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第83話 俺は投資の話を聞くことにした

翔と知り合ったことで、俺は投資にも興味を持ちだした。

それまでも、そんな話は何度かあったが、投資には興味がないからすべて断ってきた。


『ミューズ』で星川社長からも言われていた。


それに対して俺が「会おう」と言ったら「おー。会ってくれますか。早速3人ほど伺わせます」

と、星川社長は喜んで投資を求める人をセッティングしてくれた。


☆   ☆   ☆


「ぜったい儲かるのは間違いないんです。マレーシアはもう開発が進みすぎてしまって。次はベトナムです」

「そうなのか」

「しかし、一番投資効率がいいのは、ミャンマーです。まだ、ほとんど手付かずですから」


不動産投資の会社をしているという兼田と名乗る男。

名刺をもらっているから、字が違うと知っている。


だけど、話をしていると、どうもこう思ってしまう。


「金だ、金だ、世の中、金だの金田」


とにかく金が大好きなようだ。

いくら儲かるだの、どのくらい上がるだの。


そういうのは、俺は全く興味がない。


だって、そのくらいの金なら1時間で財布から取り出せる。

ややこしいことをして1年もかけて、その程度の金を得ることに意味があるとは思えない。


「それで、その投資は、どんな人助けができるのだ?」

「人助け? 冗談でしょう。そんなことは考えるのが無駄です。人助けですか、それならカモになりたがっている人をカモにするって人助けはどうでしょう?」


あー。

こいつはバカだな。


頭の中が、金という菌に侵されてしまっているに違いない。


「分かった。せいぜいカモ助けをしてくれ。俺の関係ないところでだ」

「はぁ。こんなにいい投資情報もってきてやったのに、お前はバカだな」

「そう思うのか?」

「1年後、あの時、投資しておけばよかったと後悔するんだな」


金だの兼田は帰っていった。


その後も似たようなものだった。

確かに言葉使いが丁寧な人もいたが、しゃべっていることは一緒。


金だ、金だ、世の中、金だ!


金を使いまくっている俺がいうのもなんだが、金ってそんなに欲しいものなのか?


 ☆   ☆   ☆


「実は、素材を研究していまして」


最後に来た男だけは色が違った。

いかにも研究者という雰囲気。


他の投資を求める人たちが雄弁なのに比べて大人しい。

ぽつり、ぽつりと話す。


「それで、どんな研究なのだ?」

「はい。冷却繊維です」

「あー、ウニクロで夏に売っているあれか?」

「あれとは原理が違います」


紫外線を吸収して空気の流れを直接作り出す繊維。

夏に冷却繊維で作られている服を着ると冷房が効いているところにいる感じになるという。


「それはすごいな。開発に成功したら人気になりそうだ」

「はい。しかし、そのためにどうしても資金が必要で」


本来、機能付き繊維は大メーカーが資金を投入して開発するそうだ。

しかし、彼の研究は実現可能性が低いと却下されてしまったらしい。


「その繊維が完成すると、何かの人助けになるのか?」

「!」

「ん? どうした?」

「なります。なります。元々、この繊維を開発したいと思ったのは、冷房がない貧しい国の人たちに着てもらいたいからなんです」


もし、開発が成功しても当初は高額になる。

しかし、大量生産を5年もしていれば、安くなる予定らしい。


「ここのとこ、温暖化が進んでいますよね。赤道付近の国の人たちは暑さに苦しんでいるんです」


たしかに俺たちは冷房の効いた部屋にいて、移動も冷房が効いた車や電車だ。

暑さがひどくなっても、なんとかできる。


「よし、暑さに苦しんでいる人たちを人助けしてくれ」


俺は開発費として8000万円をぽんと出した。


だんだんとビジネスに興味を持ちだした主人公。


もっともお金儲けはどうでもいいというスタンスらしい。


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