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第59話 俺は転生することなしに賢者になった

ブクマ9004件になりました。1万まであと千弱です。ありがとうございます。



「なんで、美波さんが俺の部屋にいるんだ?」

「だって、しょうがないじゃない。トライアイドルの6人もここにいるんだから」


最初、トライアイドルは民宿に泊まる予定だった。

ところがファンがすごすぎて、民宿じゃ危険だとマネージャー代わりの美咲さんが言ってきた。


「ちょうど、いいじゃない。今、いるところはベッドルーム4つあって、それぞれベッド2つあるんだから」

「人数的にはそうだな」

「じゃあ、何? みゆちゃんと一緒の部屋がいいの?」

「じょ、冗談はよせ!」


みゆちゃんはアイドルで、俺が通うキャバクラの人気嬢で。

一緒の部屋に泊まれるはずないだろ。


「だから、愛人の私が一緒の部屋なの。普通のことよね」

「むむむむ。そうだな」


納得できた訳ではないが、納得できるはずもないが。


「じゃ、私、お風呂入るわね」

「ああ」

「一緒に入る?」

「ふざけるな!」


美波さんは、うふふと言って風呂に入った。

そのお風呂もヤバイんだ。

ジャグジー付きの露天風呂なんだか、ドアも壁もガラス製。

良く見えるんだ。


美波さんの後に俺が入る。

肌ざわりが良いバスローブに着替える。


「ね。そろそろ、寝ましょうよ。一緒に」

「いや、ベッドは2つあるから別々でいいだろう」

「愛人なのに。一緒にじゃないの?」

「ふたりきりの時は、愛人演技はいらないぞ」

「冷たいのね」


どうも、美波さんは、本気で俺の愛人の座を狙っているらしい。

まぁ、贅沢が大好きっていうのだから、わからんでもないが。


今はそれぞれ別のベッドに寝転んでいる。


「じゃ、お話はいい?」

「ああ。まだ、眠くないからな」

「私、贅沢が好きなの」

「知っている」

「そう」


一緒に行動してみて、本当に贅沢が好きなんだな、感心したくらいだ。

それも迷いがないくらいに。


贅沢するために愛人になる。

別に悪いことじゃない。


俺は気楽に生きるために、恋人も結婚もあきらめていた。


恋愛とお金と人生と。

それぞれ、自分の望む道を歩くのは自由だ。


「なぜ、愛人をまだやっていないのか?」

「なんでかな。愛したいと思う男がいなかった、なんて青臭いことは言わないわ」

「だな。愛人だからな。愛が必要だとは思わないが」

「ふふ。そういうの、理解あるのね」


恋愛は俺にとって、手が届かないもの。

いくら使ってもなくならない財布を持った今も、変わっていないかもな。


「俺は愛が分からないからな」

「でしょうね。見ていて思うわ。あなたは誰も愛したりしないって」

「そうみえるか」

「だからと言って、お金やビジネスを愛しているタイプでもないのよね」

「そうみえるか」

「もしかして。ゲイとか」

「それはないな」


恋愛経験はないけど、男より女が好きだぞ。

それは間違いないな。


「ちょっと大樹さんみたいなのが好みなのかなと」

「それはないな」

「よかった。そっちだと、どうしようもなかったから」

「どうしようと思っているんだい?」

「ふふふ。愛人にしてもらおうと思っているのよ」

「それはどうかな」

「本当よ。あなたなら愛人になりたいわ」

「贅沢できるからか」

「それもあるわ」


それだけじゃないと?

まさか、愛してしまったとか。

ないな。


「ほかには?」

「見てみたくなったの」

「何を」

「あなたのこれからを」


どういうことだ?

俺がどれだけバカなことに金を使うことをか。


「俺はひとりでいい」

「分かっているわ。あなたがパートナーをもとめていないって」

「なら、愛人はいらないだろう」

「でも、性欲はあるでしょ」


ドキッ。

そこを突いてくるのか。油断できないな。


「あるさ。だが、俺だって抑えることはできるさ」


なんと言っても30年近く。

抑え続けてきたんだからな。


「いいじゃない。抑えなくって。あなたの独りでいたいって気持ちは尊重するわ」

「なんだ? 都合のいい女になるっていうのか?」

「別に身体でどうこうしようとするほど、浅ましくないってこと」


分からないな。

身体と金銭のトレードじゃないのか、愛人って。


「あなたの近くにいたいだけ。あなたを見ていたいだけ」

「それでいいのか?」

「もちろん、私が邪魔でない時だけでいいのよ」

「それでいいのか?」

「いいの。惚れてしまったんだから」

「おいおい。信じると思うのか?」

「難しい話はおしまい。男と女が一緒の部屋にいるのよ。やることはひとつよ」


うわっ、美波さんに押し倒されてしまった。

美波さんの唇が触れる。

どうしよう。頭が回らない。もういいか。


先のことを考えても仕方ない。

今は欲望に身を任せてしまえ。


熱い夜が始まった。


そして、終わった後。

俺は賢者になった。


その賢者タイムに美波さんに言われた。


「もしかして、経験不足?」

「そ、そうか?」


ありゃ、バレた。

そりゃ、そうか。美波さんは経験豊富だろうからな。


「なんだ、そんなこと気にしていたのね」

「そ、そう、かも」

「いいのよ。これからいろんな女性で経験するんだから」

「そうなのか」

「そうよ。だって、私が惚れた男は他の女が黙っているはずないもの」

「そうなのか」


疑問だらけだ。でも。


賢者タイムが終わった。

続きが始まった。


あーあ、やっちゃった。

美波さんが愛人になりました。


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[一言] 自称愛人が愛人にジョブチェンジした。
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