第50話 俺はブラックカードを初めて見た
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「どうかしら? 愛人のいる生活って?」
愛人のいる生活。
贅沢な空間で、美女の愛人と一緒にいる。
1日ふたりでぼーっとして過ごした。
いちゃいちゃしたり。
昔話を語りあったり。
まったりした時間が過ぎていく。
「たしかにな。贅沢なものかも。愛人がいるというのは」
「でしょう。これからもずーっと愛人がいたら、どうかしら」
愛は金で買えるのか。
そんな難しいことを考える気はない。
しかし、居心地のいい関係の愛人なら、金で買える。
それを美波さんはお試し体験させてくれた。
「私ね。悠斗さんといると気持ち良い。愛人になりたいって、今は本気で思っているの」
「それもありかも」
「本当?」
「美波さんも生活を保つために無理しなくても良くなるしな」
美波さんが俺の愛人になるためには、月100万円の御手当がいると言っている。
もちろん、俺には全く余裕だ。
だけど、愛を金で買うような気がして、どうしても愛人というものが納得できないでいる。
やはり俺は頭が堅いのか。
「ね、そうでしょ。お互い良い関係が作れると思わない?」
「微妙だな」
「な、なんでよ!」
あ、怒った。というより、怒ったふりだな。
お試し愛人は、実に気配りをした反応をする。
単なるエスコートだと温かみを感じないが、お試し愛人は違う。
ふたりの間に不思議な温かみを感じる。
「まぁ、いいわ。まだまだ6日間はあるからね。焦らずにいきましょう」
「そうだな」
そんな話をして、いちゃいちゃしていたら。
外はだんだんと暗くなってきた。
「さて。飯でも食いにいくか」
「いいわね」
ここでは部屋に食事を運んでもらうこともできる。
もちろんキッチンはあるから、料理をするために必要な物は揃っている。
しかし、今日はレストランで食べるとするか。
俺たちがいる邸宅は、さすがにレストランはない。
レストランは横にある普通のスイートルームが集まった棟の1階だ。
受付ロビーがあるのもそこだ。
俺たちがレストランに行くためにロビーに近づくと、なにやら声がしてくる。
「だからな。俺はな。一番いい部屋に今日泊まりたいんだ。分かってくれないかな」
「すみません。あいにく、そのお部屋は……」
フロントのホテルマンが困ったような顔をしている。
「だからな。その部屋から客を追い出せばいいだけだろう」
「そういう訳には……」
一番良い部屋か。
きっと俺たちの部屋のことを言っているのだろう。
「そういう訳にいかせてくれよ。このブラックカードがあるんだからさ」
「ブラックカードでも他のお客さんの迷惑なことは……」
どうも、お金持ちが無理を言っているシーンだな。
そのお金持ちを見た美波さんの顔が変化する。
「あいつ。私、知っているわ」
「そうなのか?」
「さっき話したわね。困ったお金持ちのボンボンよ」
あ、あいつなのか。
親の金をひけらかしていい気になる奴だな。
そいつも女連れか。
愛人か、それとも、エスコートコンパニオンか。
そんなものに感じる。
しかし、その女もそうだが、あの男の持ち物も品がない感じもするな。
最近は一流のグッズや一流の人たちに囲まれている。
だんだんと俺も、一流かどうかが感覚的にわかるようになってきている。
その目であいつの連れの女を見ると、どう見ても美波さんより格が下だ。
「どうするか。避けて通るか?」
「面白いわ。挨拶しましょう」
なんか、美波さん。
闘争心に火がついてないか?
「そうか。ロビーの人が困っているし。行くぞ」
駄目そうな奴がブラックカードを持って現れた。




