1.22 - 死体漁りへ 【スラムの日常とゼント2ヵ月目】
前回の話 : ロヴンの語るシャルマの生い立ち
エウローン帝国学園にも、もちろん休日はある。
それは、ゼントがこの世界で黒霧の身体に生まれ変わり、2ヵ月と少し。3連休前の夜だった。
「なぁオーズ。ちょっと頼みがあんだ。」
その日、ヴァラスとの狩りの仕事を終えて戻ってきたゼントに、シャルマが話しかけた。
「なんだ?」
「明日からよ、3連休だろ? 学園。」
「確か……そうだな。」
「……これは、最近掴んだばっかりのヤバい情報なんだがな……」
さっきまで陽気な様子だったシャルマが、途端に声のトーンを落とした。
「……なんだ?」
その様子に、ゼントも少し身構えたようだ。
「ああ……。なんでも、隣国のバストス王国が滅亡したらしいんだ……。チカーム教国によってな……。」
「そうなのか。」
「ああ。でな? ガキども何人か連れてよ、台車いくつか持ってっていいからよ。死体漁りしてきてくれよ。」
「……死体漁り?」
ゼントは、耳慣れない言葉に内心では物凄く驚いてはいるが、黒霧の変身能力では表情を作る事が出来ないのだ。
だからそれが外に漏れる事はない。
「そうだ。武具なんかは結構金になるんだよ。死体漁りならわりとガキどもでもやりやすい仕事だからなぁ。戦の噂があれば、引率付けて行かせるようにしてんだ。中街の掃除なんかよりは儲かるからな!
つってもまぁ、普段はデカい戦場なんざそうそうあるモンじゃねぇんだよ。滅亡ってなヤバい話なら、めちゃくちゃチャンスだろ?」
「……なるほど。」
「俺も行ってやりてぇんだが、いつもの用心棒の仕事があって行けねぇしさ、代わりに誰か手が空いてるヤツら何人か付けるからよ。頼むわ!」
シャルマは、バシバシとゼントの背中を叩いた。
「……ああ。分かった。」
ゼントは、当たり前ではあるが、本物の戦場などは見た事がない。
だが……
(戦場跡か……。そういう世界なんだ。慣れておくに越したことはないな。そのうちオレも、経験する時が来るかも知れないしな。今のオレには丁度いい悪事かもな。)
それなりに興味を持っているようだった。
――――
――
翌日早朝。
「あ! オーズ〜! きたきた!」
「ラメント。」
「オーズさん。おはようございます。」
「ラファ。」
「お、今日の引率は新入りかよー。だいじょうぶ……」
――ゴッ!
「にいちゃんナマイキ!」 「いってぇ」
「アニヤ、モイ。」
その他ズラリと並んだ10人ほどの子供たち。
そして、3台の台車があった。現代でいうところのリアカーくらいの大きさだろうか。
(いや……手が空いてる手伝い……とは、まさか……ラファとラメントだけか? リアカーのような物が3台あるが……ラメントも13歳……中学生程度だろうが、他国まで歩けるものなのか?)
「ん? オーズどしたの? そんなジーッとみてさ? あれぇー? まっさかぁ、あったしの可愛さに気がついちゃった〜?」
「いや……ラメントは、その台車を引いて歩けるのか?」
「あぁー。なによぅ。あたしだってやれるんだからねー! ねー? ラファー?」
ラメントは、ラファの方を向き目配せしているようだが……
ラメントは汚れた髪で顔が隠れているため、全く表情が分からないのだ。
「うふふ。オーズさん。私も非力ではありますが、長旅を経てこちらの国に来たのですよ。ラメントだって、長年このスラムで生きてきたんですから。大丈夫ですよ。」
「ほらー。さぁさぁ! 行こー行こー! おっしごとー!」
ラメントは張り切った様子で台車に手を掛けた。
「おい、オーズ。お前は、この台車引けよ……」
――ゴッ!
「にいちゃんナマイキ!」 「いってぇ」
アニヤが指定した台車には、アニヤとモイを含んだ子供たち全員が乗り込んでいた。
(なるほど……。これは、黒霧の身体で良かったかもしれないな。人間の身体だったとしたら、早々に疲れてしまうだろう。……そうだな、現地に何か吸収出来るものがあれば……それもまたいいかも知れないな。)
ゼントは、アニヤたちの乗り込んだ台車に手を掛けた。
――――
――
ガラガラと音を立てて街道を進む3台の台車。
1台には、子供たちがギッチリ詰まっているが、2台は空である。
「オーズさん。近頃はオーズさんが毎日狩りで獲物を捕らえて来てくださるので、子供たちも私たちもたくさん食べることが出来ているんです。ありがとうございます。」
ラファはどうやら日頃の感謝を伝えているようだ。
「いや……」
「そうそう! ヴァラスだけで狩りに行ってた頃の3倍はあるよねー!」
それにラメントも同調した。
「おー。その点は認めてやってもいいぜー……」
――ゴッ!
「にいちゃんナマイキ!」 「いってぇよ!」
「オーズにぃちゃん! ありがとね! ほら、にいちゃんも! ちゃんとおれいいって!」
モイは、アニヤをつつきながら急かした。
「なんだよー。ま、まぁ、ありがとな。最近ほんと、前みたいに腹へって死にそーなとき、ないからさ。オイラたちも掃除とかがんばってるけどさ……」
「そーそー。まえオーズにぃちゃんがたすけてくれたけどさー。ときどきじゃまされるんだよねー。」
アニヤとモイは、楽しそうに話していた。
「オーズにいちゃ、ありがと」 「オイラも! 兄ちゃんありがと!」
「アタシも! ありがと!」
それにつられてか、荷台の子供たちは口々にゼントにお礼を言いだした。
「いや……」
だが、ゼントはなんと答えていいのか、迷っているようだった。
「ほら、オーズさん。オーズさんが鉄鋼団の一員になってくれて、みんな感謝しているのですよ? うふふ。」
「ね、やっぱりシャル兄は正解だったね! オーズはいいやつだよー!」
(いや……オレは、もう善人じゃない。悪人だぞ……?)
表情が作れるなら、困惑顔だったであろうゼントだった。
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