボロスには、商家の再興という明確な目標があるのだ。成し得るには、清濁併せ呑み、修羅場を潜り抜ける覚悟すら必要だ。


「はっはっ! そこは俺たちに任せろよ! な、オーズ?」


笑いながらガシッとゼントの肩を組み寄せるシャルマ。


「巻き込んだ手前もある。エボロスにしたら理不尽な話のはずだ。守るさ。」


「ははは。やはりオーズ君は"オーズ様"ではないんだね。」


生前のオーズは、理不尽の塊だった。だが、善人(ゼント)は理不尽にさらされ続けた側だった。悪人となる決意をして生きる今、理不尽には真っ向から抗うと決めているのだ。


 そんな自分自身が、不当に理不尽を強いるなどとは許しがたかったのだろう。口下手でコミュ障のゼントではあるが、随分と言語化できている。


こんな状況下ではあるが、エボロスの表情は柔らかささえ持っていた。




 そうしていくつかの曲がり角を曲がり、突き当りを戻り……と繰り返すこと数時間。


 「ん? なんか、空気が……風が動いてねぇか?」


 「風もだけど……これは……」


 「エボロス。この道しかないのか?」


 3人はそれぞれがその先の通路に違和感を抱いていた。


 「そうだね……」


 ゼントに言われて、紙に目を落とすエボロス。


 「ここが、反対側へ進める唯一の道だな……」


 小さく答えるエボロスに、ゼントは


 「そうか」


 と、短く返した。だが、ゼントには分かってしまっていたのだ。


 「エボロス。この先はおそらく部屋のようになっている場所がある。そこに入ったら、オレたちより後方に下がって、光術をなるべく光らせてくれ。」


 「……分かった。まさか……」


 「ああ。ミノタウロスだ。」


 「ほぉう? お宝はあんだろうなぁ?」

 

 「シャルマ。前に出すぎるなよ?」


 「おうよ! エボロスもいるしな。」


 そうして歩を進めた3人に待ち受けていた光景は――


 「おお……なんということだ……」


 「はっはっ! マジかこれ!」


 かなり広い部屋……現代的に表せば、バスケットコート程の石の部屋――


 そして、その広い部屋を埋め尽くすような、ミノタウロスの群れだった。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!


また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ