2.8 - チカーム教三大派閥 【聖良のひと月半と派閥トップの苦悩】
聖皇騎士団出兵頃の話です。
自身が過去、その采配により滅亡へと追い込んだ地へと派遣される事となったローグラッハ神官長。
彼は旧エレミヤ領内で1ヶ月余りを逃げ惑い過ごす事となっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……。くっ……何故拙官がこのような屈辱を……!」
高級感溢れる立派な祭服も、今はすっかりボロボロになり、そこらに溢れる難民たちとの区別も難しくなってきている。
「おい、どこ行った?」 「こっちに逃げたと思ったが」
「ちっ……ジジイのクセに逃げ足速ぇな……」
「クソっ! チカームどもがっ」 「探せ探せ!」
中年と思しき年代の男たちが、どうやら徒党を組んでローグラッハ一派を追い詰めている様子だった。
聖良の命令により、旧エレミヤ領内に着たばかりの頃、ローグラッハ一派は、持ち前の傲慢さを武器に布教活動を始めたのだが……
その傲慢さを武器に出来たのは、それに伴う武力を持っていたからに過ぎなかった。
最初に殺されたのは、ソック神官だった。
でっぷりと肥えた腹を裂かれ、その中身を垂らしながら、逆さに磔にされた。
そして立て札に、"腹の中黒き者也"と添えられたのだ。
腐臭を嗅ぎつけた鴉や鼠に囲まれて、ソック神官だったモノは文字通り真っ黒に染まった。
それを目撃した残るローグラッハ一派は、逃亡生活を余儀なくされたのだった。
「ふぅ……。行ったようですね……。」
ローグラッハは、ホッと大きく息を吐いた。
「しかし……こんな調子では、信者獲得どころか、明日の食料すら……。」
ローグラッハは、国に帰りさえすれば、貯えに貯えた私財が山ほどある。
しかし、ここは国家が崩壊し、行政などない。通貨など何の価値も無いものだ。
それがローグラッハの采配の結果なのである。
「リッシパー神官」
「は、はい。」
「食料調達をお願いします。」
「え……いやしかし……」
「このままでは全滅です。貴方のようにお若い方であれば、逃げ切るのも容易でしょう。」
「……しかし、1人では運びきれません。」
「ふむ。では、パッターシ補佐官と共にお行きなさい。」
「う……し、承知しました……。」
廃墟と化した街の中を、逃げ隠れ潜み渡り歩く日々。
100名以上を誇ったローグラッハ一派も、既に20を下回っていた。
――――
――
一方、ミリョーヒ王国に旅立ったメッシ神官長率いる一派は……
「さぁ、そこへ道行く皆様方。これよりは真実のお導きをお伝え致します故。どうぞお集まりください。」
ミリョーヒの王都までの1ヶ月に及ぶ長い旅路の末、街頭演説を始めるに漕ぎ着けていた。
ミリョーヒの王都はそれなりに平和な様子で、街並みも整い、人々もザワザワと喧騒を作る程に賑わっている。
ミリョーヒ王国は、周囲や大陸内の国々からは、弱腰外交だとか日和見主義だとか馬鹿にされがちなのだが……
戦乱渦巻くエウロー大陸に於いて、立地が味方しているとはいえど、戦火を免れて発展を遂げる事に成功している。
それは並々ならぬ事といえよう。
ザワザワとした街の中央には、そんな平和を象徴するかのように、大きな噴水があり、人々の憩いの場となっているようだ。
メッシ一派は、30人程と数はあまり多くはないが、各々が強固なまでの信心深さを持っており、基本的に清貧な暮らしぶりであった。
但し、彼等に助け合いの精神はない。彼等にすれば、人を救うのは、神の導きであるからだ。
そんな狂信的ともいえる彼等には、1ヶ月に及ぶ過酷な旅路も、ちょうどいい試練に過ぎなかった。
噴水前に、メッシは立つ。
そして派閥の神官たちは、熱心に通行人たちに声をかけるのであった。
――――
――
そして、本国チカーム教国では……
唯一チカーム教国に残されたアナスタシア一派。
その全てが元聖女候補で構成された、女性のみの一派である。
「アナスタシア様! セラ様ですが……あまりに勝手が過ぎます!」
アナスタシア神官長は、今うら若き聖女候補から不満を訴えられているようだった。
「そう……。今度は何かしら……。」
もうこの1か月余りで数え切れない程の苦情という名の愚痴を撒き散らされぶつけられ、アナスタシアは辟易としていた。
「私たちは、あの方のメイドではないのです! 神の徒なのですよ! それを毎日毎日……やれお茶だ、マッサージだと呼びつけて……! 聖女という立場をまるでご理解されていないご様子です!」
「そう……。貴女も呼ばれたのね……。」
「代わる代わる当番制だとかで、勝手に決められてしまっているのです! そもそもあの方、ローグラッハ神官長の派閥ではありませんか!」
若い候補は、よほど腹に据えかねているのか、物凄い剣幕である。
そこに見かねたメリダが割って入る。
「貴女の訴えも、他の候補たちの訴えも、全て把握しておりますし、私やアナスタシア様も心を痛めております。……しかし、相手は聖女であり、教皇という、初代ソーウ様以来の最高権力者なのですよ……。アナスタシア様にも出来る事の限界があります。とにかく、今は耐えていただくしか……。」
メリダがそこまで言いかけたところで、若い候補が口を開いた。
「……わかっておりますとも。ただ、今のチカーム教はおかしいと! そう言いたかっただけでございます……。」
そして、俯いてしまった。
「私の力不足で苦労をかけるわね……。申し訳ないわ……。」
アナスタシアは、椅子から立ち上がり歩み寄ると、若い候補の肩に手を置いた。
「あ……いえ……こちらこそ申し訳ございませんでした……。アナスタシア様のお立場もございますのに……。」
「いえ……いいのよ。それで少しでも気が楽になってもらえるなら。……正直、この先どうなるか……私には全く読めないの。だから、せめて無難に過ごしていて。」
「は、はい。ありがとうございます……!」
そうして、若い候補は、アナスタシアの執務室を後にした。
部屋に残ったアナスタシアとメリダは、顔を見合わせると、深いため息を吐いた。
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