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ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

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1.14 - 呼び出しのリンド 【帝国学園 : ゼント2日目】

善人回


 スラム攻防戦の決着の翌日。


 ゼントは早速学園長室に呼び出されていた。


 

 ――コンコンコン


 「入りたまえ」


 

 ガチャリとドアを開け、中に入るゼント。


 

 「……何で裸なんだ。」


 学園長リンドは、一糸纏わぬ姿で、床に胡座をかくような格好をして、目を閉じて座っていた。


 いつもの帽子やマントすらない。


 そのスレンダーで均整の取れた美しい肢体を惜しげもなく晒している。


 

 「神力修行に決まっておろう。」


 (いや……呼び出しておいて……)


 そんなリンドの出迎え姿に戸惑うゼント。



 そしてリンドはパチリと目を開ける。


 「シャルマ君に呼び出されたそうじゃな。」


 (何で知ってるんだ……)


 「ああ。」


 

 「シャルマ君は、今日は来ておらぬようじゃが……。オーズ君。何かしたのかね?」


 リンドの表情は、強ばっていた。

 普段の彼女からは想像し難い表情である。


 

 (何かしたというか……。頼まれ事……になるのか? あれは)


 「どうしたのじゃ? 答えられぬのかね?」


 リンドの眼光が鋭く尖る。


 

 「……いや、仕事の依頼……というか、手伝いを頼まれたんだ。」


 「手伝いとな? オーズ君とシャルマ君はあまり仲は良くなかったはずじゃがのぅ……? で、何故(なにゆえ)シャルマ君は来ておらぬのじゃ? やはり何かしたのか?」


 リンドは胡座の姿勢のまま、床に置いてあった古びた杖を右手に持った。


 

 (随分疑われているようだな……。仕方ない。)


 「どうしても人手が足りない仕事があるという事でな、昔のよしみとして"オーズ"に頼りに来たんだ。だから、手伝う事にした。シャルマは疲れて寝てしまった。明日は来るだろう。」


 「……本当にか?」


 眉間に皺を寄せるリンド。


 

 「ああ。」


 「なぁーんじゃあー! そんな事じゃったのかー!」


 リンドは少し上を向きながら、気の抜けた声を上げた。


 その表情は、いつもの様子に戻っていた。


 

 「……? 一体、何なんだ……?」


 ゼントは、現状が理解出来ず戸惑うばかり。


 

 すくっと立ち上がりながら、リンドは部屋奥の机に向かい歩き出した。


 「いやのぅ、ラウム君がの、オーズ君が昨日早速シャルマ君に呼び出されていた、と報告してきての。で、今日はそのシャルマ君が来ておらぬから、消されたのではないかとさっき……」


 そういいながら、椅子に掛けてあったマントを手に取り、バサリと羽織った。


 

 「……そうか。」


 「まぁまぁまぁ、そんなに怒るでないよ。ラウム君は真面目な教師なんじゃ。」


 スポンと三角帽子を被るリンド。


 

 「いや……怒ってはいない。」


 「ん? そうなのか? まぁ……ゼント君、じゃったか? あまり感情が分かりにくいのぅ。もう少しこう……あるじゃろ?」


 

 (感情が分かりにくい……か。)


 ゼントが善人だった頃、幼少期はそれなりの明るさを持っていた。

 

 しかし、彼の持っていた"善性"が故、少しずつ他者とのコミュニケーションの取り方が歪まされる事となった。


 

 そして、いつしか立派なコミュ障となった所に、召喚獣としての変貌を経て、表情すらも曖昧になってしまったのだ。


 所詮はオーズの姿を再現しているに過ぎない今、瞬時に表情まで再現するのは難しいのだ。


 

 「なんじゃ? 今日もあんまり喋らぬのう……。まぁせっかくの学園生活なんじゃ。しっかり楽しむのも大事じゃぞ?」


 椅子に腰掛けたリンドは、机に肘を置き、ゼントを見据えた。

 

 黙っていれば、その凛として整った顔も相まって、学園長然とした威厳すらあるのだが……


 「ま。また新作スライムが出来たら実験の協力は頼むかも知れぬがのぅ。はっはっは。」


 基本はこれである。


 

 「……用件は、それだけか?」


 「おお、そうじゃの。問題ないなら何よりじゃ。もうじき次の授業かの。行ってよいぞ。」


 「ああ。」


 ゼントは、ガチャリとドアを開け、部屋を後にした。


 

――――

――


 

 ゼントは教室に戻りドアを開ける。


 

 「あ、オーズ様! こっちっす!」


 教室に戻ったゼントに、いち早く気付いたオーネスが、階段状の席の一番上から手を振っている。


 

 随分と周囲の状況に敏感なようである。


 オーネスがいるその辺は、基本的に、オーズとオーネスの定位置だった。


 

 (またか……)


 ヒソヒソ話と、冷たい視線を向けられつつ、ゼントは階段を登る。


 そして、オーネスの待つ隣に座る。


 

 「オーズ様、最近学園長の呼び出し多いっすね。」


 「……ああ。」


 

 「召喚術の授業からは連続っすね。」


 「……ああ。」


 

 「大丈夫なんすか?」


 「……ああ。」


 

 ああ、としか答えないゼントに、一瞬怪訝な顔をするオーネス。


 「……なんか、あの授業の後から変じゃないっすか?あ……! まさか……先に逃げた事、怒ってるんすか……?」


 そしてオーネスは、顔を引き攣らせた。


 

 彼は今まで腰巾着として振舞ってきていた。

 

 傲慢でクセの強いオーズに対してそのように振る舞うのは、並大抵の努力ではなかったろう。


 

 だが、オーズに見放されてしまえば、オーネスの甘い汁計画は一瞬で丸潰れなのだ。


 ちらりとオーネスに視線を向けるゼント。


 「……いや。怒ってはいない。危険な時は避難するべきだ。お前は、普通の判断をした。」


 

 その言葉を聞いたオーネスは、目を剥いた。


 「お……オーズ様……なんかやけに……クールっすね……?」


 

 ゼントは、オーズの記憶を検索してみる。


 確かにこんな時は悪態をつくか、嫌味を吐くか、暴言を吐くようだった。


 

 しかし、今のゼントには、オーネスに対してさしたる興味が持てなかったのだ。


 路傍の石とでもいう感覚だろうか。


 

 ゼントは、この先の事をしっかり決めきっているわけではないが、オーズとしてノート家に戻り、貴族として生きるフリをするのは難しいのではないか……と、漠然と考えていた。


 

 ――ガチャッ


 扉を開き、ラウムが入ってきた。


 

 そして教壇の前に立つ。


 「さぁ、授業を始めるぞ。」



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― 新着の感想 ―
Xの企画で参りました。 1.14 - 呼び出しのリンド 【帝国学園 : ゼント2日目】まで拝読しました。 このお話、異世界転生にあたるんでしょうかね。 召喚術などで地球から呼び出された因縁の夫婦。 …
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