第95話 俺は隣に寝ていた女を見て驚いた
「うー、頭がいたいな」
明るい光が窓から差し込む。
麻布のタワーマンションのベッドルーム。
昨日、どうやって帰ってきたか、全く記憶にないぞ。
記憶にあるのは、翔とドンペリ一気飲み対決をしたところあたり。
3杯飲んだところで、意識が飛んだ。
何も覚えていない。
まぁ、ちゃんと帰ってきたからいいか。
もし、料金ちゃんと払ってなかったら、後から払えばいい。
そのくらいの信用はあるはずだ。
「うーん」
えっ?
誰?
キングサイズのベッドの横がこんもりと盛り上がっている。
えっ? 誰かいる?
「うーん。あ。おはよう、悠斗さん」
どういうことだ?
なんで、そこにアリサがいるんだ。
「早いのね。もう目が覚めたの?」
「ああ」
「昨日は楽しかったわ」
「そうか」
「そして、嬉しかった」
「えっ」
なんのことだ。
俺の記憶がないあたりでどんなことが起きたのか?
「だって、アリサを指名してくれたんだもん」
「あー、そのことか」
「そりゃ、悠斗さんはみゆちゃん指名だって知ってわ。だけど、昨日だけはアリサ指名だった」
「そうだな」
「だから、アリサ。最後まで指名されてもついて行ったの」
「えっ」
そ、そこの指名の話は記憶にないぞ。
どうなっているんだ?
「あ、あ。もしかして、覚えていない?」
「悪い。何も覚えていないぞ」
「・・・そうなの?」
「そうだ」
「じゃあ、昨日のここに帰ってきた後のことも?」
「そうだ。ドンペリ飲み比べから後は全く記憶がない」
あ、アリサ、黙ってしまった。
ま、まずい。
「いいの。気にしないで。昨日はとっても楽しかったわ」
「そうか」
「アリサ、帰らなきゃ」
「ちょっと待て」
おいおい、引き留めてどうするつもりだ?
「なに?」
「急いで帰らないとまずいのか?」
「ううん。予定は夜のお店だけだから」
「それなら…少し、話をしようか」
「はい」
何を話すというのか。
自分で言っておいて、しまったとも思う。
「あー。確認したいんだが」
「なんでしょう?」
「昨日、ここに来て。俺はただ寝ただけではないな」
「そうね。だってアリサ。今、何も着ていないの」
うーむ。
やっぱり、そうだよな。
酒も入っていたし、抑えが効くとも思えない。
そういえば、美波とも最近会っていないしな。
「そうだな。あのー。そうだな」
何を言っているんだ、俺。
こういう状況は未経験だからな。
何をしゃべればいいのか。
「あ、そんなに気にしなくていいのよ。指名されたのが嬉しくて付いてきちゃったのはアリサだから」
「すまん。正直に言うぞ。俺はまだ恋人を作るつもりはない」
「えっ、何を言うのかと思ったら。大丈夫。そんなこと迫ったりしないから」
「そうなのか」
「せいぜい、みゆちゃんもいなくなっちゃったし、お店に来たらアリサを指名してくれれば嬉しいわ」
「そんなことでいいのか?」
「だって。アリサを変えてくれたのは悠斗さんだったから」
「そうか」
「負けず嫌いでいつも上にいる人と比べて。勝つことでしか喜びを感じられなかったアリサ」
「そうだったな」
「そんなアリサを負けたのに受け入れてくれて。勝ち負けより大切なことがあると教えてくれた」
「そうだったな」
ずいぶんと俺のことを買いかぶってくれているな。
しょせん、チート財布があるからの余裕じゃないか。
「アリサ、もっと悠斗さんのことが知りたくなっちゃったの」
「そうだったのか」
「たから、付いてきちゃった」
「そうか」
「とっても熱い夜をありがとう」
覚えてない。
全く、覚えていない。
そういえば俺も全裸だ。
フルオートのエアコンが効いているから、少し寒いくらいだ。
「すまん。何も覚えてない」
「そこだけ、残念。アリサだけ覚えているのは」
「そうか」
「ね。覚えてないなら、もう一回して、思い出すってのはどうかしら」
「な、何を言うんだ」
「だって。アリサだけ覚えているって、なんか寂しいんだもん」
「そうか」
どうする?
俺は自分の中の天使と悪魔がケンカを始めた。
「やっちゃえよ。据え膳だろう」
「そういうことは、ちゃんとしてから」
「そんなことばかり言ってるから、童貞だったんだろう」
「ちゃんとしていたら童貞だっていいんだ」
それは違うぞ。
童貞は寂しい。
柔らかな女性の体に触れずに生きていくのは、寂しい。
俺の考えも、俺の身体も、天使の方の意見を無視しだした。
「ね、いいでしょう」
あ、いきなり、どこを握るんだ。
「もう、その気になってるわ。嬉しい」
駄目だ。抵抗できない。
俺は抵抗するのをあきらめて、スレンダーなアリサのすべすべした肌を味わうことにした。
結局、してしまいました。 ちなみに。昨晩しちゃったのかどうか謎です。




