1.26 - イーリ・クリーミア 【エウローン帝国鉄鋼団アジト : 遠征翌日】
善人回
死体漁り遠征に出かけたゼントたち。
その全員が無事の帰還を果たし、さらには期待以上の収穫で、アジトは大盛り上がりだった。
しかし、少し余計なお土産もあった。
「で? アニヤが見つけて、ラファが助けたって?」
「あ、はい。私と、オーズさんで。何とか生命を取り留めましたが、まだまだ治療は必要かと思います。」
事の経緯をラファに確認するシャルマ。
「だからー、ベッドで寝かしてあげればいいじゃん! ねー? シャル兄!」
ラメントは、シャルマを説得しようとしているようだが……
「いや、困ってんならそりゃ全然構わねぇがよ。どこの誰かも分かんねぇからなぁ……。もし敵対ってなるとめんどう……お! オーズ。」
シャルマはラメントとラファを交互に見ていたが、その視界にゼントを捉えた。
「……ん?」
「ちと、休みの間だけでもいいからよ、この女監視しててくんねぇか? ラファも治療すんだろうしよ。特に夜な。」
シャルマは、"いい事を思い付いた"という顔だ。
(む……。夜……か。確かにいつも、あまりする事がない……。暇かと言われれば、そうでしかないな。まぁ、確かにシャルマの懸念も分かる。それにオレならば、この女の1人や2人、すぐに消せる。)
「わかった。いいだろう。」
「お! さすが! 頼りになるぜ! はっはっ!」
バシバシとゼントの肩を叩くシャルマだった。
「まぁ当面は狩りもいいだろうしよ。だいぶ備蓄出来てるみたいだからなぁ。ヴァラスだけでいいだろ。なんだったらラファを手伝ってやってくれや!」
「ああ。」
「よっしゃ! そうとなれば……ミトラー!」
「ん?」
「戦利品の交渉、どっか当たりつけてくれや!」
「おー! 任せてくれ! 早速行ってくるよ! アイツんとこか……いや、アイツか……? いやいっそ全部回って……」
ミトラもホクホク顔だった。
元気よく返事をして、ブツブツ呟きながら外街方面へと歩いて行った。
「では、この方運びましょうか。」
「おー、後はよろしくな! おーい、レイティン! 行くぞ!」
「うっす兄貴!」
シャルマとレイティンは、いつもの用心棒に向かったようだ。
そして、ゼントは意識のない謎の女をアジトに運び込むのだった。
――――
――
それは意外にも早い邂逅だった。
「……う……」
アジトのベッド。
何があってもいいようにと、わざわざ個室をあてがい、ゼントが監視を始めたその日の夜だった。
寝ていた女が、声をもらした。
「……気がついたのか?」
「……え? ……ここは……? 冥界か……?」
「冥界……ではないが、似たようなものかもな。」
「どういう……ことだ……? 私は……生きているのか?」
「そうだな……。」
「……な、生きて……いる? だと……? なぜだ……」
「お前は、何者だ? チカームか?」
「……なにをバカな……! 私は……誇り高きバストスの……ぐっ……騎士だっ……! あのような下劣者どもと……一緒に……うっ……するなっ……!」
女は、息も絶え絶えという様子だが、ゼントの質問には怒髪天の勢いだった。
「そうか……。ひとつ忠告だ。暴れるな。暴れるなら、お前はその騎士の誇りとやらも何もなく、消える。」
「なっ……?!」
驚きの顔で起き上がろうとした女だったが、身体の自由は利かないようで、少し首が動いたのみだった。
「人を呼ぶ。少し待て。」
ゼントは立ち上がり、部屋を出た。
――
「ラファ。」
ゼントは、寝ていたラファを揺り動かした。
「……ん……あ……あれ? オーズさん? 一緒に寝に来たのですか? ふふ。いいですよ? はい。」
毛布をめくり、両手を広げるラファ。
「いや……女が起きた。」
「えっ……?!」
とろんとしていたラファの目が、パチイッと見開かれた。
――
「女。質問に答えてもらう。」
女の寝ていた部屋に戻ったゼントとラファ。
ゼントは早速の尋問を始めようとしていた。
「ちょ……ちょっと、オーズさん、わ、私が聞きますから。ね?」
ラファは、ゼントの淡々とした感じに少し不安を覚えたようで、質問係を代わる事にしたらしい。
「ええっと、私はラファと言います。貴女のお名前は?」
「私は……イーリ。イーリ・クリーミアだ。誇り高きバストス王国の……騎士だ。」
「イーリさん……。そうですか。バストスの……。」
「それで……ここは、どこなんだ? 我がバストス王国は……どうなった……? お前たちは、知っているのか……?」
「ああ……。はい。落ち着いて聞いてください。」
「……」
「まず、ここは、エウローン帝都、スラム街です。」
「エウローン帝都……? スラム街……」
ラファの言葉をオウムのように繰り返すイーリ。
「そして私たちは……こちらのオーズさんも、鉄鋼団のメンバーです。」
「鉄鋼団……?」
「イーリさんには……酷なことでしょうが……バストス王国は滅んだようです。」
「……なっ……?! や、やはり……あの戦力差……いかに英雄王の国バストスといえど……どうにもならなかったか……。いや……そう……だろうな……。あの状況では……。」
イーリの目の端から、一筋の雫がこぼれ落ちた。
「それで……何故……私は助かった? 他に生存者は……? 何か知らないか……? 教えてくれ……!」
動けぬ身体を必死に起こそうとしながら、懇願するイーリ。
「私たちが見た限り……生存者は貴女ひとりでした。」
「っ……!? そ……そうか……。っ……うぅっ……ふぐっ……うぅ……うああぁぁぁ!!」
イーリは、枯れ嗄れた声で……嗚咽を漏らしたかと思えば……
ついには号泣してしまった。
それは、魂の慟哭のようであった。
お読みいただけまして、ありがとうございました!
今回のお話はいかがでしたか?
並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!
また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!
ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!




