第82話 俺の知らないことが起きていたらしい
「よし、完璧だ」
今、撮ったばかりの写真を確認して、私はそう思った。
喫茶店で話す男女。
いつもの写真より、すごく地味だ。
もっとも、それが人気爆発中の「アイなろ」オーナーと、ビーペックスからデビューしたてのアイドルなら別だ。
とんでもないお金持ちだということは、一緒に合コンに参加した男から情報をゲットした。
「アイなろ」に登録されているアイドルとやりたい放題だと、言われている。
「しかし、メジャーデビュー前のアイドルじゃ弱いな」
そう思っていたときに、出てきたデビュー直後のアイドル。
それも元は『アイなろ』所属だった。
実にタイミングがいい。
麻布のマンションをずっと張っていた甲斐があったというものだ。
これで、来週の週刊誌『文秋』は売り切れ続出だろう。
「大手プロダクションと新生『アイなろ』サイトオーナーのバトル」
もうスクープタイトルはイメージできている。
あとは、編集部に記事をつけて写真をもっていくだけだ。
今月のMVPは私だな。
そう確信をしていた。
☆ ☆ ☆
その頃、ビーペックスでは、新人発掘セクションのリーダーが部下を集めて話していた。
「とにかくな。金は手に入った。この金を使って『アイなろ』で上位になっているアイドルを引き抜きに掛かるぞ」
「しかし、あそこのアイドルは駄目だとリーダーが言っていたじゃないですか」
「いいんだよ、売れなくても。飼い殺しでな」
「あ、そういうことですね」
そう。
下手に売り出そうとするから失敗するんだ。
今回の件は、却って金になったからよかったが、これからは金を掛けなければいい
要は「アイなろ」の力をそぐことだけ考えればいいのだ。
「な、簡単な仕事だろう?」
マスコミ側の動きが激しくなってきた。
どんなことになってしまうのか?




