1.20 - 狩りの成果 【エウローン帝国 : ゼントの仕事上がり】
前回の話 : 肝は酒
――ゴトゴト……ガタガタ……
「おら、もう一息だよ、野郎ども!」
「ああ。」 「……はぁ……ぜぇ……お、おう……」
ゼントたちはヴァラスの作った、木製の荷車のようなものに巨熊を載せて森を進んでいた。
アリエンティの小屋まであと少し。
ヴァラスは肩で息をしながらといった様子だが、ゼントは平静そのものである。
そして、アリエンティは上機嫌であった。
「新鮮な肝でやる一杯は格別だねぇ! 全く! あっはっはっ! ま、アンタらには多目に取り分やるから、ほら! もう一息だよ!」
どうやら今日の熊の肝は当たりだったようで、アリエンティはそんな調子だった。
「よっし! 到着!」
「……はぁ……はぁ……あー! くそっ……熊……」
「なんだぁ? ヴァラス。初の熊狩り楽しかったろう? ん? 肉の量もいつもとは比べモンにならんのになぁ? 不満かぁ?」
「……はぁ……はぁ……いや……そこに……問題は……ねぇさ……。」
「んじゃ、そう不満そうな顔すんじゃないよ! あっはっはっ! さてと。頭と毛皮はアタシがもらうとして……」
アリエンティは、剥いだ毛皮を大きな樽に突っ込んだ。
おそらく加工をするのだろう。
そして、巨大な頭をヒョイと荷車から持ち……
「あと残りはアンタらにやるよ! 解体と脱骨すんなら、場所貸してやるが、やってくか? やってくんなら、いつも通りな!」
と、小屋の方へ歩きながら言う。
「ああ、そうだな。借りよう。……オーズ、あっちだ……運ぼう。」
「ああ。」
ヴァラスは、息も絶え絶えながら短くそう言った。
――――
――
「おお……?! なんだこりゃ! 大量じゃねぇか?!」
鉄鋼団アジトに戻ると、シャルマが戻ってきていた。
アジト前につけられた荷車。
シャルマは2人の持ち帰った肉を見て、目を剥いて驚いた。
「……はぁ……あぁ、ボス……」
「あん? ヴァラス……ヘロヘロじゃねぇか……全く。鍛え方が足りねぇぞー? はっはっ! ん。オーズもごくろうさん! ま、2人ともよくやってくれたぜ!」
「ああ。」
「おーい! ルーアン!」
シャルマはアジトの中に向かって大声で叫んだ。
「なーによ。うっさいねー。こっちだってヒマじゃないのにさっ。」
少しして、ルーアンが顔を出した。
「なんだよ、すげーいいもんをいち早く見せてやろうと思ったのによー。」
悪態をつかれたシャルマは少しむくれたが……
「え……? はぁ? ウソでしょ……?! なにこれ?! え……え? ヴァラスとオーズで狩り……行ったんだよね? コレ……狩ってきたの……?!」
ルーアンは、荷車を指差しながらプルプルとしている。それを見たシャルマは……
「な? ほら。びっくりしたろ? はっはっ!」
と、得意気になった。
「まぁ……狩った……というか。アリエンティがな、狩れ……といきなり吐かしてな……。まぁほとんどオーズの力術さ。」
「えー?! ちょっとー! オーズ〜〜! すごいじゃない!」
ルーアンは、ゼントに飛びついた。
「……あ、ああ。」
ゼントは、あまりそういったことに慣れていない。
だからか、どうしていいのか分からないようで、戸惑って固まってしまった。
そこへ……
「あ、オーズ! おかえりっ!」
と、ラメントがアジトから出てきた。
「あー! さわがしいって思ったら、すっご! 明日からたくさん食べれるねー! ねールー姉!」
と、ラメントはルーアンに飛びついた。
固まったゼントにくっつくルーアンにくっつくラメントという、よく分からない構図が出来上がった。
「まぁ……喜ぶのはいいけどな……。運ぶの手伝ってくれ……。」
ヴァラスは疲れ果てた声でそう言った。
「あっはっはっ! もちろんもちろん! シャル坊!」
「ああ、手ェ空いてるやつら呼んでくらぁ」
「あったしも手伝うよー!」
その日、鉄鋼団アジトは大盛り上がりとなった。
――――
――
夜もすっかり更けた頃。
「よー。オーズ。今日、母上と話したんだろ?」
シャルマとゼントは帰路に着き、並んで歩いていた。
「ああ。」
「やっぱよ、結構喜んでたわ……。あのオーズ君が……みたいによ。」
「そうか……。」
「まぁ、お前さんがオーズじゃあねぇってこたぁ、言えねぇなぁ。そりゃあバレたところでノート家やダグ家に伝わるこたぁねぇけどよ……。久しぶりに会えたっつって喜んでたワケだしなぁー。母上にはよ、苦労かけっぱなしだかんなぁ……。ま、だからよ、頼むわ。オーズとして、な?」
「ああ。それはもちろんだ。」
(そもそも、オレは必要以上に正体を明かしたいわけでもなんでもないんだ。言われるまでもない。)
アジトから程近いシャルマ宅にはすぐに着く。
「おう、まだ大丈夫だろ? ちょっと寄ってけよ。行きがけにも言われたんだろ? 母上によ。」
シャルマは、ゼントにそう提案した。
ゼントは、一瞬迷ったのか、すぐには答えなかった。
だが……
――ガチャ!
「ただいま戻りましたー!」
シャルマが元気良く扉を開けた。
すると、中からコトコトと足音がして、ロヴンが顔を見せた。
「おかえりなさい。遅かったわね。……あら、オーズ君。先程は大したおもてなしも出来ませんでしたわね。さ、寄ってらして。」
と、ゼントを招いた。
「あ、は、はあ。お邪魔します。」
ゼントは従うことにしたようだ。
そうして、ゼントはロヴンの精一杯の饗を受けたのだった。
想い出に浸るロヴン。
時折涙も見せつつも、感慨深く大いに語ったのだった。
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