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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.27 - 騎士イーリの行方【エウローン帝国鉄鋼団アジト : 遠征2日後】

善人回

 

 声すら枯れ果てて、喉から血が溢れ出す程の……絶叫にも似た慟哭をスラムに響かせたイーリ。


 そのイーリを優しく抱きしめ続けたラファ。


 やがてイーリは力尽きたように再び眠りに落ちてしまった。


 ラファは聖癒術で、イーリの痛みを少しでも緩和しようと努めた。


「オーズさん……どうしましょうかね。」


「どう……とは?」


「彼女はこれから……どうするのでしょうね。ひとまずシャルマさんに会っていただきましょうか?」


「それはそうだな。……それより、ラファは寝なくてもいいのか。」


「あら、心配してくださるんですか? ふふ。でも、もう少し治療をしないと……。せっかく目覚めたのに……また血を吐かれたので……」


「そうか……」


 そうしてその夜は明けていった。


 ――――


 翌日、昼過ぎ。


 アジトにやってきていたシャルマに、ラファが報告をしているようだった。


「そういうわけで、昨夜起きられたのですが、まだ今後どうされるか……とかは聞けていないのです。」


「ほぉん。バストスの騎士ねぇ。そりゃちょっと頑固そうだな。オーズはどう思った?」


「どう……とは?」


「いや……ウチと合うか……とかさ。お前さん一応……貴族の記憶、あんだろ?」


 シャルマに問われ、頭を捻るゼントだったが……


「シャルマ。残念だが、オーズの記憶にある……人に関する記憶は、ろくなものがないようだ。」


「あー。そりゃ……あの野郎らしいな。まぁあの学園の感じだとなぁ。しかたねぇか。ま、じゃあそのイーリとやらに直接聞くしかねぇな!」


 そう言って、膝を叩いて立ち上がったシャルマだった。



 ――――



「よう、具合はどうだい。」


 イーリの部屋に入ったシャルマは、いきなりそんな調子だった。


「……何者だ?」


 半身を何とか起こせるようになっていたイーリ。

 優秀な騎士だったのだろう。回復が随分と早い。


「俺ぁシャルマ。この鉄鋼団のリーダーだな。アンタ、バストスの騎士だったんだって?」


「……」


 イーリは、シャルマを一目見て、そしてまた目線をそらした。


「おいおい、無視かぁ? せっかく助かった生命だろうよ? 恩着せるつもりはさらさらねぇが……話ぐらいしようぜ?」


 シャルマのその言葉に、ゆっくりと口を開いたイーリ。


「……私は王と共に、冥界に渡るつもりだった……。皆と共に……誇りに殉じたかった……」


 その声は途切れ途切れで力ないものだった。だが……


「ほお。さすがはバストスの騎士様だな。殊勝なこった。」


 シャルマの次の言葉に、イーリは激昂した。


「なんだ貴様! 馬鹿にしているのかっ!」


「はっ。馬鹿になんかするかよ。こちとら母上には口酸っぱく言われてんだ。誇りだけは忘れるな、ってな。」


 シャルマの母ロヴンは、シャルマが生家を追放された後も、王族に連なる者としての誇りというものを毎日のように説いたのだ。


「……そうか。ならば、分かるだろう。……死なせてくれ。」


 再び力なく絶望顔に戻るイーリ。


「いやぁ、そりゃあ俺たちも必要なら殺すさ。容赦もしねぇ。だが、アンタは俺たちの敵か? 違うだろ。殺さねぇよ。せっかくウチのラファとオーズが助けた生命だ。ここにいる限りは死なせねぇ。それが俺の矜持だ……っつったら、伝わるか?」


 しかし、シャルマはイーリのその願いを聞く気は全くないようだった。


「……なっ」


「俺たち鉄鋼団はな、血の繋がりはねぇが、家族だ。出身がなんであれ関係ねぇ。互いに助け合い、共に生きるなら、それだけでいいっつールールでやってんだ。

 ま、もし行くとこなかったらよ、アンタにその気があんなら、ウチは別に入ってもらってもいいぜ?

 ま、働いてはもらうがな! はっはっ!」


「……私は……騎士だ……。」


「そうだな。」


「だが……祖国はもう……ない……」


「そうだな。」


「行く宛ても……生きる目的すら……ない……」


「そうなのか?」


「そうだろう! ひとりおめおめと生き残って……どうしろというのだ!」


「ひとり生き残って……よかったじゃねぇか。俺なら……そうだな ……もし、この鉄鋼団になんかあったとして……壊滅したとすんならよ。全滅よりは、誰かひとりでも生き残ってくれた方が100倍はいいがな。大事な家族なんだ、当然だろう。」


「……なっ!」


 イーリは、そのシャルマの言葉で、レオナイドの言葉を思い出していた。


 逃げ延び生き延びて、子を成し、バストスの血を……

 そう願い託されようとし……

 騎士の矜恃に殉ずると、断った事を……思い出したのだ。


 イーリの頬を伝う一条の雫が、ぽたりと落ち……イーリの手を濡らした。


「……シャルマ、と言ったな……。」


「おう。」


「貴様……いや、貴方は……貴方には英雄の器がある。この拾った生命、好きに使って欲しい。貴方の(めい)ならば、何でもしよう。剣……はもうないが……今ここに誓う。私は、貴方のために生きよう。」


 イーリのそのシャルマを見る目は、力強く光が灯ったようだった。


「えっ……ああ〜……お、おう……そ、そうか。そりゃ……よかった……。ま、まぁ怪我……早く治せよな! あ、じゃあ、俺行くわ! オーズ、ラファ! あとよろしく〜」


 シャルマは、おそろしく困惑顔で、慌てふためいて部屋から逃げるように出て行った。


「ラファ……と、言ったか?」


「はい。」


「そして、オーズ……だったな。」


「ああ。」


「2人とも、我が生命……救ってくれたこと、礼を言う。ありがとう。無礼な態度をとってすまなかった。許して欲しい。」


「気にしていない。」


 深々と頭を下げるイーリに、端的な返事のゼント。

 本当に気にもしていなかったのだろう。


 だが、ラファは……


「そんな! いいんですよ。辛い目にあったのですから。無理のないことです。それより、よかったです。生きる気になってくれて。」


 そう言って、やわらかく微笑んだ。


「しかし、ラファ……貴女は、変わった術を使えるのだな?」


「ああ……聖癒術ですね。私は、元チカーム教の聖女候補でしたから。一応は秘術……なんですけどね。」


「な……?! チカームだと?! それが、何故こんなところに……」


「ふふ。聖女になるためには、儀式があるのですが……私は失敗してしまいました。聖杯の力を……引き出す事が出来ませんでした。そうして、他派閥から排斥されて……何とか逃げ出して、ここに辿り着いて……運良く拾ってもらえたんですよ?」


「な……なんだと?! 自国の民……それも、教団内の教徒同士だろう……? どこまで下劣なのだ、チカームというものは……」


「ふふ……。やはり、外から見れば……そうなのですね。」


「ああ……すまないが、チカームに関して言葉を選ぶつもりはない。奴らは、下劣以外のなにものでもない。」


「ええ、もう理解していますよ。たっぷりと。さ、傷に触りますから、横になってください。」


「ああ、ラファ。貴女は……チカームだとは思え……いや、何でもない。鉄鋼団の家族、だったな。ありがとう。」


「いえ。いいんですよ。今は早くよくなることを考えてください。」


「ああ、わかった。オーズ、今度は貴方の話も聞かせて欲しい。」


「……考えておく。」


 ゼントのその短い返答に、くすりと笑うラファとイーリ。


 そしてイーリは横になり、目を閉じた。



お読みいただけまして、ありがとうございました!

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また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


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