第86話 俺は白蛇さんと出会ったらしい
俺は石神井公園に来ている。
昔から無料の都立公園は好きで、何となく来てぼーっとすることが多い。
今は無料は気にすることはないんだけど、それでもこの公園は気に入っているらしい。
「なんか急に大きな話になってきたな」
マスコミとネットの覇権争い。
そんな話に俺が関わりを持つとは。
「どうもイメージできないな」
公園のベンチでぼーっとしていた。
ちゃんと考えないといけないのだろう。
だけど、頭がまわらず、ぼーっとする。
今までの俺の延長上で考えられないときに起きる現象だ。
ぼーっとして、何を考えても、まとまらない。
その割には、厭な感じではなく、逆に気持ちいいくらいだ。
そんな状況でベンチに座っていると、なんだかあいまいな世界に迷い込んでしまったようだ。
真っ白い部屋ではなく、もっと広い場所。
草原みたいな場所だと思うが、霧がかかっていてよく分からない。
「ここはどこか? もしかして異世界?」
なろうアニメの見過ぎだと言われるかもしれないが、俺だっていつかは異世界に転生すると信じている。
だから、よくわからないところに来ると、「もしかして、異世界?」と思ってしまう。
異世界にあこがれていたからな。
だけど、ここはそういう感じがする場所じゃない。
ただの霧がかかっているだけの場所。
「あれ?」
真正面の霧の部分に赤く光るものが横に並んで見えた。
「なんだろう?」
じぃーっと目を凝らしていると、赤い光が大きくなってくる。
それは赤い目か。
もしかして、野獣が俺の方に向かってきているということか。
逃げないといけない。
しかし、身体が全く動かない。
「なんだ?」
金縛りと言うやつか。
参ったな。
赤い目は左右に揺れながら近づいてくる。
「もしかして、蛇?」
長い身体が見えてくる。
真っ白い蛇。
霧に包まれているから、境目が分かりづらいが蛇なのは間違いない。
「俺になにか用があるのか?」
もう、しっかりした真っ白い身体が現れて赤い目と組み合わせで、白蛇さんだと分かる。
蛇は縁起が悪いと嫌う人も多いが、白蛇さんは幸運の運び手。
白蛇を見た日は、なにかいいことが起きる。
そう考えたとき、頭の中でひらめいた。
「そうか。俺があの財布を拾ったのは白蛇さんのおかげかもしれないな」
財布を拾う前に、なろうアニメを見に行った。
その前に白蛇を見たんだっけ。
石神井公園。
そうだった、今いるはずの公園で白い蛇をみていたんだ。
完璧に忘れていたぞ。
霧の中から現れた白蛇さん。
お辞儀をしているような動きをする。
「なんだ? お礼を言っているのか?」
そういえば、財布を拾った日。
俺はこの公園で白蛇を助けたんだっけ。
半分干からびて動けなくなっていた白蛇。
長さは30センチくらいだ。
23区内で蛇を見るのは珍しい。
俺も初めてみた。
それも白蛇となるとなおさらだ。
「もしかして、神様の使いで俺を異世界に連れて行ってくれるのか?」
まぁ、そんなことを信じた訳ではないが。
白蛇と言えば、金運の神様でもあったな。
ちゃんと助ければもしかして、宝くじで100万円くらい当たるかもしれないしな。
ちょっと打算的な気持ちもあって、白蛇を助けた。
石神井公園には2つ池がある。
石神井池と三宝寺池。
三宝寺池のほとりにそっと白蛇を置いた。
「今度は干からびるようなことはするなよ」
そんな声を掛けた気がする。
不思議な財布を拾ったことですっかり忘れていた。
「お前はもしかして、あの時の白蛇か」
白蛇が大きくうなずいたような気がする。
「もしかして、あの財布を授けてくれたのは、お前か」
また、大きくうなずいたような気がする。
そうか。
あの時の白蛇。
それが財布を授けてくれたのか。
お礼をもっていかないとな。
賽銭箱がある訳でもないからな。
お金ではまずいかな。
あれ?
なぜか頭の中に日本酒のイメージ、それも一升瓶が2本出てきたぞ。
「あ、そうか。蛇は日本酒が好きだったな」
そんな神話が確か多かった気がする。
「日本酒を奉納しよう」
白蛇が喜んでいる気がする。
そうか、それを伝えたかったのか。
また、霧が強くなってきた。
白蛇は見えなくなった。
気が着くと、俺は石神井公園のベンチに座っている。
寝ていたのか?
いや違う、座ったままだから、違うだろう。
「大丈夫け?」
横にしわくちゃな顔の小さな婆ちゃんが座っていた。
もしかして、干からびた白蛇が化けたのか?
それとも、歳はくっているが、女神様とかとか?
白蛇とんとチート財布。そして婆さん。
どんな関係が……
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