第97話 俺は闇金屋とばったりと出会った
俺は日課にしている一億円入りデイバックを背負いウォーキングをしていたら、後ろから声を掛けられた。
「おお、これは。いつぞやのあんちゃんじゃないか」
「ん? なんだ、闇金のおっさんじゃないか」
何人か人助けをするために、協力してもらった闇金屋さんだ。
「今、忙しいのか?」
「いや。ダイエットのためにウォーキングしていただけだ」
「ちょうどいい。人助けをしてくれないか?」
「お、また、困っているようだな」
「そうだ。全然返してくれない若い女がいてな」
話を聞いてみると、六本木あたりでホステスをしている美人。
ただ、その女。
とにかくギャンブル好きで、ちょっとでもお金があるとギャンブルに使ってしまうらしい。
「稼ぎがいいはずなんだが、全部ギャンブルにつぎ込んで借金たくさんあってな」
「それは面白そうだ」
「だろう? 私が困っているから、一緒に取り立てに行ってほしい」
「それはできないな」
「えっ、なんで?」
「一緒に取り立てにはいかない。偶然通りがかるということだ」
「そうだった。偶然通りがかってくれ」
「分かった」
その女が住んでいるのは、池袋から私鉄を乗ってすこし行った長崎という地名のとこ。
この辺りは池袋の近くとは思えないほど、普通の住宅街になる。
そこの小さなマンションにその女は住んでいるらしい。
「おい! いるのは分かっているぞ」
「もー、なによ、こんな早くから」
出てきた女は、ハーフかなと思うくらい彫が深い顔をしている。
ストレートの髪で美人だ。
「早くはないぞ。もう11時だ」
「私はアフターで朝まで飲んでいたんだから、まだ深夜よ」
完全に昼夜逆転している女だな。
まぁ、夜の仕事をしているのだから、当然か。
「とにかく、今日は少しでも返してもらうからな」
「お金なんてないわよ」
「昨日アフターをしたなら、お小遣いくらいもらっただろう」
「それがケチなオヤジで全くよ」
確かに手ごわそうだ。
だいたいこの闇金おやじがてこずっているんだから、相当だろう。
「とにかくお金なんてないんだから無理よ」
「だったら、今月のお店の給料、差し出せよ」
「そんなもの、前借でもうないわ」
全く話が進まないな。
そろそろいいだろう。
「こんにちは」
「なんだ、お前は?」
「何か、お困りのようで」
「ああ、困っている。この女が借金返してくれなくてな」
「こう言ってるから、返してあげたらどうでしょう?」
「返す金があったら、返しているわよ」
「じゃあ、返す金がなくて困っていると?」
「そりゃそうよ。見れば分かるでしょ?」
うん、これは人助けだ。
「それでいくら借金しているんですか?」
「こいつには500万円だ」
「何言ってるのよ、そんなに借りてないわ」
「ふざけるな、利子っていうものがあるんだよ」
「それにしてもひどいわ」
とにかく、500万円だということだな。
俺はデイバックから100万円の束を5つ取り出した。
「ここに500万円ある」
「えっと、これ。私にくれるの?」
「ああ」
「本当? もしかして、私に愛人になれとか?」
「いや。別に条件はない。ただの人助けだからな」
「嬉しい」
「これで、助けることができるか?」
「できるわ。とっても助かるわ」
「では、これを使ってくれ」
うん、人助けをしたぞ。
久々に良いことをしたな。
「おい、ちょっと、待て!」
女は500万円を手に取ると、すぐに走り出した。
珍しいパターンで俺たちがあっけに取られているうちに、ちょうど来たエレベータに乗ってしまった。
「あいつを追いかけるぞ」
「お任せします」
どうも、今回の人助けは半分しか成功しなかったらしい。
あの女はきっと、ギャンブルをするためにどこかに行こうとしているんだろう。
ギャンブル好きな女は、金だけでは救えないということがわかった。
「あの女は中国送り決定だ」
「そうだな」
さすがに俺もムカついているらしい。
闇金屋さん、再登場! 笑
中国送りは成功するのか。続報を待て。




