第93話 俺はキャバクラ借り切りで再デビューを祝った
「いらっしゃいませ。悠斗さま。お待ちしていました」
ここは板橋にあるキャバクラ。
時間は18時ジャストだ。
どうしても、この店に来るときはこの時間になってしまう。
今は料金など気にする必要はないんだが、習慣というのは根強いらしい。
黒服さんに出迎えられて店に入ると、お客さんは誰もいない。
「いらっしゃいませ、悠斗さん」
出迎えてくれたのは、ミキちゃん。
変わりない笑顔を見ると、ほっとするな。
他にも、アリサや愛花ちゃんがいる。
女の子はいつもより少なめだ。
というのも、今日は俺がこのキャバクラを借り切ったのだ。
お客さんは、俺と翔、そして、もうひとりだけだ。
「悠斗さん、お招きありがとうございます」
翔がちょっと気取った感じで入ってきた。
あいかわらずおしゃれだな。
俺も美咲さんコーディネートだから負けていない。
と言いたいところだが、中の人が違いすぎる。
別に対抗する気などないんだよ、俺は。
本当だよ、本当。
そして、もうひとり。
お客さんが入ってきた。
「今日はありがとう。悠斗さん」
かわいい私服姿のみゆちゃん。
メジャーデビューが決まってから、みゆちゃんはお店に出るのをやめた。
もちろん、プロダクションが禁止したからだ。
キャバクラはもちろん、他のアルバイトも全て禁止。
当然と言えば当然だが、みゆちゃんと普通に接することができるキャバクラがなくなると寂しく思っていた。
昨日、みゆちゃんに聞いてみたこと。
「再デビュー成功のお祝い、どこかでしようか」
「あ、それなら」
リクエストしてきたのが、このキャバクラだ。
もちろん、他のお客さんがいたらみゆちゃんが来れるはずがないから、俺の貸し切りとした。
「みゆちゃん、成功おめでとう」
「私、みゆちゃんは絶対成功すると思ってたわ」
キャバクラのみんなに祝福されて嬉しそうな、みゆちゃん。
そういえば、今日はいつもと違うんだったな。
「さて、みゆちゃん。誰を指名する?」
「えっ、指名?」
「そうだよ。今日はみゆちゃんはお客さんなんだから、指名しないとね」
「ええー誰にしようかな」
アリサとミキちゃん、愛花ちゃん。
それぞれがアピールしてくる。
「じゃやっぱり、一番お世話になったミキちゃん!」
「わー、ご指名ありがとう。うれしいわ」
「じゃ、翔はどうする?」
「僕ですか。じゃ、愛花さんをお願いします」
「うれしいっ。よろしくー」
「翔はすごい金持ちなんだからな。いっぱいおねだりしないと駄目だぞ」
「えー、もう私は買い物依存症から抜けたのよ」
愛花さんは楽しそうに笑っている。
確かに彼女は変わった。いいことだな。
「じゃあ、悠斗さんは私ね」
「えっと、他には」
「いいの、私の指名で。アリサ、指名入りました!」
アリサは前は俺と対立していたなんて微塵も感じさせないほど楽しそうに接してくる。
彼女も俺も変わったからな。
「みゆ、ずっと悠斗さんに指名してもらっていたのに」
「もう、みゆちゃんは指名してもらう側じゃないのよ。これからは指名する側なのよ」
ミキちゃんが諭している。
たしかにそうだろう。
「それでは改めて乾杯しない?」
ミキちゃんが仕切りはじめた。
「ちょっと待て」
「なに?」
「乾杯と言えばあれだろう」
「なに?」
「ドンペリだ。今日は最初からゴールド行ってみようか」
ドンペリゴールドというのは、ドンペリの中でも熟成をさせたもの。
この店での値段は1本40万円だ。
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
キャバクラ豪遊、再び!




