第68話 俺は捨て猫女を拾ってみた
ブクマ9948件になりました。ありがとうございます。
「みゃあ~」
ん? なんか鳴いている。猫か?
「みゃあ~」
あの塀の向こう側か。
「みゃあ~」
うん。いたぞ、子猫だ。
それも3匹。
段ボールに入っているから、きっと捨て猫だ。
そこまでは想定内だ。
しかし、想定外のこともあったぞ。
その箱を抱えるようにして女が寝ている。
30歳くらいか。
地味な服を着たもったりした感じの女だな。
俺は声を掛けてみた。
「どうかしたのか?」
「えっ? えっ、あっ」
急に起き上がってパタパタとスカートに着いた草を払っている。
「すみません。つい、寝てしまって」
「別にそこで寝てはいけないと決まってはいないぞ。起こしてしまってすまなかった」
「いえ、起こしていただいて助かりました」
「なぜ、そんなとこで寝ていたのだ?」
俺は素朴な疑問を口に出した。
「えっと。だって、こんなかわいそうな子猫なんですよ」
確かに子猫だ。
どう見ても捨て猫だ。
「なんとかしたいと思うじゃないですか~」
おおっ、すると。
俺が人助けをするように、彼女は猫助けをしているのか。
「では、その子猫をあなたが連れて帰ればいいのではないか?」
「それができれば、こんなとこに寝ていませんよ」
それはなんとなくわかった。
だが、そこに寝ていてもなんの解決にもならない気がするのだが。
「どうしてダメなのか?」
「だって。今、私の部屋には猫が4匹いるんですよ。ペット可のアパートだから2匹まではオッケーなんだけど」
「すでに2匹多いな」
「そうなの。それも2匹多いのを大家に見つかってしまったの。2匹をなんとかするか、私がアパートを出ていくか。選択を迫られているの」
「それは大変だな」
「そうなのよ。その上、もう3匹なんて。バレたらすぐに追い出されてしまうわ」
要はアパートの問題だということが分かった。
「それならば、別のとこに引っ越せばいいだろう」
「そんなお金ないし。だいたい猫7匹がオッケーなアパートなんてないわ」
うーむ。そういうものなのか。
解決策はなさそうだ。
「あーあ。こんなことなら、本当に猫島に移住しちゃいたいわ」
「なんだ、その猫島というのは」
「瀬戸内海に浮かぶ島なの。住民は50人もいないのに、ノラ猫がたくさんいてね」
そうか。猫好きにはたまらない島だということだな。
「そこに移住したらどうだ?」
「無理よ。その島には空き家は一杯あるの。だけど、住めるようにするには200万円くらいリフォーム代が掛かるみたいなの」
「そうなのか。それさえあれば、問題はないのか?」
「そうね。仕事はライターだから、ネットがつながる場所ならなんとかなるわ。猫島だってつながったし」
「そうか」
「でも、貯金も何もないし。あーあ。お金が降ってこないかな」
「それが願いか?」
「そうよ。あー神様。お金を降らしてください」
神様ではないが、お金を降らせることくらいできそうだ。
デイバックから100万円の束を予備もいれて3束取り出して、輪ゴムをはずす。
寝転んでいる彼女の後ろに回り込んで、上から一万円札を降らしてみた。
「なにこれ? ええっーー、一万円札じゃないの。何枚あるのよーーー」
うん、ちゃんと神様に願いが伝わったみたいだな。
「ちゃんと集めなきゃ。にゃーにゃー」
なぜ猫の声になるんだ?
「あっちにも、こっちにも。大変、どっかに飛んでいく前に集めないと」
「そうだな」
「あ、あなた。まだいたのね」
「そうだな」
「えっと。これは神様がくれたのよね」
「そうだな」
「だけど。こういう場合拾得物になって1年待たないと私の物にはならないのよね」
「それは落とし物のときだな」
「えーっと。神様にもらったんだけど。えっとネコババしていい?」
「ネコババなのか?」
「えっと。違うわ。ちゃんと拾ってあげただけよ。きっと落とし主がいるはずだわ」
「落としたとすれば、それは俺だな」
下から、じぃーーっと見上げる猫大好き女。
隣の段ボールには真っ白い子猫が3匹、同じように俺を見上げている。
「これ。もらってもいいの?」
「ああ。300万円あるはずだ。猫島移住に使ってくれ」
「本当? そんなこと私にしてくれるのは、なぜ?」
理由か。理由は人助けをしたいから、では駄目かな。
ここはひとつ。工夫をしてみよう。
「その金は子猫のためだ。おまえにはその子猫を育てる意思があると見た」
「もちろん、あるわ。こんなかわいい子猫を見捨てられないわ」
「だから、子猫のために協力してやっただけだ」
「ありがとう」
「お前のためにではない。子猫のためだ」
「ありがとう。子猫の代わりに養育者の私がお礼をいうわ」
「おう」
うん。それでいい。人助けと子猫助けはできたらしい。
子猫を拾いました。




