第84話 俺は中間管理職を入れることにした
ブクマ11665件になりました。ありがとうです。
「それで相談なんだが。中間管理職を入れようと思うんだが、どうだ?」
「お願いします! もう僕だけでは限界です」
宮古島オフィスの誠人に電話で告げたら大賛成されてしまった。
「だがな。状況によっては誠人の上に立つことになるかもしれないぞ」
「もちろんです。いきなり10人以上の開発チームのリーダーになってしまったんで、正直戸惑っていたんです」
あー、確かにな。
最初は誠人とアイドル仲間で始めた『アイドルになろう』サイトだったが、今はそうじゃない人たちも増えたしな。
特にサポートチーム、「アイなろ運営」は派遣社員の女性達だから誠人はやりづらそうだしな。
「まずは、アイなろ運営の方のリーダーをしてもらおうと思っているんだ」
「それは助かります。あっちは管理しきれていないんですよ」
やっぱりそうか。
オフィスは宮古島にはあるけど、別の場所だしな。
「開発チームと運営チームの2チーム制にして誠人には開発チームのリーダーをしてもらう。運営チームは新しいリーダーを連れてくる」
「了解しました」
「だけど、今は両チームの統括としては誠人がやってくれ」
「そうなんですか? 新しい人が統括として適材かもしれませんよ」
「ああ、そうかもな。しかし、今はまだ分からないからな」
「そうですね」
誠人をはじめ、現在の開発メンバーはコミュニケーションスキルが著しく低い。
もともと、アイドルオタ属性を持った男達だ。
少人数だったうちは問題なかったが、人数が増えだしたら管理しきれなくなっていた。
だから、管理職が必要なのは分かっていた。
「その運営リーダーになる人は何歳くらいなんですか?」
「俺と同じ29歳だ」
「それならこっちのチームの誰よりも年上ですね」
開発チームはとにかく若い。
大学生もいて、20代前半がほとんどだ。
「元々、俺の中学のクラスメイトでな」
「あー、そういう繋がりですか。それは安心だ」
安心なのか?
実は俺は、真治のことは良く知らない。
大学を卒業した後は誰もが知っている証券会社で働いていて出世頭だったこと。
それくらいだ。
もっとも、そのキャリアも半年前にはリストラで行き止まってしまったらしいが。
☆ ☆ ☆
「本当!? ありがとう悠斗さん。明日、面接に行かせます」
「だが、いいのか? 当分は単身赴任になるぞ」
「真治さんが力を発揮できる所なら、必要なことは私がなんとでもするわ」
電話で連絡すると、さえちゃんが喜んでくれた。
もちろん、うまくいくかどうかは分からない。
とにかく明日だな。
☆ ☆ ☆
「ありがとう悠斗。前に会ったときは嘘を言ってすまなかった」
「いや。気にするな」
今はアイなろの東京オフィスになっている麻布タワーマンションの最上階。
リビングの端っこがパーテーションを立てて、ミーティングスペースになっている。
応接セットのソファとテーブルが置かれている。
俺と美波が並んで座り、対面に真治が座っている。
美波はアイなろ組織的には俺の個人秘書だ。
「話は聞いているか?」
「はい、もちろん。すごく良い条件で妻、共々喜んでいます」
妻、という言葉に反応している俺がいる。
初恋の相手だからな、微妙なもんだな。
「ただし、3ヵ月は宮古島に単身赴任だぞ」
「もちろんです。仕事があるならどこでも行きますよ」
なんか完全にいいなりだな。
3ヵ月は試用期間だが、前の仕事と同じレベルの給料にしてある。
単身赴任で掛かる費用は別建ての手当てで出す。
「それで、悠斗。いつから行けばいいのかな」
「ちょっと、口をはさんでいいかしら?」
「なんだ、美波?」
珍しく美波が意見を言おうとしている。
ビジネスに関することは、あまり口を出すことはないんだが。
「真治さん。『悠斗』と呼ぶのはやめてもらっていいかしら?」
「あ。すみません! なんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「みんな、正式な場ではオーナーと呼ぶわ」
そうか。
言葉使いの問題か。
そのあたりは美波が担当だな。
「はい、了解しました。言い直させていただきます。オーナー、私が宮古島に赴任するのはいつがいいですか?」
「明日、立ってもらおう」
「ええっ。明日ですか。了解しました。今日中に準備させていただきます」
真治の話し方を聞いていて、ちょっと感じることがあった。
同級会でも、その後会ったときも。
真治は堂々としていた。
ところが言葉を美波に言われて変えた瞬間に、ふたりの関係が変わった感じがした。
いかにも中間管理職とお偉いさんだ。
俺にそんなことをしてもらう価値があるとは思えないが。
あー、俺じゃないか。
チート財布がそうさせるのか。
だんだんと「アイなろ」オフィスが会社ぽくなってきているなぁ。
でも、なんか起きそうな予感にわくわく。
続きが気になるなら、ブクマと↓で評価お願いね。




