1.10 - スラム攻防戦 【エウローン帝国 : ゼントの長い1日】
今回は多少過激な表現があるかも知れません。
「あの建物だよ」
ラメントが小声で告げる。
こくりと頷くゼント。
闇夜なので、シルエットが動いたくらいにしかラメントには分からないが、隠密行動中なので十分ではある。
「……火槍」
オーズの得意とした、火の術。
細長い炎が対象目掛けて襲い掛かる術だ。
オーズは、それを乱射出来た。
敵拠点に向けて、大量に突き立てる。
シャルマが言っていた"流れ者"の拠点。
何故かスラムには似つかわしくない建物だった。
棘の付いた柵で囲われており、建物も三階建てになっている。
壁すら無いほぼテントの様な家すらあるスラム街には、余りにも異質だ。
そんな立派な建物に、容赦無く火槍を突き立てるゼント。
次第に建物の一階部分が燃え上がり始めた。
「な、なんじゃこりゃー?!」
「燃えてんのか?」
拠点内部から悲鳴や怒声が聞こえて来る。
シャルマ達の立てた作戦は、至極単純なものだった。
鉄鋼団拠点に待機し守る組
敵拠点を奇襲する組
退路を塞ぐ組
に分かれ、今夜短期決戦に臨むというものだった。
この拠点の奇襲に関しては、オーズの火槍が適任という事で、案内のラメントと組む事になったのだ。
「くっそぉぉお!」
拠点二階窓から、数人飛び降りて来た。
「誰の仕業だ!」
人数は三人だった。周囲を見渡しているが……
「クソっ!見えねぇ!」
燃える建物が明るく、先の暗闇に目が慣れないようだ。
「チッ!探せ!」
一人がそう言い、三人は散開した。
建物内には、内容までは詳しく聞き取れないが、まだ喧騒が響いている。
おそらく消火を試みているのだろう。時折バシャッと水音が響いている。
「もう少し追加する」
「うん」
ゼントは、二階部分に向けて、再度火槍を乱射した。
「んあ?燃えてねぇか?!」
「火事だー」
「火事?お、おい、逃げねーと!」
火事ともなれば、一大事である。スラム側からも徐々に声が上がり出した。
「ラメント。敵はどうやら出て来ないつもりらしい。オレは中に行く。」
「えっ?」
「ラメントは、アジトに戻ってくれ」
「えっ?」
ラメントは、きょとんとしていたが、ゼントは構わず門扉も焼け落ち無防備となった敵拠点に向かい、歩き出した。
――
三方向に散開した流れ者達。
拠点の裏には少し進むと藪がある。
「……隠れてやがるのか?」
そこは、ひっそり隠れるにはちょうどいい場所だった。
この者は、この場所に誰か隠れているだろうと当りを付けて、ここに来た。
――ガサッ
「む、誰だっ!」
藪から音がした。
男は問うが、答えは無い。
隠れている者が、わざわざその居場所を教えるはずは無いのだ。
「居るんだろ? さっさと出てこいよ!」
男は、そう言いながら藪に足を踏み入れ――
――シュッ
「うおっ」
藪から棒が。
「やっぱ居るんじゃねぇか!」
男は音を立てないように位置取りを変えて、棒が出てきたであろう場所へ飛びかかった。
「おらっ! 喰らえやっ! ぉぉぉぉお?!」
着地した瞬間、足を物凄い勢いで持ち上げられ、宙吊りとなってしまった。
「くっそぉ! なんだこりゃ!」
ロープを用いた罠である。
だが、一瞬の出来事に、捕らえられた男は冷静さを失っていた。
バタバタと暴れ狂うが、すぐに解ける代物では無かった。
「……ごくろうさん。」
「ぐっ……」
潜んでいたであろうヴァラスがスッと背後に現れ、男の首に刃を立てた。
――
敵拠点から鉄鋼団のアジト方向へ向かう道。
「おぉ、テメェ見た事あんなぁ?」
「あ? なんだって?」
こちら方向に走り出した男と対峙していたのは、レイティンだった。
「おー、この前モメた小僧か。一緒に居たガキは元気にしてるかぁ?」
「…………」
「なんだよ? 死んだカッブレゥエッ?!」
煽ってきた男を、台詞の途中で殴り飛ばしたレイティン。
「……黙れよ。あー、いや。黙らんでもいいわ。鳴かすからよォ!」
レイティンは、吹き飛んだ男に一気に詰め寄る。
「はにッ?! 言っブルェ! でメ゙ぇぐっ? おぐぇッ?」
レイティンは、殴り屋と言われるだけはあるコンビネーションを炸裂させた。
――
敵拠点は、ゼントが火槍を撃ち込んだ場所以外に、もう一箇所あった。
その間で立ち塞がっていたのは、タルヴィだった。
「ん? お前……スラムのガキ集団の奴だな?」
タルヴィに気付いた男は問いかけた。
「……」
「おい、聞いてんだろ?」
「……」
「拠点に火ぃ点けやがったの、お前らか?」
「……」
「ちっ……黙りかよ。」
石像の様に何も答え無いタルヴィに苛立ちを見せる男は、マチェットの様な刃物を手に、タルヴィに歩み寄る。
「とりあえず答える気になるまで、腕から順番に……」
マチェットを振りかぶる男。
――ゴッ!
と、鈍い音が響いた。
「なっ……?!」
タルヴィは、その手に太い棍棒の様な物を持っていた。
「……」
――ゴッ! ガッ! ドッ! ゴッ!
刃物を弾かれた勢いのまま、男は棍棒で滅多打ちにされた。
――
シャルマは一人、もう一つの拠点に来ていた。
「ここだな」
この拠点は、ゼントが向かった拠点に比べると小さなものだ。
平屋建ての山小屋の様なものである。
ドガッと激しい音を立て、ドアを蹴破るシャルマ。
「な?!」
中にはテーブルがあり、そこに四人程。
奥に続く扉の前に一人立っていた。
全員が全員、シャルマのいきなりの登場に面食らっている。
「こんばんは。ごきげんよう。さようなら。」
シャルマは、テーブルに着いていた四人の内、入口に近い側の二人に目掛け、肩に担いでいた巨大なハルバードを――凄まじい速さで振り下ろした。
「「ぐげっ」」
と、二人がミンチになる。
「何しやがるっ」
と、残りの二人が立ち上がろうとするも……
――ブンッ
と激しい風切り音の後、グチャっと嫌な音を立てて、壁の染みに変わった。
「ひっ……お、おい! 敵襲だ!」
奥への扉前に居た男は、悲鳴を上げながら奥へ逃げ込んだ。
「逃げんじゃねぇぞ! ちゃんと残り全員で掛かって来いよな!」
シャルマは逃げる男の背中に叫んだ。
そして、扉の前に立つ。
奥には二部屋あるようだった。
逃がすつもりは無い。
逃げられると厄介な事になりかねないからだ。
シャルマは、ゆっくりと歩を進め、奥の部屋の片側の扉を蹴破った。
「……いねぇか」
呟いた刹那
「喰らえやっ」
背後から声がした。
男が二人、少し時間差で襲い掛かってきていた。
シャルマはハルバードを床に突き立てると、その後ろへ素早く回り込み、腰の剣を抜き、一人目の首を落とした。
「なっ?!」
その光景を見た二人目は、驚きの声を漏らした。
それが、その男の遺言だった。
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