1.29 - 鉄鋼団の騎士 【鉄鋼団 : イーリとシャルマ】
シャルマ回
エウローン帝都外街の酒場。
鉄鋼団に新たに加入したイーリ・クリーミア。
彼女はシャルマ、レイティンと共に、用心棒の仕事に来ていた。
「おい、貴様。何をしている。」
ビュッと素早く剣を振り、暴れる酔客の首筋にビタりと突きつけるイーリ。
「なぁんだぁテメェはよう……? おれさまが誰だかわかってんのかぁ〜?」
「貴様のような下衆を知るわけなかろう。私は鉄鋼団シャルマの剣、イーリ・クリーミア。これ以上騒ぐつもりならば……その首で自分の胴を拝むことになるが?」
「なぁんだぁ女ァ……? キレェな顔してよぉ〜! だったらテメェが相手ェしてくれるってのかぁ?」
「ふぅ……。貴様の言う"相手"と同じ意味かは知らないが、お望みならば……」
ビュビュビュッと軽やかに、瞬時に剣を振ったイーリ。
「あ……?」
酔客の気付かないうちに、イーリの持つ剣は、酔客の服を斬り裂いていた。
パサリと落ちる、酔客の服。
「ギャハハ!」 「丸出しだぜぇアイツ!」 「キャー!」
「きったねぇー!」 「あはははは!」「もっとやれー」
その様子を見ていた他の客たちは、拍手喝采。大盛り上がりだった。
喧嘩の絶えない外街酒場では、喧嘩などはいい見世物なのだ。
「かははは! ひーっ! あ、兄貴ぃ! めっちゃいいじゃねぇっすか、イーリ! あんなん……兄貴の嫁にぴったりっすよ! かははは!」
「あぁん? ったく。どーゆー意味だよ……」
イーリの仕事ぶりを見ていたレイティンとシャルマ。
レイティンは爆笑し、シャルマは口を尖らせた。
「ち、ちきしょーが! テメェ……ゆるさねぇぞ……! マジでおれさまがどこの誰かわかってねぇらしいな! おれさまはなぁ……」
「はぁ……。その臭い口をいい加減閉じろ、下衆が。」
――ドッ! ガッ! ……ドサッ
剣の柄で鳩尾に一撃、そして後頭部に一撃、イーリは素早く繰り出した。
酔客は瞬時に昏倒し、床に倒れ込んだ。
イーリの流れるような剣技。実に鮮やかな手並みだった。
つかつかとシャルマの方に姿勢よく歩み寄るイーリ。
さらりと金の長髪をなびかせ、颯爽として堂々たる姿である。
「どうだったろうか。」
「おぉ、さすがの腕前だな!」
「ふふ……。」
イーリはシャルマの素直な褒め言葉に、嬉しさが込み上げたようだった。
整った顔が紅潮し、綻ぶ。
「いやぁ、イーリ、あんたぁすげぇな! 笑わせてもらったぜ! 俺は、認める! あんたが兄貴の嫁んなりゃいいぜ!」
「ほ……本当か? レイティン!」
「お……こら、おま……レイティン!」
「かははは! 2人の子供なら男でも女でも強く育……」
――ガタン!
「おぉい! 誰だァ? ゲッズ一家に手ェ出しやがったヤツはよお!」
新たに入ってきた5人組の一人が、倒れた酔客を見て叫んだ。
「ああん? ここは鉄鋼団が面倒見てる店なんだよ。そこで暴れるってこたァよ、喧嘩売ってんのはそっちだよなァ! あぁ?!」
その言葉に、レイティンが吼えた。
「鉄鋼団だぁ? チッ……スラムのガキ共じゃねぇか……。鬱陶しい……オイ。」
「……へい。」
5人のうち、1人が外に出て、どこかへ走って行った。
「あぁん? 逃げやがったかぁ? ま、いいや。表ェ出ろや! ボッコボコにしてやるぜ!」
「はっはっ! レイティンは今日もやる気じゃねぇか!」
「私も、もちろん付き合おう。」
鉄鋼団3人、酒場の外に出る。
ゲッズ一家と名乗ったゴロツキが4人、しっかりと待ち構えていた。
「てめぇ、でけぇの。シャルマってったか? ガキどもの頭だよなぁ。色々聞いてるぜ? 広場付近を縄張りにしてるってのもなぁ……。」
「で……?」
眉をひそめながら短く問うシャルマ。
「ウチはよう、外街にしっかりした基盤があんのよ。勝負になると思ってんのかぁ?」
「……おいおい。口喧嘩してぇのか? 外街のゲッズ一家かよ。確か……モグリの武器屋の裏か。」
「な……」
シャルマの言葉に、絶句したゴロツキ。
「いや、そりゃこんな稼業してんだからよ、情報ぐらいは入れるだろ? ま、んなこったからこんなとこでゴロまいてんだろうがなぁ。」
「ああん? クソガキが!! 殺っちめぇ!!」
ゴロツキたちは、一斉にナイフを抜いた。
「あーあ。殺る気だしゃーがったぜ? 兄貴。」
「はっはっ! ちょうどいい。イーリ。ま、見てろよ。いくぞレイティン!」
「えっ」
「おうよ!」
シャルマは、イーリとレイティンに声をかけると、背中に下げていた巨大なハルバードをぬっと手に取る。
「クソガキどもが!!」 「そんなんでビビるかよ!!」
「殺ってやらぁ!!」 「ぶち殺す!!」
ゴロツキが一斉に駆け出した。
――ブォン!!
空気ごと引き裂くような風切り音。
「グバァ……」 「ギョブッ……」
前を走っていたゴロツキ2人はあっさりと上半身が消え失せた。
「んなっ!?」 「……はっ?!」
それを見た後続の2人の動きが止まる。
「ちょ……兄貴ぃ! 俺の分は~!」
「まだ2人いんだろ。」
「ま、それもそうか! おらおら! 俺らに喧嘩売ったこと後悔しながら逝けやぁ!」
――バッ! ガッ! ゴッ! ドザッ……
やはり殴り屋とあだ名されるだけあり、圧巻のコンビネーションブローを披露するレイティンだったが……
「ひっ……ひえぇ……」
あくまで得意なのは一対一のシチュエーションである。
残る1人のゴロツキは仲間のやられぶりを見て逃げ出してしまった。
「あらら。逃げちまった。しゃーねーな。」
やれやれといった様子のシャルマに、イーリが尋ねる。
「戻るのか?」
「いやいやイーリ。何言ってんだ。こりゃ、軍対軍の戦争じゃあねぇ。小規模な……街の縄張り争いみたいなもんだ。やれるときゃ全力でやっちまうのよ。」
「なるほど……。そういうものか。覚えておこう。」
「うっし! 追いますか! 兄貴!」
「よっしゃ、いくぞお前ら!」
そうして夜の街に消えていく3人だった。
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