2.15- 聖良オーディション【チカーム教国:聖良3ヶ月】
聖良の所望した護衛オーディションは、ゴルドの想定していた規模とは異なり、結局のところ若い騎士は全て集められ、吟味される事となった。
「聖皇様。揃いましてございます。」
「んー。」
ゴルドに呼ばれて寝椅子から身体を起こす聖良。オーディションは自分から言い出したことだが、随分と億劫そうである。
気だるげに部屋を後にした。
オーディション会場は、教栄の間だった。ここには教皇用の玉座があり、会議用の部屋だけあってそれなりの広さを持つからだ。
この部屋は、三大派閥が幅を利かせていた頃は、しょっちゅう会議という名の口論が繰り広げられていた場所であるが、今はもうあまり使われてもいない、主のいない部屋である。
部屋中に立つ騎士たちの中央をつかつかと歩き、玉座に座る聖良。
「じゃ、全員素顔見せなさい。」
「「「はっ!」」」
そうして聖良の新直属護衛オーディションが開催された。
――――――
――――
――
ちょうどその頃、大聖堂のとある執務室に予期せぬ来客があった。
「……はぁ……はぁ……あ、アナスタシア神官長……」
「……え? ローグラッハ神官長? なぜここに? エレミヤ領にいるはずでは……?」
旧エレミヤ王国領にいるはずのローグラッハが、なぜかアナスタシアの執務室に来ていたのだ。
そのローグラッハは最早、アナスタシアから見れば、浮浪者にしか見えない格好であった。
よくも警備に止められなかったものだとも思ったが……
そういえば今日は聖良が男の騎士全てを集めていると聞いていた。それを思い出し、納得した様子である。
「あのような場所に拙官がいつまでも居れるはずがないでしょう……! セラ……いえ、聖皇様はどちらですか。」
「え……と、聖皇様になにか?」
「なにか……? なにかではありません! 拙官の派閥員は全滅しました! 全員が惨たらしく殺されたのですよ! それを報告し、如何に愚かしい判断をしたのかということを思い知らせねばならぬでしょうがっ!」
ローグラッハは、疲れからなのか、興奮からなのか、始終肩で息をしている。ろくに食べてもいないのだろう。糸目の周りにもしっかりと皺が刻まれ、目が増えたようにも見える。
そして頬はこけ、病人のようである。旅立って2ヶ月程度でずいぶんと老け込んでしまっていた。
「なるほど……。そういう事ですか。ですが、ローグラッハ神官長。エレミヤは貴方主導で滅ぼした国ですよね。
その後の扱いが上手く出来ていなかったのも、貴方の管理では? そんな地にまさか無策で向かったのですか?」
「ぬ……ぐ……」
「エレミヤの滅亡時など、セラ様は2歳。直接的な関係は全くありません。私も教巡に出ておりましたし、当時の本部の状況は詳しくわかりかねますが……
派閥長となってからは貴方との付き合いは長いですからね。貴方のやりようは存じておりますよ。」
アナスタシアの言葉に、みるみる顔を赤くしていくローグラッハ。
「……う、うるさい! このような場所でぬくぬくしておった貴官に何がわかるかっ!」
「……ぬくぬく、ですか。一応、誼で忠告をした……そのように捉えていただいた方がよろしいかと存じますよ、ローグラッハ神官長。」
アナスタシアは、含みのある笑顔を見せた。
そんなアナスタシアも、顔色が非常に優れないのだが、自身のことで精一杯なローグラッハは、そんなことには気が付かないのだった。
「も、もうよいわっ……! 聖皇はどこにおるっ!? 言わぬかっ!」
「はぁ……。教栄の間ですが……今……」
「くっ……! あの部屋で何をしておるかっ……! セラめが……!」
「あ……」
ローグラッハは、教栄の間と聞いて、部屋を飛び出してしまった。
引き止めようとでもしたのか、アナスタシアの手が宙を泳ぐ。
「ローグラッハ神官長……教栄の間には、騎士が集められているのですよ……。聖皇様の忠実な騎士たちが……。」
開け放たれたままの扉に向かい、アナスタシアは小さく呟いた。
「アナスタシア殿、今のはもしかしてローグラッハ神官長か?」
ローグラッハと入れ違いに、ローザが姿を現した。
「ローザ部隊長。そうね。エレミヤから逃げ帰ってきたみたいね。そして、私の話を全部聞く前に、行ってしまったわ。……教栄の間に。」
「なんだと? 何をしにだ?」
「どうも、聖皇様に物申したいそうよ。」
「おいおい……死にたいのか? あの爺さんは……」
ため息を吐くローザ。
「ま、それはいい。いや、むしろ都合がいいかもしれないな。アナスタシア殿。話があるんだ。」
「都合がいい……? その、私にしたい話との関連性がある、ということかしら……?」
「まぁあまり人に聞かれたくない話だ。場所を変えたい。」
「そう……。楽しい話ではなさそうね。わかったわ。」
ゆっくりとした動作で一歩踏み出したアナスタシアだったが……
「お、おい、大丈夫か?」
ふらついてローザに抱き留められる有様である。
「ああ、ごめんなさいね。ありがとう。さ、行きましょうか……」
そうして、ローザとアナスタシアは連れ立って部屋を出て行った。
――――
――
オーディションの始まった教栄の間。
聖良は、最初は玉座から騎士たちを見下ろし睥睨していたのだが……
よく見えなかったのだろう。いつの間にか玉座から降り、歩き回りながらひとりひとりをじっくりと見回していく。
まるでウィンドショッピングのように騎士たちを値踏みしていく聖良。
――そんな時だった。
バァン! と激しく音を立て、扉が乱暴に開かれた。
「聖皇様! お話がありますぞ! ……ん? これはなにをして……」
ローグラッハが乱入してきたのだった。
だが、勢いよく開いたのは扉だけで、本人はよぼよぼと数歩を進んだ。
そして、中の異様な雰囲気に気が付くと、その歩みを止めたのだった。
「うわ、なにあの汚らしいの。ヤバ。ここまで臭いそうなんだけど? ファブとかないんだしさぁ、勘弁してよねー。ちょっとー、ほらぁー、誰でもいいからさぁー、捨ててきてよ、あのゴミ。」
「「はっ!」」
「……な?! なんという……」
近くにいた騎士2人が、瞬く間にローグラッハを拘束した。
「きさ……くっ……離せぇっ……無礼者がぁ……拙官は神官長! ローグラッハなるぞ! ……おのれセラめ! 恩知らずの毒女がぁー! 必ずや……かなら……」
そして扉はバタンと閉じられた。
「あんなゴミが勝手に入ってくるなんてねー。困ったもんね。はぁーあ。めんどくさ。」
「聖皇様、彼はローグラッハ神官長かと……」
うんざり顔の聖良にゴルドが説明をした。
「えー? 誰だっけ、ソレ。」
だが、聖良の記憶にはないようだ。
聖良の価値基準では、ローグラッハは記憶に残す価値もない、興味すら持てない人物ということでしかないのだろう。
その聖良の様子に、一瞬動揺の表情を見せたゴルドだった。
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