2.10 - 聖良と聖杯 【チカーム教国 : 聖良3ヶ月目 】
聖良回
バストス滅亡以来、高価な調度品に彩られた居室に籠り、享楽と怠惰に耽っていた聖良だったが……
「あーあ。ちょっと飽きてきたかも。」
どうも退屈を感じ初めている様子だった。
(なーんかいきなり聖女? とか言われた最初のうちは、結構すんなり思い通りになったんだけどなー。せっかく聖皇になって一国滅ぼしたのに……
戦利品の献上もパッとしないしさぁー。つまんな。)
寝椅子でゴロゴロとしながら、足をばたつかせる聖良。
(バストス王国だっけ? 貧乏だったのかなぁ? なんかすごい抵抗してるっていう話だったから、金持ちなんだと思ったけど……違ったかぁー。)
(うーん。そろそろなんか面白いことしないとなぁ……。
ワケわかんないうちにワケわかんない世界に来ちゃって、しかも別人の身体だったけど、見た目はかなりいいし、なんといっても、立場は地球での暮らしより圧倒的にいいしねー。
それに、ゴルドとシルバ、イケメンだし素直だしな。)
腕を後ろに組み、枕にする聖良。
(あの善人とか、1回しかさせなかったけど、ヘッタクソだったもんなぁー。7年も一緒にいるのマッジできつかったもんなぁー。せめてもっと上手かったら処理くらいには使えたのにさ。ほんとゴミ。
ま、いっか。今は若くて綺麗な身体だしねー。感度もすごいもん。全身痺れるっていうか、脳が蕩けるっていうかさ。"奉仕"だけでそれだもんなぁ。神力……だっけ? それの影響かなぁ……? うーん。)
パッと不意に立ち上がる聖良。
(聖杯の練習でもしよっかな! 色々使えそうだし。私しか触れない物だしねー。せっかくの聖皇騎士団も、イマイチな感じみたいだしな。また集めないとだし。)
ガチャリとドアを開ける聖良。
「聖皇様、どうされましたか?」
部屋の外にいたゴルドが話しかける。
「あー、ちょっとさぁ、聖杯の間に行こうかなって。」
「我々がお供いたします。」
反対側に立っていたシルバとゴルドは、いつものように聖良の左右に並んだ。
コツコツと廊下の真ん中を進む聖良は、自信なのかやる気なのか……非常に堂々としていた。
――――
――
聖杯は、聖女以外は触ってはいけないということになっている。
いつも祭壇に堂々と飾ってあるが、教団の戒律となっているため、誰も動かすことはない。
また、チカーム教のシンボルでもあるため、祈りを捧げられるようにと、ガラスのようなケースで覆ってホコリ対策をしている。
「重たっ。ゴルドー」
「はっ!」
この世界の女性の力であれば、問題なく持ち上げられる程度であるが、聖良は基本的に労力をかけることは好まない。
当たり前だが、ゴルドに開けさせた。
「よし。」
聖杯を手に取る聖良。
(えっと……神力を込めるんだっけ。この身体の前の記憶みたいなの、あんまり残ってないんだよなー。んーと。どうすんだっけ……)
しばらく聖杯を握り締めて悩む聖良だったが……
(あー、このほわほわした感じのやつかな。奉仕させてる時もあるよね、これ。身体を巡るっていうかさ。
まぁ今は快感って感じでもないけど。やっぱこの神力ってのが増幅してるのかなー。感覚とか。
うん。とりまこの調子で……)
どうやらコツらしきものを得たようで、少しずつ聖杯が輝きだす。
「おお……。素晴らしい……。」
「さすがは神に選ばれたお方。」
ゴルドとシルバは、聖良の様子を見て感嘆の声をもらす。
聖女以外の者が触る機会すらない聖杯の"奇跡"を拝めることすらほぼないのだ。当然の反応といえよう。
だが……
(えーっと……これでどうするんだろ。これ、なんかすごいみたいに聞いてたけど……神力が強くなっただけ? みたいな感じじゃない? すごいはすごいけどさぁ、奇跡って感じでもなくない? うーん。その初代とやらとか、歴代の聖女って、これをどうやって使ってたんだろ……? 奇跡を起こしたとか聞いたけど……これで奇跡とか……どうしろって?)
聖良は、何か納得のいかない様子のようだった。
(うーん。なんだっけー。初代の話……。あーそうだ。氾濫した川の水の流れを変えた? だっけ……? 普通の力術じゃたしかに無理そうよねー。聖杯の強化でやれたって感じかなー? 歴代聖女の治療話とかも、そんな感じかもね。)
更に神力を込める聖良。
(ふーん。この身体、やっぱりすごいんだ? ローグラッハ派の最高傑作だっけ? いい身体手に入れたなー。)
聖良は少し楽しくなってきた様子だった。
「おお……なんと神々しい!」
「まさに神の御業……!」
ゴルドとシルバの言葉にも、ニヤッと顔を綻ばせている。
(あ、そうだ。これでパフォーマンスしたら、ウケるかも。今度やろーかな。んー……どんなのがいいかなー?)
にまにまとしながら妄想の世界に浸る聖良だった。
(でも、ゴルドもシルバもホント素直よねー。信じる者は救われるってやつ? 扱いやすくて楽でいいわー。アナスタシアさんとこの候補たちも、もっと素直なら楽なんだけどさ。やっぱ女はどの世界も扱いにくいな。嫉妬の塊ってヤツ? ホントそーゆーのウザい。もう私が聖女なんだから、やることもないんだし黙ってメイドでもしてりゃいいのにさー。バカだよねー。)
ふっと、聖杯に込めた神力を解放する聖良。
光の粒子が空気に溶けていく。
「おお……美しい……」
「さすが……聖皇様……」
「ちょっと外行くわ。」
「は……聖杯を……お持ちのままで、でしょうか?」
「そりゃそうよ。練習すんだから。」
「か……かしこまりました。お供いたします。」
聖良の言葉に驚愕するゴルドとシルバだったが、やはり素直に従うようだった。
得意気な顔で外へと向かう聖良。付き従う2人の騎士。
外は曇り。
黒雲立ち篭める空が、聖良を見下ろしていた。
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