第59話 俺は転生することなしに賢者になった
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「なんで、美波さんが俺の部屋にいるんだ?」
「だって、しょうがないじゃない。トライアイドルの6人もここにいるんだから」
最初、トライアイドルは民宿に泊まる予定だった。
ところがファンがすごすぎて、民宿じゃ危険だとマネージャー代わりの美咲さんが言ってきた。
「ちょうど、いいじゃない。今、いるところはベッドルーム4つあって、それぞれベッド2つあるんだから」
「人数的にはそうだな」
「じゃあ、何? みゆちゃんと一緒の部屋がいいの?」
「じょ、冗談はよせ!」
みゆちゃんはアイドルで、俺が通うキャバクラの人気嬢で。
一緒の部屋に泊まれるはずないだろ。
「だから、愛人の私が一緒の部屋なの。普通のことよね」
「むむむむ。そうだな」
納得できた訳ではないが、納得できるはずもないが。
「じゃ、私、お風呂入るわね」
「ああ」
「一緒に入る?」
「ふざけるな!」
美波さんは、うふふと言って風呂に入った。
そのお風呂もヤバイんだ。
ジャグジー付きの露天風呂なんだか、ドアも壁もガラス製。
良く見えるんだ。
美波さんの後に俺が入る。
肌ざわりが良いバスローブに着替える。
「ね。そろそろ、寝ましょうよ。一緒に」
「いや、ベッドは2つあるから別々でいいだろう」
「愛人なのに。一緒にじゃないの?」
「ふたりきりの時は、愛人演技はいらないぞ」
「冷たいのね」
どうも、美波さんは、本気で俺の愛人の座を狙っているらしい。
まぁ、贅沢が大好きっていうのだから、わからんでもないが。
今はそれぞれ別のベッドに寝転んでいる。
「じゃ、お話はいい?」
「ああ。まだ、眠くないからな」
「私、贅沢が好きなの」
「知っている」
「そう」
一緒に行動してみて、本当に贅沢が好きなんだな、感心したくらいだ。
それも迷いがないくらいに。
贅沢するために愛人になる。
別に悪いことじゃない。
俺は気楽に生きるために、恋人も結婚もあきらめていた。
恋愛とお金と人生と。
それぞれ、自分の望む道を歩くのは自由だ。
「なぜ、愛人をまだやっていないのか?」
「なんでかな。愛したいと思う男がいなかった、なんて青臭いことは言わないわ」
「だな。愛人だからな。愛が必要だとは思わないが」
「ふふ。そういうの、理解あるのね」
恋愛は俺にとって、手が届かないもの。
いくら使ってもなくならない財布を持った今も、変わっていないかもな。
「俺は愛が分からないからな」
「でしょうね。見ていて思うわ。あなたは誰も愛したりしないって」
「そうみえるか」
「だからと言って、お金やビジネスを愛しているタイプでもないのよね」
「そうみえるか」
「もしかして。ゲイとか」
「それはないな」
恋愛経験はないけど、男より女が好きだぞ。
それは間違いないな。
「ちょっと大樹さんみたいなのが好みなのかなと」
「それはないな」
「よかった。そっちだと、どうしようもなかったから」
「どうしようと思っているんだい?」
「ふふふ。愛人にしてもらおうと思っているのよ」
「それはどうかな」
「本当よ。あなたなら愛人になりたいわ」
「贅沢できるからか」
「それもあるわ」
それだけじゃないと?
まさか、愛してしまったとか。
ないな。
「ほかには?」
「見てみたくなったの」
「何を」
「あなたのこれからを」
どういうことだ?
俺がどれだけバカなことに金を使うことをか。
「俺はひとりでいい」
「分かっているわ。あなたがパートナーをもとめていないって」
「なら、愛人はいらないだろう」
「でも、性欲はあるでしょ」
ドキッ。
そこを突いてくるのか。油断できないな。
「あるさ。だが、俺だって抑えることはできるさ」
なんと言っても30年近く。
抑え続けてきたんだからな。
「いいじゃない。抑えなくって。あなたの独りでいたいって気持ちは尊重するわ」
「なんだ? 都合のいい女になるっていうのか?」
「別に身体でどうこうしようとするほど、浅ましくないってこと」
分からないな。
身体と金銭のトレードじゃないのか、愛人って。
「あなたの近くにいたいだけ。あなたを見ていたいだけ」
「それでいいのか?」
「もちろん、私が邪魔でない時だけでいいのよ」
「それでいいのか?」
「いいの。惚れてしまったんだから」
「おいおい。信じると思うのか?」
「難しい話はおしまい。男と女が一緒の部屋にいるのよ。やることはひとつよ」
うわっ、美波さんに押し倒されてしまった。
美波さんの唇が触れる。
どうしよう。頭が回らない。もういいか。
先のことを考えても仕方ない。
今は欲望に身を任せてしまえ。
熱い夜が始まった。
そして、終わった後。
俺は賢者になった。
その賢者タイムに美波さんに言われた。
「もしかして、経験不足?」
「そ、そうか?」
ありゃ、バレた。
そりゃ、そうか。美波さんは経験豊富だろうからな。
「なんだ、そんなこと気にしていたのね」
「そ、そう、かも」
「いいのよ。これからいろんな女性で経験するんだから」
「そうなのか」
「そうよ。だって、私が惚れた男は他の女が黙っているはずないもの」
「そうなのか」
疑問だらけだ。でも。
賢者タイムが終わった。
続きが始まった。
あーあ、やっちゃった。
美波さんが愛人になりました。




