第53話 俺は闇金を引き寄せる力があるのかも
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「今日、返してくれると言っていたじゃないの」
宮古島に来ているのに、なぜか闇金の人と出会ってしまった。
今度は本当に通りがかり闇金だ。
「もしかして、お前たちは闇金なのか」
天然の出会いに感動してつい言ってしまった。
「はぁ? なんだ、お前。こいつとはどんな関係だ?」
「これからな。ダイビングに連れて行ってもらう予定なのだ」
「あー。ダイビングの客か。民宿の客がいないから、こうやって別の所の客で仕事をしているんだな」
「この方は関係ありません。仕事が終わってから話しますから」
あ、そんなこと言っても引き下がる闇金はないな。
ほら、やっぱり。
怒りだしてしまったぞ。
「待てる訳がないだろう。あぁ? そうだよな、お客さんは大切にしないとな。俺たちが暴れて困るのは誰だろうな?」
あんまり、俺は困らないんだが。
そう言うと混乱させてしまうだろうから、分かりやすい反応をしてやろう。
「やめてくれ。こいつは困っているではないか」
「なんだと、お前。お客かなんだか知らんけどな。俺たちの仕事を邪魔するなら承知しないぞ」
「邪魔をする気はないぞ」
「邪魔する気はないだと? だったら、さっさとここからいなくなれよ」
「そうはいかないな」
せっかくの天然な闇金取り立てだ。
ちゃんと対応しないと、もったいないじゃないか。
「ほぅ。それではお前が代わりに払ってくれるということか?」
「無理言わないでください。この方は関係ないんですから」
「それで、この男の借金はいくらだ?」
俺のことをじろじろと見ていやがる。
値踏みしているという奴か。
「100万だ、今日100万もらわければ俺たちは絶対に帰らないぞ」
「ちょっと待ってくださいよ。50万じゃないですか」
「いいぞ。100万円払うぞ」
「「えっ」」
おっ、ハモった。
立場は違うけど、驚きは一緒らしい。
「あの。100万円ですよ。まさか本当に払っていただけるんですか?」
あれ、いきなり言葉使いが丁寧になったな、闇金男よ。
それだと闇金らしくないな。
「ほら、100万円だ」
「「ええーーーっ」」
また、ハモった。
面白いな、このふたり。
「す、すみません。たて替えてもらうのは…」
「なんだ?」
「すぐには返せないと思います。必ず返します。ただ」
「別にいいぞ」
返せるかどうか、気にしているみたいだな。
「まずは、この100万円を手に持て」
「あ、はい」
「で、次は闇金のおまえ」
「はい。なんでしょう?」
「その100万円を受け取る」
「はぁ」
うん、これで返済が完了だ。
「ちゃんと借用書を返すように」
「あ、はい」
「はい。助かりました」
礼儀正しい闇金は借用書を出して手渡している。
これでオッケーだな。
予定はなかったが、人助けができたな。
あ、男を助けたのは初めてだ。
「では、お前らは用事が済んだのなら帰れよ」
「もちろんです。お騒がせしました」
よし。揉め事は無くなったし、人助けもできた。
「ありがとうございます。なんと言ったらいいのか」
「気にするな。それよりも楽しいダイビングを頼むぞ」
「それはもちろんです」
うん、これでダイビングインストラクターの友人ができた。
スーパーの時に思ったんだが、借金を返してあげると、いきなり協力的になる。
こちらの求めることは喜んで対応してくれる。
実に便利だ。
この宮古島においても、そういう友人ができたことは嬉しいことだ。
さて、友人もできたことだし。
後はダイビングで美しい海の中を楽しむだけだ。
どこでも人助けは楽しいことだぞ。




