表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/74

2.14 - ローザの苦悩 【チカーム教国:聖良3ヶ月】

チカーム回


 市井を巡り、情報収集に勤しんでいたチカーム教国聖騎士団、部隊長ローザ。


 大聖堂へのその帰路で、怪しげな会話を耳にし、その声の主の元へ即座に赴き、問い詰めた。ひとりは見覚えのある聖女候補、ひとりは見覚えがない怪しげな男である。


「で、何が()()()()()()()のだ?」


「くっ……」


 その場所は、ちょうど人気のない袋小路である。密談にちょうど良かったのだろうが、ローザに退路を塞がれた今、逃げ場はない。

 

 怪しげな男は、苦々しい顔でローザを睨みつけた。


「あ……あの……こ、これは……」


 聖女候補も良い言い訳が見つからず、答えられないでいる。


「何を迷っているのか理解に苦しむが……そうだな。先ずは話せ。問答無用で処分されたくなければな。」


 そう言うと、ローザは狭い袋小路の右方に少しずれ、すらりと剣を抜いた。


「……あ……は、話します! 話しますから!」


 聖女候補は雨に濡れた子猫のように、小刻みに震えながら涙声で叫んだ。そして怪しげな男も、最早諦めたのか、両手をだらりと下げた。


「まぁ、聞かれちまったもんはしょうがねぇ、か。せめてヤツくらいは……と思ったが、俺もここまでか。」


「ああ……なぜ……このような……アナスタシア様……申し訳ございません……」


「懺悔も後悔も後でいい。話せ。」


 天を仰ぎ悲嘆を漏らした聖女候補に、ローザは短く言い放った。


「は、はい。この方は、旧エレミヤ王国領のチカーム教抵抗勢力の方で……」


「ほう……」


(安酒場の噂話も満更ではないということか……。いや。もうそこまで事態が逼迫している、という方が正しいかもしれんな……)


 剣を手に、目線は外すことなく視界の端に男を捉え続けながらも、思考は動かし続けるローザ。


「まぁ騎士さんも知っての通り、エレミヤの住人は全滅したわけじゃあねぇ。だが、教順しなかった連中は、旧エレミヤ領内に残って、迫害……略奪……殺害され続けている。だから俺たちは生きるために抵抗し続けているわけだ。」


「ああ、知っているとも。教順者の暮らす村はチカーム本国にあるな。まさか……」


「はい。私はそこの出身です……。元々は同族……密かに食料や生活物資などの取引や援助なども行っておりました。

……あの、村は! 村はどうか! ここまでお話したのですから!」


「それは全て聞いてからだ。」


「は、はい。そのような繋がりから、ある時……話を持ち掛けられたのです。それが……聖女候補セラの暗殺です。」


「ほぉう。」


「ローグラッハ派のこれ以上の台頭を許せば、旧エレミヤは全滅してしまう……そのように言われまして。そして、私としても、アナスタシア様の派閥です。ローグラッハの手駒の聖女誕生なんて、阻止したかった……。」


(だが、結局……セラはその暗殺を奇跡で乗り越え、聖女どころか教皇にまでなってしまっている。なんとも皮肉なことだな……)


「で、また……とは? まさか先日の……」


「あぁ、そうさ。俺たちは聖皇暗殺を狙っている。俺は聖都の監視役であり、コイツとの連絡役だ。」


「なるほどな……」


 一気に一連の真相に触れ、途端に腑に落ちた表情となったローザ。


「ですが、セラは……以前とはまるで別人のようになって……復活してしまった……。私たちはメイド代わり……騎士団もいいように使われ……市井への喜捨要求も増えて……アナスタシア様ももう限界です。」


(アナスタシア殿か……。確かにもう、限界に近い働きぶりだな。事務処理に派閥管理、市井との摩擦緩和に、説法の派遣か……。このままでは……アナスタシア派は瓦解してしまう。我が隊は、今や国防が主となってしまったがゆえ、バストスにも派兵されておらんし、損耗はないが……。だが、セラは女騎士が好きではないのか、女だけの我が隊を遠ざけておるのか……男が好きなだけなのか……。わからんが……軽く扱われる現状に不満を漏らす隊員はいる。我が隊も……いや、私も元はアナスタシア派だ。この候補の気持ち自体はわからんでもない……)


 押し殺していたはずの気持ちが噴き出てきてしまったローザは、その表情を少し曇らせた。


「ローザ様、どうか、どうかお慈悲を……!」


 祈るような仕草の聖女候補を前に、逡巡するローザ。


「なぁ、騎士さんよ。この娘はひとりじゃ何も出来ねぇさ。……俺の首だけにしてくんな。若ぇ娘道連れになんて、冥土の嫁さんに怒られちまうからよ。」


「……そうか。」


 ローザのその一言で、男はすっと目を閉じた。そして聖女候補は、祈る姿勢のまま全身を固くしながら、ギュッと目を閉じている。


 (ああ……私にはもう、何が正しいのかすら分からないな……。信仰とは……何なのだ。人を救うものではなかったのか。我々は……救われているのか? エレミヤのように、滅びに抵抗する者、そして、バストスのように滅んだ者たちは、救われないということか? 今までずっとそうだと思っていたが、今の我々の苦悩と、彼らの苦悩……中身は違えど……救われていないのは同じじゃないのか……? ……もう、私にはわからないな。そんな私に、彼らを裁くことなど出来ようはずもない……)


 すっと剣を鞘に納めたローザ。


「……おい。全部話したぞ? さっさと殺ってくれ。」


「……いや、何の話だ? 我々は少し世間話をしていた。……そうだろう?」


ローザは静かにそう言った。



「え……」


 呆然と目を見開いた聖女候補は、よだれを垂らさんが勢いでぽっかりと口を開けている。


「お、おい、そんなんでいいのか、騎士さんよ……?」


「……ああ、私にそんな資格はないと、気が付いた。そういうことだ。」


「……いや、どういうことかは分からんが……あんた、チカームの騎士っぽくないな。」


そう言って、エレミヤの男は目を閉じて微笑んだ。


「行くぞ、スヴィー。」


「あ、は、はい。」


スヴィーと呼ばれた聖女候補は、事態が呑み込めないままローザに従っていった。


「まさかお前がこんなに大胆な奴だとは思っていなかったぞ、スヴィー。」


「え……いや……あの……すいません……」


「……現状は私も憂うところだ。気持ちはわかるさ。前を向け。……だが、あれでは成功は見込めないぞ。」


「えっ……?」


前というより、信じられないものを見たという顔でローザを見たスヴィー。


「お前たちのしようとした事は、もっと慎重な下準備が必要なのさ。それこそ、ネロ殿やビアンコ殿が他国にそのような事をしているが、大きな成功を収めたことはないぞ。」


「は、はぁ……。」


突然始まったローザの講釈に面食らうスヴィーであった。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!


また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ