2.12 - 聖杯の力 【チカーム教国 : 聖良3ヶ月】
聖良回
聖良が血溜まりの中、恍惚の表情で薄笑いを浮かべていると……
「聖皇様! ご無事ですか! 一体なにが……?!」
ゴルドが慌てふためいた様子で駆けつけてきた。
「あら、ゴルド。まぁなんか分かんないけど、襲われたみたいねー。」
「はっ……?! お怪我は?! そして、シルバはどう……」
「あー、怪我はないわよ? コレ、返り血だから。くふふ。……あ、シルバか。そこに倒れちゃったわよ。」
「な?! シルバ……! シルバ! しっかり……」
シルバに駆け寄り抱き起こしたゴルドだったが、すぐに絶望の表情を浮かべた。
「……シルバ、役目を果たしたのだな……。いや、だが……。聖皇様、何卒、聖杯の奇跡を思し召していただけませぬか……! もし間に合えば……シルバはこの通り忠義の徒にございます……!」
必死な形相で懇願するゴルド。
(えー? どう見てもソレ死んでるじゃん。めんどくさ。まぁでも、やるだけやっとかないとゴルドが逆らうようにでもなったらもっとめんどくさいかぁー。)
「……仕方ないわねぇ。やってみるわよ。」
「ありがとうございます!」
聖杯に神力を込める聖良。淡い光から次第に光量が増し、一帯を、シルバを、包み込んだ。
「……おお、奇跡の輝き……!」
ゴルドはその光景に感嘆の声を漏らすのだが……
「ふう……。どう?」
「……え、はっ?! ……傷は、治っております!」
シルバに開いた二筋の貫通痕は見事に埋まっていたのだが……
「……ですが、息を……しておりません……」
(ほらー。やっぱりねー。死者の復活は初代でも出来なかったんでしょー? このコップ、そこまで万能じゃないわよ。)
綺麗な死体が出来上がっただけだった。
「ぐっ……やはり、聖杯の奇跡を持ってしても冥界に囚われた魂までは……戻らぬか……っ! シルバ……! 誠、忠義の徒よ……! 安らかに……」
ゴルドは綺麗な死体を抱き締め、嗚咽を噛み殺した。
――――
――
大聖堂に帰還し、入浴と着替えを済ませた聖良。
「ゴルドー。」
扉に向かって呼びかけた。
「はっ!」
「1人じゃ心許ないよねー。もう1人補充したいんだけど、護衛。」
「はっ! 確かに、シルバも1人で奮戦し散りました。私もそのようになるやも知れませぬ。」
「うんうん。せっかく仲良くしてるんだもん。ゴルドまで死んじゃったらさぁー。さすがに嫌だしー?」
「はっ! ありがたきお言葉!」
「と、いうわけで、オーディションしまーす!」
「……お、オーディション? で、ございますか?」
「そそ。じゃ、護衛候補、呼んできてー。」
「……は、はっ! ただちに!」
早足で廊下に消えるゴルドだった。
「さぁてと。」
聖良は、聖杯を持つ。
(んー。聖癒術は、ちゃんと使えるんだよなー。てか、防腐加工みたいなの、出来ないかなぁ……。シルバ、せっかくのイケメンだもんなぁ。忠義の徒がどうのとかゴルドも言ってたしさぁ、飾ってあげたら名誉でしょ。んー。どうしよっかなぁ……)
横たわるシルバの死体をジロジロと見回し、時折ペチペチと叩いてみたり、ゆさゆさと揺すってみたりと、何やら試している様子の聖良。
(多分、聖癒術をかけつづけたら腐りはしないだろうけどなぁー。こう、ビシッと立ってる感じがいいよね。蝋人形みたいなさ。とりあえず、聖杯に願ってみちゃう?)
聖杯に神力を込める聖良。
(腐るな〜腐るな〜蝋人形〜シリコン〜サイボーグ〜……かちーんとする〜)
頭の中に精一杯の成功イメージを浮かべた。
次第に膨らむ光の奔流が、シルバを包み込み……
やがて光が収束した頃。
「はぁ……はぁ……はぁ……し、しんどっ……?! なにこれ、めちゃくちゃキツいじゃん。」
聖良は息も絶え絶えだった。
「はぁ〜……。これで上手く行ってなかったら疲れ損……お?」
ペチペチと確かめる聖良。
「これ、出来たんじゃね? 私、やっぱ天才かも! くふふ……」
ニヤリと口の端を歪める聖良だった。
――――
――
――コンコンコン
聖良の居室にノック音。
「聖皇様。」
ゴルドが戻ったようだ。
「はいはーい。揃った?」
上機嫌な様子で応える聖良。
「失礼いたします!」
と、中に入ったゴルドは、一瞬ギョッとした表情となった。
それもそのはず。シルバが立っていたのだ。
「な……せ……聖皇様……そ……それは……」
「くふふ。すごいっしょ? シルバが立った! シルバが立った〜ってね! くふふ……。」
「……え、あ……いや……あの……」
ゴルドには、目の前の出来事が何一つ理解出来なかった。
「あはは! ゴルドー! なにその顔! あはっ……シルバはさぁ、忠義の徒、だったわけでしょ? だからぁ、そんな偉いシルバを飾ってあげるのよー。名誉ってやつでしょ? ずっと残るんだし、すごくない?! くふふ……」
「ずっと……残る……」
ゴルドは、まだ理解が及んでいない様子でそれだけ呟きながら呆然としていた。
「……ん? なに? なんか不満? あのまま森に捨てといた方がよかったわけ? あのゴミクズたちといと一緒にさぁ……?」
ゴルドの反応がお気に召さない様子の聖良は、途端に声のトーンが落ちる。
「あ……いえ! 私には思いもよらない神の御業でございましたので、放心してしまいました。申し訳ございません。」
「くふふ。そうよねー。すごいっしょ? くふふ。」
「はっ!」
「あ、で、オーディションは?」
「はい、候補をお連れいたしました。入れ!」
「はっ!」
ゴルドの声で、扉前に待機していた者が1名、部屋に入ってきた。
「……え? 1人?」
「はっ! こちらの者、腕も確かで、忠義にも厚く……」
「ねぇ……ゴルド。私、オーディションって言ったのよ。オーディション。誰が1人連れて来いって言った?」
「え……は、いや、その……申し訳ございません、オーディションとは……候補をお連れするということでは……」
「もー! 全然違う! たーくさん並べて、私がその中から選ぶの! 分からんなら、最初っから聞けよ! 二度手間だろ!」
「はっ……! も、申し訳ございません! ただちに、そのように手配いたしますゆえ……何卒……」
「ふん……。まぁいいわ。急いでね。……あ、後ゴルド。夜は……」
「は、はい。もちろんでございます!」
ゴルドは、焦った様子で部屋を飛び出した。
連れられてきた護衛候補も、事態が呑み込めていなかったが……
ゴルドに倣いそそくさと出て行った。
「はぁ……。時々言葉通じないんだよなぁー。めんどくさ。」
聖良はそう呟くと、いつもの寝椅子にドサリと横になった。
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