1.24 - 戦場跡の収穫 【バストス跡地 : 鉄鋼団の仕事】
善人回
死体の山から生存者を見つけたというアニヤ。
それを聞いたラファは、その場に駆け付けた。
「ね、どう? なんかうっすら息してない?」
「……そう、ですね。生きています。でも、もう……危ないです! オーズさん! ラメント! 私、治療します!」
「そうか。」 「はーい!」
「オーズさん、すいません! 手伝ってください!」
(治療を手伝う……か。大して労力にはなりはしないが……。まぁ、ラファは元チカーム教らしいからな、思うところがあるのかも知れないな。反抗心……だろうか。そういうことなら、手伝ってやるか……。)
「……ああ。」
ラファに請われたゼントは、歩み寄る。
「あ、オーズさん。すいません、水を……」
その生存者らしきものは、辛うじて人だろう外観は分かるが、血と泥で固まっており、姿はおろか、性別すら分からない状態だった。
「水……か。なら、空いている方の荷台で洗おう。……オレが運ぶ。」
そう言うと、ゼントはひょいとその血と泥の塊を持ち上げた。
「……アニヤ。その掘り返した死体、中々上等な装備だぞ。」
「お? ほんとか? あ! ほんとだ! かっこいいじゃん!」
ゼントは歩きながらも、少しずつ水の力術で汚れを落としていった。
ボタボタと地面に還る赤茶けた水が、ゼントの足跡のようだった。
――ドサッ
荷台に生存者を載せたゼントは、仕上げにかかった。
パシャパシャと順に洗っていくと、次第にその姿が露わになってきた。
それは、落ちていく汚れとは対称的なまでの……
美しい、女性だった。
カチャカチャと鎧を脱がせながら、隅々まで洗っていくゼント。
狩の解体作業で慣れたのだろう、迅速な作業だった。
丸裸にするまで、大した時間はかからなかった。
「オーズさん、ありがとうございました。後は私が……」
「ああ。」
ラファは、丸裸にされた女性の身体に刻まれた無数の傷を、丁寧にひとつひとつ確認していく。
どうも腹部左側の刺傷が一番深いようだ。
「まずはここから……オーズさん、すいません。もう一度この傷を洗ってください。」
「ああ。」
言われる通りに傷口を洗い流すゼント。
「では、聖癒術を行います……。」
そう言うと、ラファは淡く輝き、その輝きが、次第に傷口にあてがった掌に集まっていく。
ラファは、10分くらいはそうしていただろうか。
「はぁ……はぁ……はぁ……。ひとまずこの傷口はいいですね……。次は……オーズさん、すいません。この傷口を……」
「洗うんだな。」
「はい……。お願いします……」
そんなやり取りが数度繰り返され……
2時間ほど経過した頃に、ようやく治療は落ち着いたようだった。
「オーズさん……すいません……その、何か洗えば使えそうな布を持ってきてもらえませんか……?」
「ああ。」
(あれが聖癒術か……。自然治癒力を高めるような感じだったな。ああしてミトラを助けたのか……。初めて見たが、オレにも使えるのだろうか? しかし、オーズの知識にも、チカーム教徒の知識にも無いものだな。……聖女にしか伝わらない術なのか……? そうして聖女をブランド化しているのだろうか。)
ゼントは考え込みながら、死体から布をいくつか剥いで洗った。
「……布だ。」
「ありがとうございます。」
ゼントは、多少使える風の力術と、得意の火の力術を合わせ、ドライヤーのように使い、乾かした布をラファに渡した。
これは、善人の知識によるものだった。
ラファは、手際良く女性の身体に布を巻き付けていった。
「ふぅ……。」
治療作業が一段落し、ラファはようやく深い息を吐いた。
「終わったか。」
「はい。ありがとうございました。まだまだ目は醒めないかと思いますが、生命は取り留めたと思います。オーズさんのおかげです。大変助かりました。」
ラファはそう言って深々と頭を下げた。
「いや……」
「あ! ラファー! オーズぅ! 終わったー? こっちもさぁ、台車いっぱいになっちゃった! ちょっとあっちの方行って、みんなでごはんにしよー!」
「ごはーん!」 「はらへったー!」 「きゃははは!」
「おたからいっぱいー!」 「ごはんだー!」
「みてみて、これ! いいだろー!」
ラメントが手を振っていた。
その横に集まっている子供たちも、実にキラキラした笑顔である。
「ふふ……。みんな楽しそうですね。」
「ああ。」
(さて。もう積めないのであれば、オレは吸収出来そうなものを探してみるか……。)
ラファとは逆方向へ歩き出すゼント。
だが、ラファは疑問にも思わなければ、咎めることもしない。
それは、ラファもラメントも、ゼントが人間ではないことを知っているからだ。
彼女たちにしてみれば、ゼントがどんな存在であろうとも、紛れもなく"鉄鋼団の新しい家族"である。
だからその行動が、他の家族に危害を与えてしまうことでもなければ、特に何かを言うことはないのだ。
その辺りは、今のゼントにとって、とても過ごしやすい環境の共同体だった。
彼の状況にしてみれば、僥倖というものだっただろう。
ひとり残り、戦場跡を徘徊するゼント。
無機物からも神力を吸収する事が可能になっている今、ゼントにも宝の山だった。
(リンドのスライム実験には多少面食らったが、実際この力は使える……)
ゼントは残留する神力を感じながら、物色していく。
表情が変わるのであれば、おそらく笑顔だったことだろう。
しばらく歩いた後に、無数の折れた槍が突き立てられた、少し大柄な死体を見つけたゼント。
(これは……激しい魂の……残り火のような神力を感じる……)
ゼントはその死体に手を触れると……黒霧に包んだ。
(記憶は……既にないが……。強い力と……想いの残滓がある……。卑劣なるチカームども……我が魂の色を知れ……か。)
ふと、空を見上げるゼント。
日が傾きだし、空の端を焼き始めていた。
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