1.25 - 戦場跡の夜 【バストス跡地 : ゼントの静かな闇夜】
善人回
この世界の戦場跡の夜は、無惨ながらも美しい光景がある。
「とりあえずー、危険もなさそうだし! 今日はここでお泊まりだね!」
「いえーい!」 「おとまりー!」
ラメントを始め、子供たちは上機嫌である。
ラファとラメントで作った食事を皆で囲んで食べ、すっかり満腹になっていたのだ。
長距離移動と、死体漁りの仕事で、小さな子供などは既にウトウトしている者すらいる。
闇に沈みゆく風景。
だが、夜空は……東の端は碧に淡く光り、月よりも巨大な星々がいくつも輝いて、細かな星々も万華鏡のようであるのだ。
そして、戦場跡に残された死体から薄く薄く霧散していく神力の粒。
それらは小さな小さな光の粒子となり、踊るように広がりながら、溶け込むようにして消えていくのだ。
「ラファ。ラメント。」
そんな風景の中を歩き、ゼントが帰ってきたようだ。
「あ。オーズ、おかえり!」 「おかえりなさい。」
「夜番は必要か?」
暗くなった空。
ゼントが普段いることの多い森の中は、その刻限は稼ぎ時……
つまりは危険な時間帯なのだ。
「あ、そうだねー。そりゃあね、オーズが近くにいてくれるほうが嬉しいよ!」
「ふふ……。そうですね。」
「そうか……」
「あ、それより、もういいの? あたしならもう少し大丈夫だよ?」
「ああ、粗方終わった。」
「そっかそっかー! オーズもおつかれさまー!」
「ええ、本当に。今日もありがとうございました。……ご無理させてしまいますが、夜番もお願いしますね。」
「いや……オレはどの道眠れる身体では……」
「いえ、でも気を張っているのといないのでは違いますよ。……すいません。」
「そーそー。あ、こんど子守唄歌ってあげるね! あたしが一緒に寝てあげよー!」
「あら、ラメントったら。オーズさん、添い寝くらいで眠れるのでしたら、私にもいつでも言ってくださいね。」
「いや……」
「あら、オーズさん? いやなんですか? 私たちが……」
「ねー、こんな美少女2人にねぇ?」
「いやというか……」
「ふふふ……。」 「あははは!」
善人として生きた前世、ゼントはこんな風に扱われた経験はなかった。
どう反応するべきかも、分からないようだ。
「モイも! オーズにいちゃんとねてあげるー」
「あ! モイ! 何言ってんだ?! オイラそんなのゆるさねぇぞ!」
――ゴッ!
「にいちゃんうるさい!」
「いってぇ?! え、なんでだよ!?」
「「あははは!」」
闇夜に浮かぶ焚き火の明かりは、まるで生命を宿しているかのようだった。
――――
――
(おい、やっぱ遅かったんじゃねぇか……)
(ああ、何にも残ってねぇや……)
(チッ……手がはえぇやつらがいたみてぇだな……)
焚き火を消し、子供たちも、ラファも、ラメントも、すっかり寝静まった頃。
光の粒子が淡く漂う中から数人の声が微かに聞こえてきた。
(同業か……。気付かれなければいいが……)
ゼントはそう思いつつも、すっと立ち上がった。
そして、声のする方へ意識を集中する。
(1……2……3……4……5……5人か。多くはないな。)
ちょうどその時だった。
(……ん?なぁ、焦げ臭くねぇか?)
(ああ、確かに……臭うな。こりゃ焚き火かなんかじゃねぇか?)
(消してそんなに時間経ってなさそうな臭いだ)
(マヌケにも近くで寝てくれちゃってやがるかぁ?)
(おー……だったら、集める手間ァ省けたじゃねぇかよ)
(おお……違ぇねぇや……お、こっちじゃねぇか? 探そうぜ……)
どうやら、ゼントたちの泊まっている場所が捕捉されてしまったようだった。
(……面倒だな。殺るか。)
ゼントは声のする方へと、音も無く走り出した。
すっかり狩りに慣れたゼントは、黒霧の身体を活かした無音走法をマスターしていたのだ。
そして、その邂逅はすぐだった。
「おーおー、臭う臭う……こっち……っ!?」
先頭を指差しながら歩いていた男は、仲間を振り返った瞬間に、消えた。
「あ……?! どうした?! いったいな……っ?!」
その事態にすぐさま驚きの声を上げた男が、次に消えた。
「なんだぁ? コケでもしやがったかぁ?! まったく……」
前方の焦り声に対して悪態を吐いた男が、消えた。
「おーおー、しっかりしてくれよー? お宝は目の前だぜぇ? ……っ!」
ささやかな野望を語った男が、消えた。
「え……? な……なんだ? どうした? ……何が起き……!」
そして、事態が全く飲み込めないまま最後の男も、消えた。
(……そうか。コイツらもスラムのゴロツキか。大した記憶は無いな。全て力にしよう。だが……夕刻手に入れた死体の神力の方が、この5人の生者よりも強力だとは……。やはり、余程の人物だったんだろうな……。それこそ、英雄と呼ばれるような……。)
ゼントは、実に事も無げな様子で元の場所に歩き、再び座った。
――――
――
「ふぁ〜〜〜……。あ、オーズ。おはよー……」
賑やかな星空がその姿を隠し、空が白み出した頃。
ラメントが目を覚ました。
「ん……んん……。オーズさん。おはようございます。」
それとほぼ同時にラファも目を覚ました。
「ああ。」
「昨夜は、何事もありませんでしたか?」
ラファは、すっと立ち上がりながらゼントにそう聞いた。
「ああ。」
「そうですか。よかったです。オーズさんの気持ちも、少しは緩めたならいいのですが……。とにかく、夜番ありがとうございました。」
深々と頭を下げるラファ。
「んんーーっ! オーズぅー! ありがとねー!」
大きく伸びをして背中を反らしたかと思ったら、ラメントはゼントの背中目掛けて飛びついた。
「な……」
「んふふー。朝の癒しの挨拶だぁー!」
「あら、ラメントったら。オーズさん、私もしましょうか?」
「いや……」
「あら、オーズさん……ラメントはよくて、私はいやなんですか……?」
「いや……ラメントは勝手に……」
「うふふ……。」
ラファは、優しく微笑んだ。
「さぁてと! みんな起こして帰ろっかー!」
ラメントは、朝から元気いっぱいという様子だった。
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