1.9 - 鉄鋼団 【エウローン帝国スラム : ゼントの長い1日】
前回のゼント:広場はリサイタル
鉄鋼団のアジトは、スラム街にある。
シャルマ、ラメント、オーズ(ゼント)の三人は、広場から移動し、アジトへ向かっていた。
道中では、ラメントの来歴を語っていたようで――
「――そんでね、帝都に来てからミト兄やシャル兄に助けられて、なんとか暮らしてこれたんだー。ホント運良かったよー」
ラメントの語った身の上話は、中々に過酷なものだったが……
当の本人は、かなりあっけらかんと話していた。
(シャルマも酷い話だったが……ラメントはもっと悲惨だな……。しかし……そんな悲惨な話を……こうも事も無げに話すなんて……。)
そんなラメントに、衝撃を受けるゼントだった。
ラメントが生まれたのは、帝都より遥か南東。
今は亡き、エレミヤ王国という小国だった。
エレミヤ王国は、今から11年程前、チカーム教国の毒牙に倒れ、崩壊。その歴史の幕を降ろした。
エレミヤ王家の末路は、筆舌に尽くし難い程度には凄惨なものだったらしい。
国の守護者が居なくなれば、当然民は無防備となる。
当時二歳のラメント。
両親は、幼い我が子を連れ、他国へと逃れる選択をした。
脅威にさらされ、黙して蹂躙されようとする者は皆無である。
戦う力が無いならば、逃げる他は無い。
だが、逃避行の道中、聖滅軍の略奪猟に遭遇してしまった。
父親は、自身を盾とする決断をした。
愛する妻と我が子を逃がす為に、略奪者の前に立ち塞がった。
そして呆気なく惨殺された。
母親は、その後各地を放浪しながら、一年程かけて帝都スラム街に流れ着いた。
しかし、三歳になったばかりのラメントを残し、力尽きてしまった。
痩せ細り、動かなくなった母親。
だが、その路上には、そんな物言わぬ骸は、溢れかえっていた。
仕方なく独りゴミを漁り始めたラメント。
そんなラメントを見付けて気にかけたのは、ミトラだった。
そしてその後、帝都にやってきたシャルマに出会ったようだ。
ラメントという名前も、スラムでの通称らしい。
母親の子守唄をなんとなく覚えていたラメントは、母を偲ぶかのように歌っていたそうだ。
その何処か物悲しくも懐かしみを覚える旋律を聴いたスラムの住人達は、それはそれは大いに驚き、いつしかラメントと呼ばれるようになったとの事だった。
――
アジトは、スラム街の中にしては大きく立派な建物だった。
ここがスラム街として成立する前に、監視小屋として建てられた物という曰くがある。
「皆いるー?」
ラメントは、慣れた様子で中に入っていく。
シャルマに促され、オーズ(ゼント)も中へと続く。
「あら、ラメントとシャルマさん……と、どなたですか?」
入口付近に居たのは、一人の女性だった。その手には水の入った桶。
「おお、ラファ。コイツは戦力だ。皆いるか? 紹介するからよ、ミトラんとこ行こうか。」
そう言って奥へ進むシャルマ。
「でしたら、ルーアンさんを呼んでまいりますね。」
ラファは、別方向のようだ。
ゼントは、ラメントとシャルマの後に続いた。
――
簡易的で古めかしい寝台に、小柄な男が横たわっている。
それを囲う様に座っている男が三人。
「シャルマの兄貴。」
「レイティン。ミトラはどうだ?」
「ああ、今日も少し話せたぜ。ラファさんのおかげだな。」
「そうか……。」
レイティンと呼ばれた男にミトラの容態を聞くシャルマは、少し安堵の表情を浮かべた。
そこに話しかける、印象に残りにくい雰囲気を持つ男。
「それよりボス。その男は誰だい?」
「ヴァラス、皆揃ったら――」
シャルマがヴァラスに答えようとすると、ギィっと音を立ててドアが開く。
「ごめんごめん。仕込みしてた。」
先程のファラと共に、女性が入ってくる。その姿を確認すると、シャルマは話し出した。
「ルーアン、ラファ、来たな。じゃあ紹介するぜ。コイツはオーズ。今回の件、戦力として協力してもらう事になった。」
「戦力……?」
レイティンが眼光鋭くオーズを睨む。
「そうだ。コイツぁ力術もそれなりには使えるからな。俺とは違う戦闘力を持ってる。……お前らも、今回は今までとは違うって、分かってんだろ? 俺も、外部の力を借りるってのは悩んだけどよ。お前ら……というか、ここらの仲間達がこれ以上やられる事に比べたらよ。それに、ミトラの仇討ちしねぇとな。」
「なるほどね。さっすが、シャル坊!」
ルーアンが明るい口調で手を叩く。
「……まぁそうか。兄貴が決めた事だしな。間違いはないか。」
と、レイティンはあっさり納得したようだ。
「で、オーズ。」
オーズに向き直るシャルマ。
「ん?」
「こいつらが鉄鋼団の主要メンバーだ。んで、こいつがレイティン。殴り屋なんて呼ばれてるな。」
「オーズってんだな。どっかで聞いたような名だ。よろしくな。」
こくりと頷くゼント。
「こいつがヴァラス。盗人なんて通り名がある。」
「くくっ……。それ、広まったらやりにくくなるぜ。まぁ外ではそう呼んでくれるなよ? オーズ」
こくりと頷くゼント。
「んで、無口なのがタルヴィ。まぁ無口っつーか、気が弱いっつーか、大人しいっつーか……。やるときゃやるんだがな。」
「……タルヴィっす。」
こくりと頷くゼント。
「んで、こっちの女がルーアン。ガキどもの世話とかしてるな。」
「ルーアンよ。よろしくね!」
こくりと頷くゼント。
「じゃ、チビ達に飯食わせてくるから!」
「あ、おい――」
何か言いかけるシャルマを後目に、足早に居なくなるルーアン。
「ま、アイツはいいか……。
で、オーズ。さっきもラファには会ったな。ラファは新顔だ。昨年くらいだったか?」
「はい。こちらでお世話になって、一年くらいになりますね。オーズさんですね。よろしくお願いいたします。」
こくりと頷くゼント。
「ラファはちと変り種でなぁ。チカーム出身らしいんだわ。それでかなんだか知らねぇが、治癒の力術? かなんだか使えてよ。ミトラはそれで助かったんだけどな。」
「聖癒術ですね。全快とはいきませんが、快復の一助くらいには……。」
「チカーム……。」
ゼントは、オーズの記憶やシャルマやラメントが語った話からの印象として、チカーム教国に対して良い印象はまるで無かった。むしろ悪い印象しかない。
だが、ラファはとても柔らかく優しい印象を与える女性だった。
「よし! 紹介はこの辺にして、作戦会議するぞ!」
シャルマが手を叩いてそう言うと、鉄鋼団の面々は輪になった。
ゼントもそれに倣い、その輪に加わるのだった。
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