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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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2.9 - チカーム教国の脅威 【聖良3ヶ月目】

前回の聖良 : 三大派閥、ボロボロに

 

 聖皇騎士団がバストス王国を滅ぼし……一週間も過ぎれば、徐々にその噂は周辺諸国にも伝わり出した。


 特に、その情報は交易を行っていた国々にはすぐに露見したようだ。


 交易商人たちは、口々に語った。


 チカーム教国がまた恐ろしいことをやってのけた、と。


 エレミヤの二の舞……いや、もっと悲惨だ、と。



 噂が広まるにつれ……


 そんなにも勢いづいているのか!

 と、他国からは次第に看()されるようになっていった。




 しかし、当のチカーム教国。その内情は……


 勝ち戦であったはずの殲滅戦の傷跡は、それなりに深く、聖皇騎士団はすぐに動くことが出来ないでいた。


 今は再編成にてんやわんやとしているようだ。



 聖皇である聖良も、戦利品すら中々献上されてこない状態に苛立ちを覚え、部屋に引き篭っているような有様。


 引き篭ったまま何をしているかといえば……


 ゴルドとシルバに"奉仕"をさせ、ただただ享楽を貪っていた。


 チカーム教国の首都は、国内では聖都と称され久しい。


 だが、その教会本部の教皇の豪華絢爛な居室は、淫靡な性吐を奏でるのみだった。


 ――――

 ――


 チカーム教大聖堂の裏に、人影が2つ。


 人目を(はばか)るようにこそこそと話しているようだ。


「……奴は、失敗したのか?」


「いえ……刺したは刺したらしいのだけど……」


「けど……? なんだ?」


「そのすぐ後に、聖杯が輝いて……奇跡を起こしたみたいで。」


「な、なんだと? ……それで?」


「それで、その場にいた全員が目が眩んでしまった……らしいわ。」


「ほう……」


「それで、どうもその間にあの刺客……死んでしまったみたいよ。セラも何食わぬ顔で……いえ……その時から様子が変わった……らしいわ。今も、前と全然違うもの。」


「どういう事だ……?」


「分からないわよ。皆、聖杯の奇跡、初代の再来とか言っているけど……。私には、何か恐ろしいものが取り憑いたようにしか思えないわね……。大体、何で私たちがあの女のメイドみたいな事しなければいけないのよ!」


「お、おい。声が……」


「あ……ごめんなさい。」


「で……聖女様どころか、教皇にまでなって、聖皇とか名乗りだした……という事だな。」


「そうよ。……それから貴方たち、エレミヤからは一旦軍を引いて、バストスに行ったのよ。」


「バストスか……。それで我らの国から軍が消えたか……。なるほど。」


「ええ。でも、帰ってきた騎士団……軍は、酷い有り様だったわ。皆ボロボロで、でも殺気立って……。」


「ふん……。そんな事はどうでもいい。むしろ我らにすれば、チカーム兵なぞ根切りにされてしまえばよかったというものだ。……バストスは、滅んだか。我らと同じ道を……。そうか。」


「ねぇ。私は貴方たちがローグラッハ派……いえ、セラを何とかしてくれると言うから協力したのよ? アナスタシア様にも知られないように動くのも大変なのよ?」


「あ、ああ。」


「今の状況で、貴方たちにセラを何とか出来るのですか?」


「……聖皇セラは、ほとんど居室に籠りきりなんだな?」


「ええ。でも……護衛騎士が部屋に2人必ずいるわね。あと、部屋前も固めているわ。」


「そうか……。」


「で、出来るのですか? 私にも立場というものがあります。あまりに長くご協力は難しいですよ。」


「……チッ。わかっている。一度、本拠へ戻る。ひと月後、またこの時間に。いつもの通り、印を出しておく。」


「……わかったわ。何とかしてちょうだい。」


「……ああ。もちろんだ。我らの悲願なのだからな。」



 それから程なく。


 大聖堂裏の人影は、いなくなっていた。


 ――――

 ――


 ――コンコンコン


「アナスタシア様、聖皇様がお呼びです。」


 アナスタシアに与えられた事務作業部屋のドアがノックされた。


 鎧姿だ。どうやら騎士のようである。


(はぁ……。またですか……。)


「はい……。今参ります。」


 書類を机に置き、立ち上がるアナスタシア。

 深い溜め息を吐き、その表情には(かげ)りが見える。


 そして、疲労の色も濃いようだ。


「アナスタシア様、顔色が……」


「大丈夫よ、メリダ。行ってくるわね。」


「はい……。」


 メリダも、ここのところ立て続けに聖良(セラ)に呼び出されているアナスタシアが心配なようであるが……


 とはいえ、その負担を代わる事などは出来はしない。

 虚しくも、毎度毎度アナスタシアのその背中を見送る事しか出来なかった。


 ガチャリとドアを開け、アナスタシアが部屋を出ると、聖良の護衛騎士が立っていた。


「アナスタシア様。聖皇様がお呼びですので、お急ぎください。」


「……はい。」


 コツコツと石の廊下を無言で歩く2人。


 聖良の居室は別棟であるため、少し時間が掛かる。

 だが、アナスタシアにしてみれば、自ら話しかけたくはないのだ。

 何が身を滅ぼすきっかけになるか、分からないのだから。





 ――コンコンコン


「聖皇様、アナスタシア様をお連れしました。」


「入って。」


「はっ。」


 重厚な飾り彫りの施された立派な扉を開ける騎士。

 そして部屋に入るアナスタシア。


「ねー、アナスタシアさーん。」


「……はい。」


「アナスタシアさんのとこの子たち、なんであんなに気が利かないワケ?」


「……申し訳ございません。」


「申し訳ございません……じゃなくってさぁ? 何でかって聞いてんだけど? アナスタシアさんさぁ、毎回そうやって謝ってるけどさぁ……ホント、わかってる?」


「……申し訳ございません。彼女たちは、聖女候補でしたので……その……聖女としての修行しか行ってきておりませんので……」


「はいはい。それは何回も聞きましたー。で? それで? 何回目? 全然変わってないのよ、あの子たち。教育がなってないんじゃないのー?」


「……申し訳ございません。」


「はぁーあ。もうさぁ、いちいちこんな事、こっちも言いたくないわけ。分かる?」


「はい……。申し訳ございません。」


「まぁ、このまま全然変わらないようならさ……」


 聖良は、ニイッと邪悪に微笑んだ。


「考え……あるからね?」


 そしてアナスタシアは、困惑と疲労の表情を浮かべながら、その日もひたすらに謝り続けた。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


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また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


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