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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.28 - シャルマの仕事 【エウローン帝国スラム : ゼント3ヶ月目】

シャルマ回

 

 その日シャルマは、少し困っていた。


「お、おい……俺は今から用心棒の仕事が……」


 明らかに狼狽したような声である。


「あ! レイティン! どこ行くんだ?」


 シャルマの背後を気配を消すようにそろりと抜けようとしたレイティンに、シャルマは気が付いたようだ。


「え? 兄貴忙しそうなんで、先に行こうかなって……」


「待て待て待て……! 行先は同じだろ?! 何で置いてくんだよ!」


「え……いやぁ……そのぉ……ちょーっと俺向きじゃないって言うか……ね? ほら、俺、殴るしか能がないし! だから先行って、ゴロツキ殴ってるっすわ!」


 レイティンは、そそくさと脱兎のごとく出て行った。


「バ……バッカおま……!」


「シャルマ。私は貴方の力になりたいんだ。どうか、どうか傍に置いてもらえないだろうか。この通りだ。」


 シャルマの足にしがみついて懇願するイーリの姿が、そこにあった。


「私は、もう動ける。これも、貴方と……そして献身的だったラファ、そしてオーズのおかげだ。この鉄鋼団は、貴方の理念の元集まった集団だと理解している。だから私は、英雄の器である貴方の傍にいたい! お願いだ。なんでもする。」


「う……し、しかたねぇ……用心棒の仕事なら連れてってやるよ! つっても、武器もなんもねぇな……」


 そこにちょうどタイミングよくオーズが通りかかった。


「イーリ。剣ならこれを使え。ないよりはいいだろう。」


「いいのか? ありがたい。貴方の魂、しかとお借りする。」


「いや……それはおそらく普通の剣だぞ。」


「オーズ、お前はいいのか? 今日は狩りだろうよ。」


「ああ。狩りに剣を使ったことはない。」


「そ、そうか。ま、じゃ俺らも行くわ!」


「ああ。」


 オーズは狩りの準備をしにヴァラスの元に向かったようだ。


 そして、シャルマはイーリを連れて、レイティンの後を追った。


「これが……エウローン帝都のスラム街か……」


 アジトの外に出ると、しみじみといった風に呟いたイーリ。


「ま、騎士様にゃ刺激の強い光景だろ?」


「刺激が強いというか……我が祖国ではありえない光景だな……」


「英雄王の国かぁ……まぁ話ぐらいは聞いてるがよ。ずいぶんと立派な王様だったらしいなぁ」


「ああ、そうなのだ! レオナイド王は……それは……立派な方で……我々騎士も、国民も皆家族だ、と……。そう、貴方と同じなのだ!」


「はっはっ! 買い被りすぎだっての!」


「そんなことはない! この荒んだ光景の中に、あんなに温かい場所を作ったのだ……。貴方は立派な英雄だ!

 私は、貴方の子を産みたい。」


「は?! はぁぁぁぁぁぁ?! ちょ……おま……な……何言ってんだ?!」


「私が子を成すことは、レオナイド王の最期の願い……だと思うのだ。私はそれも叶えたい。だが、どうせなら貴方のような英雄の子が欲しい。私は騎士で、今まで子を成すなどとは考えた事はなかったが……レオナイド王の言葉を、この数日ベッドの上で考えていたのだ。」


「いや……まぁ……そりゃ色々考えるってのは……いいことかも知れねぇが……」


「私は18で、シャルマは16だったな。少し年上ではあるが、だめだろうか。」


 イーリの眼差しは真剣そのものだった。まるで決闘に臨む騎士の目だ。


 シャルマは、茶化すことすらできなくなってしまったようだ。ゴクリと生唾を飲み込んでいる。


「こんなことを言ってはいるが、もちろん私はそのような事はしたことがないんだ。だが、どうしても私のことが無理ということでなければ、抱いてほしい。もちろん、仕事はする。」


「や……あ……あ~ほら! 着いたぞ! 外街! アレだ、仕事場! 今日は酒場だぞ!」


 タイミングよく現場に到着したシャルマとイーリ。


 誤魔化すかのようにそれを告げるシャルマに、イーリは柔らかな微笑を浮かべるのだった。



 ――――

 ――


 時刻は夕刻。酒場は賑わいを見せ始めていた。


「お、兄貴! 結局連れてきたんすね!」


「お、おぅ……」


「レイティンだったな。よろしくたのむ。」


「おう、イーリ。よろしくな! 騎士だったんだってなぁ、しかもあのバストスの! 相当の腕ってことかぁ? いやぁオーズといいイーリといい、ウチも賑やかになってきたっすねぇ、兄貴!」


「おぉ、そうだな……。」


「ん? どうしたんすか? 兄貴。なんか疲れてないっすか?」


「い、いや……なんでも……」


「ああ、私がシャルマにお願いをしたんだ。どうも困ってしまったようでな。」


「ん? お願い……」


「ああ。私はシャルマの子が産みたいんだ。」


「「ぶっ……!」」


 イーリの大真面目な顔から出たその言葉に、シャルマもレイティンも吹き出してしまった。


「え、ちょ、あれ……そういう話だったのか? いや~ほら兄貴! やっぱ俺の苦手分野じゃねぇっすか!」


「いや……あの時はそんな話じゃあなかったんだよ!」


「かはははは! さすが兄貴!」


 ――バリィン!!


「おぉらぁ! んじゃこのクッソマッジい酒はよう!! これで金払えってかぁ?!」


 盛り上がり始めた外街の酒場ではよくある光景だった。


「おっと。仕事のようだぜぇ! ちょっくら一発……」


 レイティンがいつものように酔客を黙らせに行こうとしたその時……


「あ、待ってくれ、レイティン。せっかくだ、2人に私の実力を見てもらいたい。」


 イーリが待ったをかけた。


「ああ? イーリ、お前病み上がりだろうよ」


 だが、シャルマも、そんなイーリを止めようとしたが……


「シャルマ。騎士は主の剣だ。その身が動く限りは忠義を尽くすもの。見ていてくれ。」


 イーリの目は、新たな未来を見据えているのか、とても輝いていた。


 それは、栄光の騎士でもなく、薄汚い外街の酒場。


「おぉ……そうか……」


 少し気の抜けた声を出す新しい主君に見せる、彼女の初めての忠義。


「兄貴……ラファとオーズのやつら、ずいぶんなもんひろったみたいっすね……」


「ああ……まぁ、いいさ。縁があったってことなんだろ。」


 イーリの背を見送りながら、2人はそんなことを小声で話していた。


お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


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また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


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