1.11 - スラム攻防戦② 【エウローン帝国 : 悪人への道】
前回に引き続き、少々過激な表現があるかも知れません。
燃え盛る木造三階建てに踏み込んだゼントだったが……。
自身が撃ち込んだ火槍は、延焼した炎と同化し、激しく燃え広がっていた。
「くそっ! 消せ消せ!」
「アッチィ! 誰か! 水もっと出せねぇのか!」
「うっせぇ! 自分で出せよ!」
「あっちも広がってんぞ!」
中に居た男達は右往左往、阿鼻叫喚だった。
オーズの火術を何とか出来る程の水術使いは、一階には居なかったらしい。
(よし、殺るか。)
ゼントは、ベッドに寝かされる事となったミトラの姿、その経緯を思い出し、気分を高めた。
「……ん? 誰だてめぇ!」
一人、炎の中に佇む人影に気付いた者がいた。
「あ……? なんだ……? 人……じゃねぇのか?」
男が視認したモノは、人影だと認識していた。
炎の作る揺らぎで、その人物像が分からないのだ、と。
だが、近付いてきたソレは、人影のまま。黒い何かなのだ。
「お……おい、何なんだ? お……」
そこまで言いかけて、その男は黒い霧に覆われ……その姿を消した。
(なるほど……。こいつら、そういう事だったのか……。)
ゼントは、そのまま一階部分を虱潰しにし、一人一人順番に計五人を葬ると、二階へと歩を進めた。
ゼントが二階に上がる頃、一階の炎は消えていた。
階段を登ったその先は、一階と似た様な光景だった。
延焼する炎、それを消そうとする男達……。
違うのは人数だった。
二階に居たのは計四人。
ゼントはそれらも順番に滅し、三階に歩を進めた。
――――
――
鉄鋼団のアジトは、ミトラ達が面倒を見ている幼年の孤児達が暮らしている。
それはもちろん、スラムの孤児全員というわけではない。
鉄鋼団のメンバーとして受け入れられた者達だけだ。
メンバーとなれば、幼かろうが、ハンデがあろうが、出来うる事で協力し合うルールである。
シャルマやミトラの構想としては、いずれは全員を受け入れられる様にしたいという考えはあるが、実現はまだまだ難しい様だった。
そんな鉄鋼団の調理係、ルーアン。
ルーアンは、アニヤとモイという兄妹を連れ、見回りをしていた。
「アニヤ、モイ。ヤバくなったらあの作戦だからね? いい?」
「ルー姉はしつっこいなぁー」
確認するルーアンに、アニヤが口を尖らせた。
――ゴッ!
「にいちゃんナマイキ!」
そんなアニヤに拳骨をお見舞いするモイである。
「……いっ!? なにす――」
「しっ!」
文句を言おうと口を開いたアニヤを、ルーアンが制した。
「お、いたいた。こないだのネェちゃん。」
へらへらとした嫌な笑みを浮かべる三人の男たちが、暗いスラムにその目をぎらつかせていた。
ヒョロいノッポ、歯抜け、チビの三人組だった。
「アンタら……やっぱり来たね」
ルーアンが一歩前に出る。
アニヤとモイは、身構えながら少し後退る。
「今日はガキ連れかぁ? 汚ねぇガキだな。片方はメスかぁ……」
チビ男が醜悪に顔を歪めながら、ルーアンとモイを舐め回す様に品定めする。
「おいおい、メスったってガキすぎんぜ? あんなので勃つんかよお前?」
ノッポが手を広げる。
「あー? まぁ穴さえありゃイケんだろ?」
チビ男は、どうやら獲物だと認識したようだ。
「ぐへへへ……ちげぇねぇ」
歯抜け男も下品に笑い、同意した。
そして三人組は、ゆっくり前進する。
その様子を見て、ルーアンがアニヤ達に合図を送る。
「逃げなっ!」
ルーアン声が響いた。
「がっ……?」 「ぃって!」 「ああん?!」
アニヤとモイは、それぞれ正面方向に居たノッポと歯抜けに何かを投げつけ、それぞれ反対方向へ脱兎の如く散開した。
二人のコントロールは中々良い様で、見事に顔面を捉えていた。
一瞬、両サイドに気を取られ、左右を交互に見やったチビ男。
「おぐっ……?!」
ルーアンに鳩尾辺りに深々とナイフを突き立てられる。
「……あ? ヤバっ」
深々と刺さり過ぎた様で、抜けなくなったナイフにルーアンは焦りを見せた。
「てめぇら! ざけやがって!」
ノッポがその長い腕を振り回す様にして、ルーアンに殴り掛かった。
――ドッ!
「いっ……?!」
遠心力がたっぷり乗ったその一撃は、ルーアンを容易に跳ね飛ばす。
ルーアンは、歯抜け男の前辺りにまで飛ばされてしまった。
「おっほう!」
目が開けられる様になっていた歯抜け男は、目の前に転がるルーアンに喜びの奇声を上げた。
そして、組み伏せるべくがばっと覆い被さる。
「ぐぶぉあ……」
組み伏せられるその刹那、ルーアンは腰の後ろのナイフを抜き、歯抜け男の前に出した。
ナイフに倒れ込む事になった歯抜け男は、盛大に吐血する事になった。
「……くっ! ああ、くそ! 重っ!」
抜け出せないルーアンがもがく。
「クソアマがぁー!!」
怒り狂いながらルーアンに迫り来るノッポ。
――ゴッ! ガィン!
「がっ……!?」
「ルー姉に触んなクソ野郎!」 「しねくされやろう」
反対側まで回り込んでいたアニヤとモイ。
モイが投擲、アニヤが鈍器の様な物でノッポを背後から襲った。
「うぐぅおぉー」
痛みにのたうつノッポ。虫のように地面に転がる。
「ふぅ……出れた……。助かったよ二人とも!」
何とか歯抜けの下から這い出したルーアンが、刺したナイフを抜き去ると、ビュッと鮮血が散る。
「明日のご飯は一品サービスだね!」
――ドッ!
「うぐっ……」
ルーアンはアニヤとモイににこやかに告げながら、ノッポにナイフを突き立てた。
ビクッと身体を跳ねさせるノッポ。ふうっとルーアンは小さく息を吐いた。
「あ、あっちも回収しないと……」
ルーアンは、腹にナイフを埋めたまま横たわっていたチビからナイフを抜き――
「一応トドメ刺しとこ」
首筋に切り込みを入れた。
「アニヤー、そのノッポ死んでる?」
「んー? どうだろ? ビクンビクンしてるけど。まぁオイラ殺っとくよ」
「任せたー。なら、歯抜け野郎にもトドメっ。」
――――
――
拠点三階へと歩を進めたゼントは、周囲を見渡す。
三階は、一、二階とは少し造りが異なっていた。
最奥に一際大きな部屋がある。ボス部屋といった様相である。
(物置部屋か……)
一番手前の右側は、ハズレだったようだ。
(次は……)
左側の部屋を確認するゼントである。
(……趣味悪いな。)
何点かの拷問器具とベッドがあった。
現代風に表すならば、SMルームといった所だろうか。
やはりハズレだったようだ。
最奥の部屋の扉を開ける。そこには男が二人居た。
「ちっ……! 何者だ?! こんな真似しやがって!」
スラムには不似合いな、そこそこ立派な椅子に座っている男。ドスの効いた声だった。
この組織のボス格なのだろう。
「……」
「クソっ……! バケモンがよ……! おい!」
「ひっ……」
ボス格の男に促され、渋々といった感じで前に出た男。
その手には剣が握られている。
「おら、殺れよ!」
「ひっ……! は、はいっ!」
剣を持った男が、ゼントを目掛けて走り出すと同時に、ボス格の男は、窓に向かって全力で走った。
「へっ! あばよ!」
ボス格の男は、三階の窓から飛び降りた。
(む……。不味いな。)
「あ……あぁ……」
ゼントは飛びかかってきた男を黒霧に包み込みながら、焦った。
そして、男を消し去ると、ボス格の後を追って、窓から飛んだ。
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