表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミナゴロシノアイカ 〜 生きるとは殺すこと 〜 【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】  作者: Resetter
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/74

2.2 - 聖杯の儀 【ミッドガルズ・チカーム教国 : 呼び出された悪女】

聖良回


 神の物語を表した巨大なステンドグラス。


 その大窓から射し込む色とりどりの光が、祭壇を照らす。


 チカーム教の総本山、大聖堂。


 聖杯の祭壇。



 一般信者は立ち入れないその場所に、聖杯が祀られている。


 祭壇の真上にも天窓があり、光が交差して聖杯を彩っている。




 「ついに貴官の時代ですなぁ」


 儀式を見守るその人の列。


 先頭辺りに位置していたローグラッハに、にちゃりと嫌な笑みを浮かべながら話しかける、小太りの中年男性。


 「ソック神官……。まだ気がお早いですぞ。」


 ローグラッハは、小声で制した。

 が、口の端が少しだけ持ち上がってしまっている。


 「ほほほ。メッシ派の小娘……あー……ラファでしたかな?前回、物の見事に失敗しておりましたなぁ。ほほほ。」


 ソック神官は、余程愉快なのか、ニチャニチャとしている。


 「それだけ神託を受け取るのは、難しいということです。」


 ローグラッハは、諭す様に語るが、それが本心でないことは、ソックも理解している。


 「ほほほ。チカーム教二百年の歴史において、限られた乙女だけが成し得たという偉業ですからな。

ですが近年の聖女候補のうち、最も優秀だと言われたセラ殿ならば、必ずや成し得ましょうや。」




 現在のチカーム教は、三大派閥と呼ばれる勢力が、それぞれ牽制しあい、(しのぎ)を削っていた。


 三大派閥の内、メッシ派は昨年の儀式失敗により勢いを無くしている。


 他二派はローグラッハ派と、アナスタシア派である。



 アナスタシアは、元聖女候補という立場を最大限活かして台頭した人物だ。


 元聖女候補は、教団中枢で優遇されることはあまりないため、かなり珍しい例だった。


 その遍歴からか、候補者を抱える数としては、他派閥よりも多いが、今回は間に合わなかった。


 

 聖杯の祭壇を遠目に、複雑そうな表情をしているアナスタシア。


 「アナスタシア様……」


 アナスタシアの背後に控えていた中年女性が話しかける。


 「アナスタシア様は、他派閥の御二方に比べ、お若くいらっしゃいます。あまり気に病まれなくとも……」


 振り返るアナスタシア。

 そこまで聞いたところで、軽く手で制する。


 「メリダ。そうではないの。何か……言い知れぬ不安のようなものが……先程から拭えないのです。」


 儀式に挑戦することが出来るのは、15歳以下の乙女だけと決められている。


 また、どれだけ実力があろうとも、聖女が存在する場合は儀式に挑戦することは出来ない。


 アナスタシアは、折り悪く儀式を受けられなかったが、かなり優秀な部類だった。


 メリダは、そんなアナスタシアとずっと一緒に育ってきた後輩であり、同志だ。


 その言葉に、顔色を変えた。


 「えっ……何か起こるのですか?」


 「……杞憂(きゆう)で終われば良いのですが。」


 少し遠くを見るアナスタシア。



 

 一人の神官が、祭壇の下へ歩み寄る。


 「聖女候補セラ。祭壇前へ。」


 儀式の進行係のようだ。


 

 「はい。」


 呼ばれたセラは、進行係の前で一度止まると、一礼。


 続いて、参列側へ向き直り一礼。


 そして、階段前に向き直ると、両膝をつき、祭壇に向けて深く礼をした。


 その一挙手一投足は神々しいまでに美しく、どこか浮世離れしている。


 

 参列者は、その様子を見て、感嘆の溜息を漏らす者さえいた。


 ニチャニチャとしていたソックすら、目を剥いている。


 ゆっくりと、しずしずと、階段を登るセラ。


 ステンドグラスから漏れる色とりどりの光の中を、一歩一歩を楚々(そそ)として進む。


 

 そして、聖杯前に立つ。


 「唯一神ソラーネ様。神の子であり、純然たる(しもべ)に、その御意志を思し召しください……」


 セラはそう言いながら、両手を高く広げ、そして聖杯を手にした。


 聖杯を胸に抱くようにして、両膝をつき、頭を垂れる。


 

 光を受けたからか、セラの力なのか。


 セラの胸の前で、聖杯は輝き出した。


 ――その時だった。


 「死ねぇぇい!!」


 柱の陰から、一人の男が走り寄った。


 その手には、鈍い輝きを称える物が握られている。


 

 次の瞬間――その輝きは、セラの背中に吸い込まれた。


 「……っぐ!」


 鮮血を吐くセラ。


 聖杯を赤く染めた。


 

 場は騒然となった。


 「なんという事だ!」 「捕らえろ!」 「どこの手の者だ!」


 参列者の面々は、口々に何かを(わめ)く。


 

 中にはその場にへたり込む者もいた。


 だが、その場の誰もがセラに駆け寄ることはなかった。


 

 侵入者が、セラに突き立てたその凶刃を引き抜き、またも振りかぶる。


 その時、セラの手に握られたままだった聖杯が、激しく輝いた。


 「「「うっ……」」」


 その場に居合わせた誰もが、目を閉じる。


 皆一様に盲目の世界へと(いざな)われた中、ドスッという鈍い音だけが響く。


 

 再び世界に色が付いた時。皆の目に映るその光景は……


 階段下で動かなくなっていた侵入者と……


 腰に手を当て、聖杯を(あお)るセラだった。


 あまりの事に、動く者はおろか、声を発する者すら皆無。


 時が止まったかのように静まり返ってしまった。


 

 「……あーもー。何これ。血だらけじゃん。」


 聖杯を飲み干したセラが口を開いた。


 

 そのあまりの口振りに、ローグラッハが震えながら問う。


 「……セラ……なのですか?」


 ローグラッハの知るセラは、こんなに下品な口の利き方はしない。


 

 それに、先ほど刺されていたのだ。


 何故、何事もなかったかのように立っているのか。


 何が起こっているのか、理解不能だ。


 

 その問いに対して、疑問符が浮かんでいそうな顔をするセラ。


 「え、そうだけど……。」


 一瞬、何の事か分かっていない様子だったが


 「あ……!大門聖良。セラ・ダイモン?かな?」


 と、何か納得した様に答えた。


 

 「セラ……ダイモン……?!

 ご神託は成功したのですか……!!

 まさか……奇跡が起こったというのですか……!!」


 驚愕すら覚えるローグラッハ。


 その時、誰かが叫んだ。


 「奇跡だ!! 初代の再来だ!!」


 その声を皮切りに……

 「セラ様!」 「セラ・ダイモーン様!」

 続々と歓声が湧き上がった。


 そして熱狂の(うず)へと化していく。


 壇上のセラは、突然のことに戸惑ったが、満更でもないという顔をしていた。

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!


また、連載のモチベーション維持向上に直結いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「ダイモーン」という名前は「デーモン」の語源になった悪魔の名称のことなのかな……と色々と考察がはかどりますね! 今回はここまで読み進めさせていただきました! また必ず読みに伺わせていただきます!あり…
前の回までのセラは本人でこのタイミングで聖良が彼女の中に入ったのかな、単なる転生かと思ったら乗っ取り予想外の展開で面白いです
Xから来ました。好みです。この一言に集約されます。 一番すごいと思うところは、各視点が丁寧に説明されていて世界観に没入しやすいところです。各話のラスト引っ張り方も上手で、途中で読む手を止めることがなん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ